妖精の噂を証明せよ2

 シャロさんに用事があるらしい妖精さんと、行き先は同じなので屋敷まで一緒に行くことになった。

「この付近には人がなかなか居なくて。助かりました。」

「ボクも、行き先は同じなので。」

「都市シェカントの方は、騎士達が取り囲んでいて、僕のこの姿じゃ捕まりかねないので……」

「不審人物として挙がっていたのって……?」

「たぶん、僕のことでしょうね」

そう言って悲しげな表情を浮かべる。

「でも、なんで妖精がダメなんですか……? 珍しいからと言って捕まえることはないんじゃ……?」

「……それは、……いえ。僕は、あなたみたいな偏見のない方と出会えて本当に良かったです。」

彼は理由を言いかけたが、やめ、にこやかに感謝を伝えるだけだった。

「……? あ、そうだ。ボクはエインです。探偵……シャロさん達には違う呼び名で呼ばれたりしているんですが……」

「僕は『フィクィ』と申します。お見知りおきを。」

そう言ってフィクィさんは、これまた丁寧に会釈するのだった。


 ボクは道中、彼の羽根が気になってしょうがなかった。

「あの、一つ聞いてもいいですか……?」

「どうぞ」

「その、羽根が生えているということは、飛べるんですよね? 飛んだ方が移動速度が速かったりするんじゃないですか?」

「……そう、ですね。でも決まりなので。」

「決まり……?」

「村の掟。といえば分かりやすいでしょうか。【村の外で飛んではならない】というものがありまして」

「そうなんですね。それを破ったら、やはり罰則等があったりするんでしょうか?」

ボクはただ興味本位だった。こんな綺麗な羽根が、広げられずに折り畳まれ、仕舞われているのはとても不思議に思えたからだ。

「どうなんでしょうか? 僕には分かりません。そういった話も、聞いたことはないですし。」

困り顔で軽く微笑むフィクィさん。その解答はスッキリとしなかったけれど、そういうものなのかとボクは納得する。

「あ、そろそろですよ。この庭の先に屋敷があって、そこが……」

そう言いながら、フィクィさんの方を振り向くと、なにやら彼は考え込んでしまっていた。

「フィクィさん……?」

「あ、いえ、すみません。……エインさん」

「はい?」

「確かに、飛んではならない。という掟はありますが、羽根を広げてはならない。とは言われたことがありません。……連れてきてくれたお礼に、広げて見せるだけなら、お見せしましょうか?」

「……いいんですか?」

ボクは彼の提案に興味をそそられる。

「先程からすごく興味がありそうでしたので。そんなことで良ければ。」

エアちゃんの好奇心が移ってきてしまったのだろうか? 他人から見てもその好奇心が分かられるのは恥ずかしいことだったが、折角なので見せてもらうことにした。


 幸い、屋敷の庭は広いため、羽根を広げるにはもってこいの場所ともいえる。

「では。」

フィクィさんはそう静かに言うと、自らの羽根を徐々に広げていく。

その立ち姿も様になっていて、広げられた羽根は傾きだした陽の光を吸収し、そこで屈折を起こし、プリズムが出来上がる。

「わぁ……」

ボクは息を呑んだ。

確かに、この羽根は何にも変えられない特別なものなんだろう。色も不思議なくらい次々に変化した。

もしかすると、飛んでいけない理由は、これを奪われてしまうからなのかもしれない。それなら納得だった。と、ボクは勝手に解釈する。

バサッと一度羽ばたきを返し、元のように折り畳み仕舞うフィクィさん。

「すごい……ありがとうございます」

「ふふ、これで喜んでいただけるなら、僕も嬉しいです。」

と優しく微笑んだ。

(みんなが騒々しくなるほど、妖精が珍しい理由は分かったけど。そんな恐がられるような人達には思えないな。むしろ穏やかで、とても親しみやすいと思うけど……)

「じゃあ、ボクは先に入って、シャロさんにお客さんがいることを伝えてきますね」

「ありがとうございます。助かります。」

そう屋敷の入り口でフィクィさんと会話し、ボクは中へ入った。


 そう、そこまでは覚えている。

ただ、扉を開けた先に広がった景色は、ボクが認識していた屋敷の中とは違った。

キーンコーンカーンコーンと何処かで聞き馴染みのある鐘の音が聞こえる。辺りはすっかり夕暮れで、ここは誰もいない教室だった。

「え………………?」

咄嗟に振り返ってもそこは学校の廊下で、ツルリとした地面が異様に見える。

「あれ、ボクは、え? 戻っ……」

「よう、遠崎。どうした?」

そう声をかけられ、教室の中に視線を戻すと、そこには誰もいなかったはずなのに、机に寄っかかっている級友がいた。

「え、遠崎って、ボクのこと……?」

「なんだよ、ゲームのし過ぎか? まぁ確かに今イベント中だもんな。いやでも、そんなのめり込むほどじゃないだろ」

「……………………」

ボクは黙り込んでしまう。正確には驚きすぎて、声すらも出なかった。口は震えながら開いたり閉まったりしているが、混乱のあまり自分の感情すらわからない。

「あ……え? ボクは……え、遠崎八久?」

「おい、ほんと大丈夫かー? お前はどっからどうみても遠崎だろ」

どうみても、と言われ自分の服装を確認する。

「え」

すると、着ていたのは、先程まで着ていたはずのエアちゃん家で借りた異世界用の服ではなく。通っていた学校の制服だった。

「なにが…………」

「? 具合悪いなら一緒に保健室行くか?」

「え、あ、うん……」

ボクはあまりにもその会話の自然さに、流れるようにして従うことになった。

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