妖精村の事件概要を聴取せよ1

 シャロさんの言う通り、今日も妖精の方が訪ねて来た。

「すみません。あの、名探偵さんがここにいるって聞いて来たのですが……」

「いかにもワタシの事だが?」

それを聞くと妖精の方は、必死な表情になり、懇願した。

「お願いします。どうか、どうか事件解決を……」

「……はぁ。」

とシャロさんは、ため息を一つ吐いて、こう告げた。

「解決、できるかは分からないが、話を聞くことはしてあげよう」

「本当ですか! ありがとうございます!」

顔を上げて晴れやかな表情になる妖精の方。今日は女性で、フィクィさんよりは歳上にみえる。

ボクはこれまで来た人達も皆、年齢や容姿に共通点はなく、バラバラだったのを思い出す。

「では、どうぞ。」

シャロさんが促すと、妖精の方は話し始めるのだった。


「最初の事件は、ある家の女の子が、両親の目が離れた隙に村を出ていってしまったのです。」

「たしか、妖精の村は【一日に一回しか門は開かない】はずだったが?」

「……はい。毎日の物資受け取りの際のみ開くのですが。元々外の世界に興味があったらしく、門が開く度に、外へ出るタイミングを狙っていた様なのです。」

「それで、すぐに両親が気付いたんじゃないんだろう?」

 妖精の方はシャロさんの指摘に、言いづらそうに続ける。

「はい。その両親が気付いたのは翌朝でした。その後、村内を必死に探したのですが見つからず、外へ出たのだと確信致しまして。」

「あの、質問いいですか?」

ボクは手を軽く挙げて、質問の許可を取る。

「あの、こちらの方は……?」

同席はしていたが紹介されてないため、急な発言に驚かせてしまった。

「あ、ボクは──」

「ワタシの助手さ。紹介が遅くなってしまって悪いが、今回主に事件解決するのは彼だよ。なんだい、トワソン君?」

ボクの自己紹介に被せてきた上、とんでもない事実をさらっと告げるシャロさんに、質問より先に突っ込んでしまう。

「え、事件解決するのはボクってどういう──」

「質問は、それじゃないだろう?」

客がいる手前だからなのか、笑顔のまま圧をかけてくるシャロさん。普通に怒るよりも怖いソレを目の当たりにして、ボクは萎縮する。

「あ、ハイ。えっと、その一日に一回しか門は開かない。というのは、時間帯とかは決まってるんですか?」

「そうですね。日と日の境目、それも決まった受け取りのみなので、とても短時間です。ですからそう簡単には出れないはずなんですけど……」

「子供の好奇心というのは、大人の予想を遥かに超えるものさ。そして、たとえ受取人がそれに気づいたとしても、追うことはないんだろう?」

「え?」

「……そう、ですね。」

「なんで追うことはない。のですか?」

「それは……」

妖精の方は言葉を詰まらせた。その様子を見てシャロさんが代わりに答えた。

「それは、ワタシが後で教えてあげよう。とりあえず、子供が勝手に村から出てしまった。のだろう? その後どうしたんだ?」


「まず、その両親が、次に門が開いた時、探しに出ていってしまったのです。」

「なるほど……」

 シャロさんは小声でそう発し、勝手に一人で納得していたが、妖精の方には続けてもらっていた。

「それで、外を必死に探したのですが見つからず。一度、村へ帰ってきたのです。」

「そこで、二つ目の事件。か」

「え……?」

「……仰る通りです。私共はそちらの事件解決のために、依頼に来ました。」

「女の子を探してほしいわけではないのですか?」

「それよりもこっちの事件のほうが、彼らにとって重要だからだよ。」

「まぁ、そういうことです。両親が外から帰ってきたのはいいのですが、村に入るなり、突然発狂し、家に閉じこもってしまいました。」

「………………」

「私共は何があったのか心配になり、家に入ろうとしても許されず、それから一切家を出てくることはなかったのです。」

「それって……」

ボクは聞きながら嫌な予感がしていた。

「数日後、私共がその家に入れた時。その二人は餓死して亡くなっていました。」

「っ!」

嫌な予感はあたり、全身から血の気が引いていくのが分かった。

驚愕したボクは、シャロさんの方を見たが、また一切の動揺もしていない様子で、そこにも軽く恐怖を覚える。

「まぁでもそれだけじゃ君達はまだ動かないだろう?」

「?」

シャロさんが何を言っているのか分からなかったが、妖精の方は頷き、事件の続きを話した。

「たしかに疑問は皆持っていましたが、その両親だけがそのような事態になったことでは、私共は貴女の元へ来ません。」

「つまり、続いたんだね?」

「……はい」


 妖精の方の表情は険しくなって、さらに現状を話す。

「次は、その両親の血縁者が村を出ました。女の子を探しに行くと同時に、外で何があったのか疑問に思ったためです。」

「それで、その血縁者も村に帰ってきたら発狂し、閉じこもり、餓死したと。」

結末を簡易的にまとめたシャロさんに、若干怪訝そうな顔をした妖精の方だったが、

「そうです。それでまた……」

と、これまでに何人も連続でそんなことが起こった。と伝えるのだった。

「で、そんな中でも外の情報を少しずつ仕入れ、ワタシの元へ辿り着いた。と」

「……はい」

「ワタシの元へ来た奴らも、村に帰った後、例に漏れず全員発狂し、閉じこもってるんだろう? 君もよく来るよね」

「全員……?」

(フィクィさんも?)

ボクは唯一、直接会話したフィクィさんの身を案ずる。

「わ、私だって怖いですよ! でも今日こそ解決しなければ、いずれ村が滅びます!」

妖精の方は震えた声で叫びだした。

「ま、そうだろうね。」

相手の不安を煽るような言い方で、言い切るシャロさん。それを聞いてふるふると怒りを抑えているのか、妖精の方は我慢して訊ねる。

「では、私達はどうすれば良いのですか!? こんな意味がわからない連続餓死事件が起きて、不安でしょうがないんですよ? 解決策がわかるなら、早くそれを教え──」

「シィーーーー」

シャロさんは、そう音を鳴らしながら人差し指を口元で立てた。

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