第7話 着実な一歩

 体型改善のため、運動をしようと決めた。


 そして、頼んだ通りアンナは、軽い素材でいかにも動きやすそうな服を持って来てくれた。


 服を着替え、準備が済んだところでアンナに声を掛ける。


「ありがとう、アンナ。……じゃあ、俺は行ってくるから、離れのことは頼んで良いかな?」


 掃除や洗濯、食事の準備など離れで暮らす上で必要なことは全てアンナがやってくれている。

 

 今後は俺も出来る限り協力しようと思っているが、まずは痩せることを優先目標としたい。


 任せっきりになってしまい申し訳ないが、アンナにそのことを告げると、


「はい。些末事は私に任せて、ラース様はご存分に身体を動かしてきてください」


 と、そんな事を言ってくれる。

 

 献身さの塊であるようなアンナに、最早何度目か分からない感謝の念を抱く。


「本当にありがとう。……夕食までには戻ってくるから」


 そう言い残し、離れを出る。


「頑張って下さいませ、ラース様!」


 アンナの激励を背に受け、頑張ろうという思いがさらに高まった。




 

 前世では、ダイエットの経験はない。

 どうすれば効率的に痩せられるか、そういった知識は持ち合わせていない。


 とはいえ……


(まあ、あんな生活をしていたから太っているだけで、健康的な食事をしてしっかり運動すれば問題ないよな)


 生活スタイルを改め、ちゃんとした生活を送っているだけでも自然と体型は改善されるだろう。


(まあ出来る限り早く痩せたいから、多少の無茶はするつもりだけど)


 可能な限り早く体型改善はしたい。たとえ苦しくとも、少しくらいは無茶を通すべきだろう。


 とは言っても、


(こんな身体だ、いきなり走ったら怪我をするかもしれないし、まずはウォーキングからにした方が良いかな)

 

 ある程度厳しいメニューにするつもりではあるがそれで怪我をしたり、体調をくずしてしまったりしては意味がない。


 この身体がどのくらい動けるか確かめるためにも、まずは歩くことから始めようと考えた。




 

 体型改善の第一歩、準備運動も兼ねてある程度の時間ウォーキングを行ってみたが、流石にこのくらいなら問題は無さそうだ。

 

 しかし、現時点で僅かだが息が上がっている。やはり、前世の感覚とは大分違う。


(身体も温まってきたし、そろそろ本格的に動くか)


 ウォーキングによって身体は温まったし、このくらい動けば、走ったり激しく動いたりしても問題はないだろう。


 という訳で早速ランニングから始める。

 

 令人の頃は、足は特別早くも遅くも無かったが、ラースの体で走ると前世との違いがよく分かる。

 感覚的には割とハイペースで走っているつもりだが、間違いなくとてつもなく遅いだろう。


 そして、ある程度の時間ランニングを続けたが、


「はぁ……はぁ………っ、きっつ」


 大して長時間走った訳でもないのに、信じられないぐらい疲弊している。

 ゼロからのスタートということで、初めは仕方ないかもしれないが、こんな状態では先が思いやられる。


 しかし、その分汗はかいているし身体も非常に温まっている。

 脂肪が燃焼しているような感覚はある。


(少しずつでも良いんだ………とにかく痩せる)


 思いを新たにした所で、簡単な休憩も兼ねて筋トレをすることにした。


 行うのは基本的なものである、腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワットなど。


 今の身体では数回行うだけでも限界の可能性が高いが、何回も小休止を挟みながらでも回数をこなしていくしかない。


(まあ、筋肉は脂肪が溜まっている状態からの方がつきやすいっていうし)


 正確な情報かは分からないが、前世で脂肪を蓄えた状態は筋肉がつきやすいと聞いたことがある。


 そんな風に現状を少しでも良いように考えながら、筋トレを行っていく。


 予想通り、どれも数回行っただけで限界が訪れてしまったが、途切れてしまったとしても少しずつ少しずつ回数を重ねていく。


 それでも各五十回行った所で限界が訪れた。

 これ以上はどんなに頑張っても身体が動かない。


「はぁ……はぁ……とりあえず、……休憩するか」


 別にこの一回の時間で多くやる必要はない。

 長い休憩を挟んで、また同じように繰り返せば良いだけだ。


(想像以上にしんどいな……)


 こんな身体ではきついだろうと思っていたが、一通り終えてみて、想像以上に苦しい。


 

 だが、それでも、


(やるしかないよな)


 イメージ払拭のための第一歩だ。こんなところで躓く訳にはいかない。

 

 それに、雑事をアンナに全て押し付けて来ているのだ、いくら辛くても途中で投げ出すことなど出来るはずがない。



(……もう一セット)


 

 その後は一回目の倍掛かったのではないかと思うほど時間が掛かったが、なんとか先程と同じメニューを消化することが出来た。



 二回目を終わらせた後、また長い休憩を挟み三セット目を行っている途中で、僅かに辺りが暗くなっていることに気付いた。


 そろそろ日が暮れ出しているということだろう。


(……潮時か)


 時刻は夕方に差し掛かっているし、身体的にももはや限界をとっくに超えている。


 まだやりたい気持ちもあったが、こういうことは日々の継続が大切だし、初日としては十分な成果だろう。


 ここで切り上げることに決めた俺は、離れの中に戻り、まずは汗を流そうと考えた。

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