財宝の本当の価値

 縁側を歩く、なんて日が来ようとはな。

 庭は徹底的に整備され、日本庭園がそこにはあった。松の木だとか小池だとか……。錦鯉も泳いじゃってるよ。

 和室に通され、俺たちはフカフカの座布団に座った。

 爺さんが対面するように腰掛け、キセルを吹かしていた。今時キセルのタバコとは渋すぎる。


「楽にするといい」


 そんなこと言われても、緊張感とか圧迫感で姿勢を崩しずらい。必然的に正座になるわけでして……。


「おじいちゃん、まずは紹介しますね。こっちの男子が早坂 啓くん。で、そっちの可愛いコが天音 愛さん」


「同級生か」


「そうですよ。二人とも信頼できる仲間です」



 北上さんがそう説明すると、爺さんは俺をにらんだ。すごい威圧感だ。

 この圧に負けちゃダメな気がしていた。

 俺は気をしっかり持って、挨拶をした。



「北上さんには、いつもお世話になっています。よろしくお願いします」

「……ほう。ただの学生ではないな。肝が据わっている」

「いえ、それほどでもないですよ」

「情報は耳に入っている。お前たち、宝島に流されたそうだな」

「知っていたんですね」

「絆から粗方はな。ならば、我々が力を貸そう」


 なんだか妙に協力的だな。

 ああ、そうか。

 宝島のことを知っているということは、財宝のことも理解しているわけだ。本来なら脅してきてもおかしくはない。北上さんと知り合いということで、まだ温和な姿勢というわけだろう。ここは空気を読んで俺は先に提案した。


「分かりました。謝礼はたくさん支払います」


 俺がそう言うと爺さんは笑った。



「フッハッハッハ……!」

「な、なんです?」

「金ならいらんよ」

「なぜ……! そういう空気だったでしょう」

「それは絆から聞くといい」



 北上さんに……? どうしてだ。いや、ここは聞くしかない。



「教えてくれ、北上さん」

「実は、あたしの財宝の取り分を全て渡すとしているんです」

「な、なんだって!?」

「彼らに協力してもらうためです。これくらい当然ですよ」

「いや、そもそも、ここはなんだ? 彼等は何者なんだ」


 俺がそう聞くと、北上さんは説明してくれた。


「彼らは『くし会』という、この辺りでは最大規模の極道の方達です」

「本当のそっちの人なんだな」

「ええ、ですが一般的な暴力団とは少し違います。どちらかといえば任侠寄りといいますか」


 どちらにせよ、危ない組織には変わりないが……ほんのちょっぴり話が分かるってだけだろうな。幸い、北上さんが取り持ってくれているが。


「なぁに、安心せい、小僧。絆とはもう長い付き合いになるし、父上殿とは懇意させてもらっていた。おかげで我々の武器庫は日本一よ! ワッハッハ!!」



 思い出した。『くし会』といえば、昔にロケットランチャーや手榴弾、拳銃や実弾など戦争で使うような武器が次々に発見されたヤバイ組織だってことを。

 北上さんがそんな連中と知り合いだったとはな……。父親と関連があるようだが。



「組長の前でアレだが、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。千国せんごくおじいちゃんは、話しは分かる人なので」


 そこまで信頼関係があるとはな。


「そうだ、絆の言う通り、そこまで警戒するでない。我々組織は、確かに世間では危険な組織と指定されておる。だがな、今や備えねばならんのだよ」


「な、なにをです?」


「戦争だよ。ここ最近、アメリカやロシア、中国の動きも活発になっておる。そう、お前達が漂着したという宝島の財宝を巡ってな」


「もうあの島に財宝ないですよ。だから戦争だなんて」

「いや、そうでもない。お前たちは財宝の本当の価値を知らんのだよ。絆から聞いているぞ。多数の宝石も出ているとな」


「あ、ああ……少しだけ。でも、宝石類はまだ手をつけていないんだ」

「だろうな。写真を見せてもらったが、あの中に『ピンクダイヤモンド』らしきものが映っていた」

「ピンクダイヤモンド?」

「知らんのか。ピンクダイヤモンドは、80億で落札されたこともある世界一高い宝石といっても過言ではないものだぞ」


「80億!?」


「そうだ。それに、レッドやブルーダイヤモンドらしきものも確認できる。お前たちが思っている以上に価値があるのだよ」



 そ、そうだったのか……知らなかったぞ。

 俺は金や銀にばかり目がいっていた。

 宝石はそれほど高いものはないと思っていたからな。

 なんてこった……!

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