第5話 新たな一面
いきなり一緒に食事をしようと言い出してしまったため、アンナの分はあるだろうかと思ったが、どうやら俺の分と一緒に作っていたらしい。
アンナは俺の対面の席に座り、
「では、私も頂きますね」
貴族と一緒に食事を取ることになど慣れていないからか、アンナの様子は少しぎこちなかった。
(まあ、徐々に慣れてもらうしかないか)
今後も基本的にはアンナと共に食事を取るつもりなので、回数を重ねれば自然になるだろう。
そんなことを考えつつ、あることを思い出した。
「そうだ、このサンドイッチの前に作っていたものは、もう捨ててしまったかな?」
アンナがあらかじめ作ってくれていた料理をどうしたのかを尋ねると、
「いえ、どうしようかと考えていましたが、捨ててはいませんよ」
と、少し不思議そうにしながら答えてくれた。
ラースが食べていたような料理をアンナが食べるとは思えないし、どう処分するか悩んでいたみたいだ。
でも、捨ててなくて良かった。
「なら、それも食べさせてもらうよ」
そう告げると、アンナは少し驚いた。
「いえ、しかし……今のラース様が望まれているような品ではないかと存じますが」
今までいつもラースが食べてきた料理だが、改心した俺が望んでいるものではないと、アンナなりに理解してくれたのだろう。
しかし、
「急に態度を変えて困らせてしまったし、アンナは俺がいつも食べていた品を作ってくれていたんだろう?」
普段、俺が作れと言っていた品だ。
アンナは善意で料理を変えてくれたが、その料理も俺が食べるべきだろう。
「いえ、私が勝手に作る品を変えただけですので」
尚もアンナは食い下がってくるが、
「そうだとしても、アンナが折角作ってくれたんだ。それだけでも食べる理由になるよ」
これ以上アンナが気を遣わないように、さっさと取りに行ってしまおう。
「調理場に置いてあるかな?」
立ち上がりながら、そう尋ねる。
「はい………っ、私が取って参ります!」
俺の問いかけに反射的に答えてしまったが、一瞬遅れて自分が取りに行こうとするアンナ。
「いいから」
そう告げて、早めに調理場へと歩き出す。
アンナは諦めたのか、椅子に座り直していた。
もう一つの料理を持ってきて席に着き、その料理を口に運ぶ。
味の濃いこってりとしたもので、こんなものを毎日食べていれば、太るだろうなと感じた。
「うん、これも美味しいよ」
嘘を言っている訳ではない。正直あまり食べたいとは思わないが、不味い訳ではない。
「ありがとうございます。……でも、よろしかったのですか?」
俺がこの料理を食べていることが心配なのか、そう尋ねてくるアンナ。
「ああ、大丈夫だよ。……でも、こういった料理はもう食べるのはやめようと思っているよ」
「え!?」
アンナは俺の言葉に衝撃を受けた顔をする。
しまった、この料理が不味いと言っているように思われただろうか。
「いや、この料理が悪いと言っている訳ではないよ。ただ、今後真面目に生活すると決めたし、もっとちゃんとした食事を取ろうと思って……」
弁明をしようと慌てて理由を話すが、アンナは心ここに有らずといった様子で固まっていた。
しかし、
「……それでは、これからは健康的なお食事を用意してよろしいのですかっ?」
バッと顔を上げ、身を乗り出しながらそう尋ねてくる。
「う、うん。作ってくれるのなら、そうしてくれるとありがたいかな」
アンナに勢いよく尋ねられ、若干気圧されながらもそう答える。
すると、
「良かったです!ラース様がちゃんとした食事を召し上がらないこと、ずっと心配だったので!これからは栄養満点の食事をお作りします!」
どうやら、先ほど驚いていたのは俺が健康的な食事を取ることを喜んでいたらしい。
今までにないくらいのテンションになっているアンナを見て、……俺はただ感謝をしていた。
(本当にラースのこと、気遣ってくれるんだな)
俺の身体を気遣い、ここまで喜んでくれるアンナを見て嬉しさが込み上げてくる。
「うん、ありがとう。お願いするよ。ただ、毎回作ってもらうのも申し訳ないし、俺も自分で作ろうと思っているんだけど……」
アンナ一人に押し付けるのは、流石に申し訳ないため俺も協力する旨を伝えようとすると、
「いえ!お食事は私がお作りします!今回はあまり時間を掛けられなかったので、簡単なサンドイッチにしましたが、これからはもっと美味しくて、栄養価も高い料理を召し上がって頂きます!」
これまでのアンナなら、俺にそんなことをさせるのは恐れ多いといった感じで断ると思ったが、料理は自分で作りたいからという感じで断ってきた。
これには流石に驚き、目を丸くしてしまう。
(料理好き、なのかな……)
ここまで言われてしまうと、食い下がることも出来ず素直にお願いしてしまう。
「わ、分かった。じゃあ、アンナに全て任せるよ」
「はいっ!」
先程の鬼気迫る雰囲気から、これから料理に関してはアンナに逆らわない方が良いと感じた。
だがそれ以上に、アンナの新しい一面を知れたことが嬉しく、思わず頬が緩んだ。
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