衛星通信網・スターゲイザー

 二人に挟まれた俺。

 ……なんだこの天国は。


 しばらくはこのまま、まったりと休憩しますか。


 千年世とアベリアと楽しい時間を過ごし、癒された。



 さて、まだこの監視塔の全貌が明らかになっていない。

 先へ進もう。



「最上階を覗いてみるか」

「そうですね、ラウルという男の目的でも分かるといいのですが」


 先へ進む千年世。

 その通りだな。

 あの男が何を企んでいるのか……せめて、それが分かれば。


 螺旋階段を上がっていく。


 会話をしなければ、金属染みた足音だけが不気味に響く。


 やがて“最上階”が見えてきた。


 金属の扉が出迎えた。



「またセキュリティみたいですね~」


 アベリアが不思議そうに扉を眺めて言った。また1~9の暗証番号を入力するタイプか。


「どうせ、さっきと同じじゃないか?」

「やってみますね」


 今度はアベリアが123456789と入力していく。

 これで開けば楽なのだが。



 ――『ピッ……パスワードが違います』――。



 今度は違った。

 なるほど、ここはきちんとパスワードが掛けられているらしい。



「う~ん、ここは一筋縄ではいかないらしいな」

「そうみたいですね……」


 俺がやっても扉が開くことはなかった。

 あとは千年世に任せてみた。



「私ですかぁ? 一応やってみますね」



 さっきは当てたんだ、今度も当てられる可能性がないこともない。

 千年世は数字のボタンを押していく。


 果たして……?



『…………ガチャッ。扉のロックを解除します……』



「「「えっ!?」」」



 全員が驚いた。

 また扉が開いちゃったよおおおおおおおおお!?


 嘘だろ、信じらん!!


「千年世は透視の超能力かとんでもない幸運でも持っているのか!?」

「ぐ、偶然です! 適当に押したら開いちゃったんですよ……」

「そんな馬鹿な……ちなみに数字は?」


「3141592653」


「もしかして円周率か……?」

「はい、そうです。十桁までは覚えているので……」



 それで正解だったのかよ!!

 でも、地味に円周率は覚えやすいし、分からんヤツには分からんから……ありっちゃありなのか。


 なんにせよ、千年世すげぇや。


 ついに最上階の扉が開かれた……。



 恐る恐る中へ入っていく。


 部屋はかなり広くて、見晴らしも良い。

 よくこんな監視塔を建てたな。


 監視カメラのモニタがズラリと並んでいた。武器に弾薬、ワインセラーもあった。



「まるで映画の悪役の根城だな」

「こんな場所があったなんて……」



 なにか使える物がないかと確認していくと……。



「マジか。衛星通信網・スターゲイザーがあるじゃないか!」

「えっ、ネットがあったんです!?」



 スターゲイザーは、宝島にもあった衛星システムだ。これは離島とか山奥で衛星通信が可能になる優れものだ。



「使えるか試してみる」



 使い方は宝島で学んである。

 あの織田姉妹のおかげだな。


 電源を入れると見事に起動した。



「「おお!!」」



 千年世とアベリアが驚く。



「やったぞ! これで外部と通信が可能になった。さっそくリコあたりに電話してみよう」


「さすが早坂くん! はいっ、私も誰かに連絡してみますね」



 スマホを取り出し、俺はリコに電話を入れた。


 しばらくして――。



『……啓くん!?』



 リコに電話が繋がった。


 きたああああああッ!!



「リコ!! 俺だ。早坂だ!!」

『やっぱり啓くんだ! 良かったああー! 無事だったんだね!』


「そうだ、飛行機が墜落したけど何とか生き延びた。今は『北センチネル島』にいる。迎えに来てくれないか!」


『北センチネル島……本当だったんだ』


「え、どういうことだ?」


『桃瀬ちゃんがストラトフォーをハッキングしてくれてさ~。北センチネル島に関する資料が出てきたの。もしかしたら、そこに啓くんたちがいるんじゃないかって話していたところ』


「マジかよ。てことは、あの男はストラトフォーの関係者か……」


『え? まさかそっちに関係者が?』

「多分な。とりあえず、北センチネル島に迎えに来てくれ」

『了解。あと二日、三日は掛かると思う』



 さすがに距離があるし、仕方ないか。



「分かった。それまでは持ちこたえる」

『迎えに行くまで頑張って!』


「通信は以上にしておく。じゃ、また」



 そこで通信は終わった。

 久しぶりにリコと話せて良かった。

 これで迎えも来るし、脱出できる希望が見えてきた。

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