第五部:禁断の島

新たなる無人島 ~世界一危険な島~

 酷い異臭がする。

 爆炎と黒煙が入り混じって、まるで戦場のようだった。


 ――飛行機の墜落事故が起きたんだ。


「事故と呼べるのでしょうか」


 大破した飛行機を冷静に見つめる北上さん。

 アーミーナイフを構え、いつでも戦闘ができる準備をしていた。



 数時間前。



 マレーシア行きの飛行機が急に高度を下げ、コントロール不能になって墜落した。俺たちはこんなこともあろうかとパラシュートを持っていた。

 通常、旅客機からのスカイダイビングは無謀すぎると言われているが、俺たちは特殊な訓練を受けている。理論上は不可能ではない。


 他の客には悪いと思うが、俺たちも命が惜しい。


 生き残ったのは俺と北上さん、天音に千年世の四人だ。幸い、全員無事だ。


「今回、マレーシアへの視察だったから四人で良かったね」


 天音が青ざめながらも、そう声を漏らした。その通りだ。もし全員を連れて来ていたのなら、リスクが高かった。


「だが、肝心の千年世は姿がない……心配だ」

「千年世ちゃん、別の方向に落ちてたもんね」


 風に流されたのだろう、謎の島のどこかへ落ちてしまった。


「それにしても、この島はどこでしょうね」

「北上さん、GPSとか持ってないの?」

「今回は海外移住の為にマレーシアの現地を見に行くということでしたからね、それほど多くの装備は持ってきていないのです」


「銃もないもんな」

「ええ。さすがに飛行機に銃は持ち込みできません。精々、ナイフくらいですよ」


 武器も装備も心もとない。

 そもそも、この島……また『無人島』らしい。


「どうして俺たちはこう無人島に縁があるんだ?」


 俺がゲンナリしていると、天音も同じ気持ちだったようで「ホントね」と溜息を吐いた。


 以前の『宝島』よりも小規模な島だ。

 それでも歩ければそれなりの距離がある。山はないが、ヤシの木がそこら中に生えているな。とりあえず、ヤシの実を取れば食料は困らないか。



「とりあえず、飛行機から拾えるアイテムは回収していきましょう」

「……北上さん、それよりもさ……仏さんが」

「供養してあげたいのですが、時間がありません。人間、死亡するとその時点で物として扱われるのです。悲しいですけどね。事故や天災時、死者よりも生存者が優先されるんです」


 見る限り、数百人の遺体が散らばっていた。かなり凄惨だ。海も血で染まっているし……。生存者は絶望的だ。こんな大規模な事故ともなれば、捜索もすぐやってくるだろう。

 その点、今回はそこまで悲観する必要はないかもしれない。


 ……ただ、俺は少し嫌な予感がしていた。


 なぜ、飛行機は墜落した?


 少なくとも、あの飛行機は日本の旅客機だった。安全性はかなり高いはず。なのに落ちた。こんな考えはしたくはないが……“何者”かが飛行機に細工をしたのではないだろうか。……まさかな。



「仕方ない。先を急ぐか」

「装備を整え、まずは寝床の確保ですね」



 飛行機の周囲をくまなく探し、必要なモノを持ち出した。



 * * *



 かつての『宝島』を彷彿とさせる森林。

 ここも緑がたくさんだ。

 自然に溢れ、昆虫や動物のいる気配がある。

 頼むから危険な生物は出て来ないでくれよ。


 熱帯雨林のような湿度を感じながら、汗を拭って前へ進んでいく。そんな中だった。


「啓くん、止まって!」


 北上さんがいきなり声を上げた。

 俺はビックリして立ち止まるしかなかった。

 いきなり、なんだ!?


「どうし――」

「振り向かないで!」

「え……」


 直後、背中から“何か”を刺すような音が聞こえ、俺はゾッとした。


「振り向いていいですよ」


 そう言われ、俺はそっと振り向いた。

 すると、北上さんのナイフには大きなサソリがぶっ刺さっていた。うわ、キモッ!



「デケェ、ゴキブリだな」

「以前にもこんなことがありましたね」

「そういえば、あの宝島にもいたよなぁ。普通、生息しないと思うんだがな。――って、天音、大丈夫か?」



 天音がサソリを見て固まっていた。

 顔が真っ青だ。

 そりゃそうか、こんな宇宙生物みたいなの、日本じゃなかなか見られないしな。


「…………うぅ」

「ショッキングなのは分かるよ。俺も背中がまだゾクゾクするし」

「この島にも虫とかいるんだ……」

「いるだろうな。覚悟して進もう」

「いやぁぁぁっ……!」


 頭を抱える天音。

 仕方ない、俺が守ってやるか。



 先へ進むと、イイ感じの崖っぽい地形が現れた。拠点にするには丁度良さそうだな。



「今日はここをキャンプ地としようか」

「賛成です。千年世さんの捜索は明日にしましょう。彼女はあたしの軍事訓練を受けて、以前よりもたくましくなりましたし、一人でもサバイバルできるレベルに達しています」

「マジか。そこまで鍛えたんだな」

「彼女は立派です。恐らく、メンバーの中では一番のスキルを持っているかと」



 衝撃的だな。あのか弱い女子だった千年世が今は戦士となった。もしかしたら、そういう才能があったのかもしれないな。人間、どこで花開くか分からないものだな。


 薪を集めて、俺はメタルマッチで即火をつけた。


「さすが早坂くん! 一発だね~」

「楽勝、楽勝。しかも、このメタルマッチは新調したヤツでね。キーホルダーにできるんだ」

「ホントだ。なんかいつもより小さいね」


 ライターほどのサイズ感の物体。

 銀色の部分が全てマグネシウムの塊である。

 少し削った後、ナイフとかで発火させると火がつくんだ。



「いいだろう、これ。このマグネシウムがあれば、どこでも火をつけられる。小さいから、嵩張かさばらないし、買っておいて損はないぞ。災害時にも使えるしさ」

「確かに、ポケットに入れておけるもんね」



 食料の缶詰を開封、それをそのまま焚火の上に。

 じゅうじゅうと焼けていくサバ缶。

 う~ん、良い匂いだ。


「啓くん、この島の通信環境は絶望的です。圏外ですね」

「だろうな。恐らく、太平洋のどこかだろうし」


「ソロモン諸島、マーシャル諸島、パプアニューギニアなんてことも」

「マジか……」

「オーストラリアやフィリピンなら一番ありがたいですが、ないでしょうね」


 ないだろうなあ。

 そんな感じの島ではなさそうだしな。


 周囲はなにもないし、海だけだ。



 とりあえず、今日は力を蓄えて……明日から千年世探しだな。

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