第133話 令嬢は色々と残念

 モンスターは大量の魔石を残して消えている。お兄様の防護魔法には魔石の補助が必要だし、ここに在庫はどれくらいあるのだろう?

 あればあるほどいいよね?


「ついでに魔石も集める?」


 デポラに聞いてみる。


「今の状態と人数で、壁から下りるのは許可しないわよ」


 壁から下りる気は元々無い。危ないし、何より自分じゃ上がれないし。


「ここから集められるよ?」


 見てもらった方が早いと思って魔法を展開する。


 重力魔法を応用して、私の空間収納へ魔石を吸い寄せる。

 ダンジョンではモンスターを倒した後の魔石集めに時間がかかるので、時短目的でこの魔法を開発した。


 お兄様の防護魔法を補助するのにいい魔石があるといいんだけど。

 じゃんじゃかじゃかじゃかじゃんじゃかじゃかじゃか。量が多くていつもより数倍楽しいです。


「どうやってるんスか?」


「重力魔法の応用だよ。磁石みたいなイメージで、魔石の魔力を引っ付けてるの」


 クリスに聞かれたのでドヤ顔で答えたが、天才クリスも直ぐに出来るようになると思う。

 サムを救ったあの魔法とイメージは似てると思うんだよね。


「……」


「クリス、真似しようとしちゃダメよ。魔力の選別が確実にできないと、モンスターも私たちも引っ張られるってことよ」


 空間収納に入った生き物は、何故かことごとく行方不明になる。怖いよねぇ。そんな事にはならないぜ!


「そう、でスよね、やっぱり……」


「クリス様なら出来るよ。魔力感知の簡単な応用だし」


「……」


 クリスから返事が無い。代わりにジョージが褒めてくれた。


「エルちゃんは天才だな!!」


「やだぁ、ジョージさん! もっと言って~」


 僅かに残ったモンスターをクリスが排除しつつ、元のところまで戻った。

 壁から下りる時も変な態勢で受け止めてもらったが、最早何も言うまい。


 屋敷に戻ると食事の準備が始まっていた。イザーク様が空間収納から出したのだろう。

 手伝おうとしたらとんでもないと断られたので、私たちはギルド員たちのところへ合流した。クリスは別行動。


「みんなお疲れ~」


「デポラ様もエルちゃんもお疲れ」


「周囲はどうだった?」


「とりあえず一掃は出来たと思うわ」


「さすがデポラ嬢!!」


 ジョンがうっきうきだとわかる状態でデポラに絡みにいった。多分、今ダーリンがいないからだと思う。

 ある意味今はチャンス。


「違うわ。エルよ。ほぼ一人で殲滅したの。私はついていっただけね」


「エルちゃんは天才だな!!」


「やだぁ、トムさん! もっと言って~」


「よしよし、凄いぞ!」


 頭をくしゃくしゃに撫でてもらった。えへへ。褒められると嬉しい。

 そのまま雑談になった。


「そういやエルちゃん、途中で馬の上に立ってただろ。あれどうやったんだ?」


「あー、あれは馬の背中に板があるイメージ?」


「板……? 衝撃を吸収する的な? 安定してたよな?」


「そうそう。板が馬に追尾する感じ? その上に乗っていたから、馬の揺れとは連動しないの」


「相変わらずほぼ疑問形だな」


「説明がねぇ、上達しないみたいで」


「だな。アム、解説してくれよ」


「いや、今のでは無理だろ。あのサムを助けた魔法も知りたいな」


「あ、あれ私聞いたよー。魔力をびよーんってして、くっつく様にしたんだって! 可視化したのは引っ張られる人が対応出来るようにって」


「……びよーん……」


 アムの目が遠くなった。何で。


「エルちゃん、教えてくれた人はどう説明してくれたんだ?」


 ジョンに言われて思い出しながら答える。


「えっと、手元のゴムを思いっ切り伸ばす感じで、伸ばした先をサムにくっつけて、伸ばすのをやめたら戻って来る、だったかな」


 見てタイミングを合わせて伸ばすと言っていたから、私の運動神経ではちょっと難しそう。

 自動でくっつくようにしたいが、強い力がかかるので、適当にくっつけると怪我を誘発すると言われた。


 デポラがもっと詳しく話だし、皆が真剣に話を聞き出した。

 聞いた話だしとちょっとぼんやりしていたら、イザーク様とお兄様がこちらに向かって歩いて来たのが見えた。


「お兄ちゃ~ん! さっき魔石を集めたんだけど、使えるのある?」


 駆け寄って、イザーク様と抱擁。


 つい、両手を広げられると飛び込んじゃう。元気で良かった。

 元気そうなのに安心してついついぎゅっと抱きついたら、お兄様にイザーク様が頭をはたかれていた。

 お兄様、理不尽。今のは確実に私からだ。


「どれくらいあるの?」


「量だけは一杯」


 手振りで一杯を表現してみる。


「そう。誰かに選別を手伝ってもらって、俺たちは先に食事にしようか」


 お兄様が近くにいた人に頼んで、入れ物を用意してもらった。

 そこに空間収納から重力魔法を利用して、先ほど集めた魔石をじゃらじゃら注ぎ込んだ。


「何て量だ。どうやって……?」


 入れ物を用意してくれた人たちに凄く驚かれているけれど、満足するまでいっぱい誉めてもらったし、気分がもうご飯。褒めてくれなくても、もう大丈夫です。


「壁沿いにいたモンスターの分ですよ」


 いいにおい。これはノーラが作った気がする。お腹がかなり空いていたみたい。よだれがでそう。


「終わった? 行こうか」


 お兄様に促されて適当にテーブルに座って、デポラたちと一緒に食事を始めた。やっぱりこの味はノーラだな。

 皆が今後のことを真剣に話し合っているが、あまり耳に入ってこない。

 美味しい料理を食べていたら、凄く眠くなってきた。まだ食べたいけど、眠い……。


 ……。


「エル!?」

「ま?????」


 誰かが何かを言っているけれど、もうわからない。

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