この最低な世界で俺は今日も奴隷となる
@belet
終わりと始まり
「およそ二週間ほど前に行方不明となった『川宮雪人』さんについての続報です。 警察の調査により、市内のとあるアパートに監禁されていると判明しました。 今日中にも逮捕令状を取り、そのアパートへ…………」
カーテンの隙間から入り込む陽の光以外で、唯一の明かりである液晶テレビの電光が俺の瞳を怪しく照らしている。
テレビに若干映る自分の顔は死を思わせるばかりだ。
それもそうだろう。
なにしろ、俺は…………俺こと川宮雪人は今現在……。
「なんで……! なんでバレたのよ! 川宮くんを拉致してから、バレないようにうまく隠してたのに!」
「がっ……!」
名も知らぬ女子大生にアパートに監禁されたばかりか、逆上して心中しようと首を絞められているからだ。
「や、やめ……! 誰か助け……!」
「う、うるさい……。 うるさい……うるさい、うるさい! 君がさっさと私のものになってればこんな事にはならなかったのに!」
そんなもん知るか。
なんで拉致監禁してきたイカれた女に、愛を囁かなくちゃならない。
こうなったのも全部自分のせいなのに、俺のせいにするな。
と、睨みを効かすが、その女子大生を余計に怒らせてしまったようだ。
「なによ、その目は! 私が悪いって言うの!? 私はただ…………川宮くんが欲しかっただけ! ただそれだけなのに!」
いつもこうだ。
俺はメンヘラやヤンデレ、犯罪者チックなイカれた女に好かれやすい性らしい。
とはいえ、ここまでの死を感じたのは初めてだが。
自殺をしようとした女の子は居たが、ここまでヤバい奴は居なかった。
このままだと本当にまずい。
実際意識も朦朧としてきたし、肺の酸素が少なくってきているのが分かる。
なんとか逃げなくては…………。
が、逃げられるのなら簡単に逃げている。
こんな縄で両手を後ろで縛られ、足には枷が嵌められていては流石に身動きが取れない。
「ふー! ふー!」
くそっ、頼む外れてくれ!
俺は鼻息を荒くしながら最後の力を振り絞り、縄をほどこうとした。
しかし縄はびくともしない。
それどころか余計しまったような気がする。
「苦しい? 苦しいよね…………ごめんね? でも安心して、つらいのは今だけだから。 すぐに楽になるよ」
「ぎぃっ!?」
更に締まる首から漏れ出る自分の物とは思えない苦痛の声。
その声を聞いた女の口元がニヤリと歪む。
すると直後、外からサイレンが響いてきた。
この音は警察か……?
警察…………?
そうだ、警察だ。
助けを呼ばないと…………。
「た、助けて……」
俺はか細い声で助けを乞う。
しかしそれが彼女の怒りを触発することになる。
「た、助けさせるわけ無いでしょ!? だって君は私の物だもの! もう誰にも渡さない! 渡すもんかぁぁぁ!」
「────ッ! あ……ああああ!」
グシャッ。
何かが俺の右目を潰した。
残った左目で俺はそれを恐る恐る見ると、目に入ってきたのは…………血が滴る灰皿だった。
そうか、灰皿で俺の頭部を殴ったのか。
道理で異常な痛みを味わったはずだ。
「手に入らないなら殺してやる! 殺してやる! そして最後に私も一緒に死んでやる!」
更に何度も何度も振り下ろされる灰皿が、俺の腕、胴体、を潰していく。
だが俺は叫びはしない。
いや、叫ぶ必要がないのだ。
もう痛くはないから。
そう、俺は恐らくこのまま死ぬ。
彼女に殺されて。
「警察だ! ここを開けろ!」
今頃来ても遅い、遅すぎる。
何故なら既に俺は…………。
「あは…………あはははははは!」
俺の命は事切れる所なのだから。
この常軌を逸脱した笑い声を上げる女の手によって。
「う、動くな! そこの男から離れ……! こ、こいつは……!」
「ひ、酷い…………同じ人間の所業とはとても……」
唯一まともに動く左目で俺は踏み込んできた刑事さんと警察官らしき人達を見た。
俺の状態は殺人事件も担当しているような刑事さんですら、青ざめる姿らしい。
全員が固まっている。
しかし、ただ一人だけは違った。
「ふひひ…………ひゃははははは!」
俺を殺した女だけはイカれた笑い声を響かせながら…………。
「あははははは!」
何度も何度も自分の頭を灰皿で殴り、変形させていたのである。
心中…………彼女はあの宣言を本当にするつもりなのだろう。
いや、したのだ。
何故なら俺のとなりで頭蓋骨すらもへこんだ女の人が横になり…………ニヤリと微笑んできているのだから。
「ふへ……うへへへへ……。 これで来世も一緒だね、川宮雪人くん…………ふひ」
冗談じゃない、お前なんかとはもう関わりたくない。
いや、こいつだけじゃない。
女という存在に俺はもう関わりたくないのだ。
だから死ぬ間際、神様にこう祈った。
どうか来世は…………この世界で生まれませんように、と。
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