第18話 年の功

 セドリックに素振りの仕方を教わることが決まり、俺たちは訓練場の中に入っていった。


 すると、やはりと言うべきか騎士達からの注目を浴びる。

 何事かと戸惑い若干騒いでいるが、セドリックはそんな騎士の反応などお構いなしとばかりに進んでいく。

 そうなると俺も一々説明する必要はないかと思い、セドリックに従い歩いていく。


 騎士達の訓練を妨げないよう、端の方でスペースを取れる場所まで来て止まる。

 するとセドリックは少し待っているように言い、小走りで去っていった。


 少しして戻ってきたセドリックは両手にそれぞれ木剣を携えていた。

 素振りで使用するものを取りに行ったのだろう。


「今回は素振りのみということですので、木剣を用意致しました。どうぞ」


 そう言って俺に片方の木剣を差し出してくる。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、木剣を受け取る。

 すると、



(重い……)


 持つだけならば余裕があるが、それでも想像以上に重いと感じた。

 これを振り回すとなると、中々苦労しそうだ。

 

「重い、ですね」


「ええ、木剣でも少なくない重量があります。ですが、真剣はさらに重いですよ」


 素直な感想を述べると、そう伝えられた。

 木剣でこれだと、真剣などまともに振れるかと心配になるが、そこは鍛えて出来るようになるしかない。

 いや、真剣を振る機会があるかどうかはまだ分からないのだが。


「では、素振りの型をお教えしましょう」


「お願いします」


 

 それからはまずセドリックが剣の型を披露し、俺がそれを再現するという流れだった。

 少しでも正しい型とズレていたら矯正して貰い、正しく振れるようにする。

 

 そして、何個も型を教えて貰った所で、


「一先ずはこのくらいでしょうか。あとはひたすら反復練習あるのみです」


「成程」


 あとはとにかく素振りをして、型を身体に染み込ませるということだろう。


「ですが、なんとなくで振り続けてはいけません。初めは慣れないと思いますが、正確に丁寧に、型を意識して一回一回振ることが大切です」


「分かりました」


 惰性でただ振り続けても意味はないということだろう。

 正確に型をなぞることを意識しなければいけない。


 すると、


「では、これらの型を一度の素振りで、それぞれ百回は行いましょう」


 と、セドリックはそんなことを言った。


(ひゃ、百回……)


 教わった型は全部で十個以上はある。

 つまり一度の素振りで合計で千回以上振り続けなければいけないということだ。


 その数に軽くショックを受けていると、



「おや、どうかしましたかな?……百回が多いようであれば、多少減らしても構いませんが」


 俺の心情を見透かしたかのように、セドリックはそんなことを言ってきた。

 

 

 この人は何も言葉に出していないのに、俺の心情を正確に読み取り過ぎではないだろうか。

 それとも、それだけ俺が表情に出てしまっているのだろうか。あまり表情は豊かではない方だと思っていたが。


「……俺って、そんなに顔に出てますか?」

 

 気になってしまい、ついそんなことを聞いてしまう。

 すると、セドリックは苦笑した後、


「いえ、寧ろ今のラース様はあまり表情には出さない方だと思いますよ。ただ、私ほど無駄に歳を取ると、そういうことが分かってくるものです」


 "今の"とつけた理由は、昔、というより本来のラースは違ったからだろう。

 文字通り人が違うのだから当然だ。


 と、それはともかく、


「成程、そういうものですか」


 と、俺も苦笑しながらそう答える。


 一々顔に出る訳では無いと知って安心したが、セドリック相手では意味が無いと言うことだろう。


「ええ。……それで、どうなさいますか?やはり回数は減らしましょうか?」 


 元々の話の続き。素振りの回数をどうするか、改めてセドリックが尋ねてきた。


 先程はつい驚いてしまったが、その答えはもとより決まっている。


「せっかくセドリックさんが教えて下さっているんです。元の数で構いません」


 そう告げると、セドリックは満足そうにした後、すると今度は悪戯っぽく微笑み、


「では、もっと多めに設定すれば良かったですかな」


 と、そう言った。

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