戦士の帰還 精密射撃の嵐
食人族たちが、さっきのテロ組織の男達を調理していた。
なんちゅう光景だ。
最悪だァ……。
俺たちも、あんな風に食べられるのか!?
やべぇ、やべぇぞ!!
なにか良い脱出方法がないかと模索するが……なかった。万事休す!
「どうしたもんかね……。このままだとヤツ等の胃袋の中だ」
「ちょっと、早坂くん! 酷い事と言わないで!」
滝のように涙を流す天音は、気が狂っていた。いかんな。
「ナイフはありますが」
「そうだった! 北上さん、ナイフがあるじゃないか!」
「ただ、牢全体を覆うトゲが危険すぎて大怪我する恐れが」
「マジかよぉ……」
やはり、千年世に期待するしかないかな。今頃は縄を脱出している頃だと信じたい。少なくともテロ組織の脅威は消え去ったのだから。
――それにしても。
テロ組織の男がバリバリ食われてる。うおぇ……。
さすがの北上さんも目を背けている。天音は頭を抱えて完全に沈黙。
「……エグすぎる」
「啓くん、よく平気ですね……」
「まあ、俺はグロ耐性が無駄にあるからな。自慢じゃないが、グロ映画や映像なんて何千、何万と見てきた男だ。これくらいはギリ耐えられる」
とはいえ、リアルを目の当たりにすると足くらいは震えたが。
それから時間は経過していく……。
捕まってから半日が経過して、日が落ちてきた。
食人族は夕飯の準備を始めていた。
包丁を研ぎながら、こちらを見ている。……怖ェ。てか、なんか選ばられている気が。
どうやら、天音か北上さんどちらを食うかで揉めているようだ。
「ねえ、早坂くん……まさか」
「察しがいいな、天音。そうだ。ヤツ等は、天音か北上さん、どちらを夕飯にするかで揉めているようだ。良かったな」
「良くないよ!? てか、食べられちゃう!!」
「叫ぶな、天音。奴等を怒らせるだけだ」
「…………うぅ。だって、だってぇ……」
「気持ちはよく分かる。今は、千年世を信じよう」
しかし、千年世が現れる気配はなかった。
それどころか、夕飯が天音に決まってしまったようだ。
「え、え、ええ~~~!? わ、わたしなんて食べても美味しくないよ!! てか、助けてよ!!」
抵抗しようにも向こうは毒矢を向けてきた。……くそ、これでは瞬殺されるのがオチだ。
どうする……どうする。
俺の命に代えても天音を守るしかないか!!
だが、北上さんを巻きこむ可能性もある。
「北上さん、一か八か」
「動かないでください」
「だが!! 天音が食われるぞ!!」
「分かっています。いざとなれば、食人族を抹殺しますから」
「今がそのタイミングじゃないのか!?」
「まあ、待ってください」
何を待てばいいんだ。
千年世は来ないし……期待できない。
俺が動くしかないだろう。
けれど、天音が連れて行かれてしまった。
「天音!!」
「早坂くん……きゃっ」
しばられて連行されていく。
少し離れた場所でロープでグルグル巻きにされてしまった。それから食人族達が儀式を始めた。二十人ほど集まって……いよいよってことか。
「天音! 直ぐ助けに行くからな!」
「う、うん……信じてるからね」
俺は強引にでも牢を抜けようと格子に手を伸ばそうとするが、北上さんに遮られた。
「触れてはいけません」
「天音が殺されようとしているんだ! 見過ごせるわけないだろ」
「そのトゲは恐らく毒。罠なんです」
「な、なんだって……」
「白い液体の出る植物は、大抵毒なんですよ」
「じゃあ、ナイフでなんとかしてくれよ」
「分かりました。襲われるリスクも高いですが、やってみます」
「急いでくれ!」
北上さんは、ヤツ等が儀式に集中していることを確認し、ナイフで格子を切っていく。木製で良かったな。だけど、トゲに気を付けないと。
もうすぐで格子が切り落とせそうになった、その時。
食人族が槍を天音に向けた。
ま、まさか!!
「いやあああああああッ!!」
「天音ええええええええ!!」
叫ぶと同時に『ダンッ!』、『ダンッ!』と聞きなれない鈍い音がした。こ、これは……銃撃じゃないか!?
弾丸らしきものが食人族に命中して、次々に倒れていく。
一気に五人ほどが殺害された。
いったい、誰が!?
「お待たせしました、みなさん! 準備と場所に特定に時間が掛かってしまいました」
「千年世!!」
そうか、来てくれたか!
迷彩服姿の千年世がテロ組織から
な、なんて正確な射撃なんだ。
ほとんど一発でヘッドショットを決めていた。
反動の大きいアサルトライフルでこの精密射撃……どんだけ訓練を積んだんだ!
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