第二部:財宝の在り処

女子と二人きりのドラム缶風呂

 深夜の午前二時。

 変な時間に目覚めたようだ。

 寝ようにも眠気がまるでなかった。ぱっちり目が覚めてしまっている俺は、貯水池と風呂の開発を進めていこうと思ったが――そうだ、ドラム缶風呂を忘れていた。


 あの後、女子たちが使った気配はないな。


「……あぁ、あの彼岸花理瑚との戦いの後はいつものように海水浴にしましたよ。啓くんが気絶しちゃったので」


 そういうことか。結局、俺がぶっ倒れた結果……場は収まったわけだ。俺の犠牲で戦争が回避されたのなら、それでいい。


「そっか。じゃあ、ドラム缶風呂を作ってみるか」

「いいですね。あたしも手伝いますよ」

「それは助かる。じゃあ、北上さんは丸太を丁寧に切ってくれないか」


「丸太を?」


「うん、ドラム缶の底に敷くんだよ。だから、ドラム缶の内径に合わせて丸太を切断し、すのこ・・・を作るんだ」


 そうすると足が火傷せずに済むのだ。

 丸太でも薪でもいいけど、丁度良いサイズに切った物を編めば完成だ。


「分かりました。マルチツールのノコギリでギコギコしますね」

「任せたよ。俺は海水を注入しようと思う」

「了解です」


 女子たちが運んできてくれた海水の入ったポリタンクやら、ペットボトルの容器がたくさん置かれている。あれを入れるつもりだったはずだ。


 俺は蓋を開封して、どんどんドラム缶の中へ注いでいった。


 ひたすら水を入れていき、三十分ほど掛かってやっと半分ほど満たすことができた。これで十分だ。

 しかし水は重くてたまらんな。腕が疲れたし、重労働だった。だが、この苦労の先にアツアツ風呂の天国があるのだ。


 さっそくファイアースターターで火をつけていく。ここは手慣れた作業なのでスムーズだ。あとは火を強めていく。



「こっちは準備できた。北上さんは?」

「こっちもです。すのこが出来ましたよ」



 見事な“自作編みすのこ”が出来ていた。さすが器用だな。



「お湯が沸くのに二十~三十分掛かる。俺が見ておくから」

「いいえ、自分もお供します。どうせ寝れませんから」

「そうなの? 寝てないんじゃ?」


「あたしはショートスリーパーなので」


 短い睡眠時間の人か。いいなぁ、そういう人は人生の時間が多くなるし、自分の時間も増える。いろいろ出来て羨ましい。


 俺はがっつり寝ないとダメなタイプだからなぁ。



 ぼうっと火を眺めていれば、いつの間にか湯が沸き始めていた。



「そろそろ良いかも」

「湯気が立っていますね」



 すのこを受け取り、俺はドラム缶の中へ設置。……おぉ、良い感じだ。温度も高いくらいだ。



「ドラム缶風呂完成だ」

「おぉ、ついにやりましたね。まさか、このような島でお風呂に入れるとは……」



 制服を脱いであっと言う間に下着姿になる北上。……って、俺の目の前で!



「き、北上さん! なにを!」

「……だ、大丈夫です。実は水着を入手したんです。よもぎという女子のでしたが」


「そ……それ。黒のビキニ。なんであるんだよ」

「あたしもよく分かりませんが、泳ぐ予定があったのでしょう。……ちょっと胸がキツイですが、問題ありません」



 それにしても、艾か。どこかで聞いた名だな。……えっと、確かリコの友達だったかな。ケンカ別れしたという。アイツ、よくケンカするな。



「じゃ、じゃあ……俺は次に入るから」

「ダメです」


「え」


「一緒に入りましょう、啓くん」

「マジ!?」

「マジです」



 本気の眼差しを向けられ、俺は固まった。……やべぇ、逃げられねえ。



「どうしても?」

「……啓くん、あたしと入るの嫌なんですか」

「そ、そうじゃない! 頼むから、その狂気の目を向けないでくれ、怖いから!」


 いちいち心臓に悪い。

 けど、北上と一緒にドラム缶風呂か……普通に考えたら悪くないな。まあいいか、今は他の女子も寝ているし。



「どうします?」

「分かったよ。俺が先に入るから」


「……やったああぁぁッ!」



 なんかガッツポーズしてるな。こんな良い笑顔で喜ばれるとは思わなかった。



 俺は少し離れた場所で服を脱いでいく。幸い、タオルがあったので腰につけて下半身は隠した。これで問題なし……っと。


 そのままドラム缶風呂へ。



「北上さん、丸太で足場を作ってあるから、それでゆっくり上がってくれ」

「丸太の階段ですね。気を付けて登ります」



 北上は、地面に固定されている丸太に足を掛け――ついに、湯に足をつけた。早くも気持ちよさそうな声を漏らし、頬を赤くしていた。



「ゆっくり入って。熱かったら言ってくれ。火を弱めるから」

「は、はい……」


 半身まで浸かり、十分なスペースがあることを確認した。なんとか入れそうだ。



「入って良いんだよな」

「どうぞ、こちらへ」


 手を伸ばしてくる北上。俺はその手を握り、足を滑らせないように慎重に入る。……うん、なんとか入れた。


 二人も入るとお湯もギリギリだ。

 零れ落ちなくて良かった。



「ふぅ、いい湯加減だ。大成功じゃん」

「素晴らしいです。まるで温泉のようです……」



 ドラム缶風呂の底に燃える焚火と松明の燃える音が響く。


 夜空は、広大な宇宙が広がっている。

 流れ星が絶え間なく流れていて、願いなんて簡単に叶いそうだった。



「美女と絶景もプラスされて……天国だな」

「び、美女とは……あたしのことですか」

「当然だろ。ちょっと病みやすいけど、顔とかスタイルは抜群だから……緊張しちゃうよ」


「胸も大きいですよ」

「それは敢えて触れなかったのに……! 北上さん、俺の魔王を呼び起こすのは止めてくれよ」


「魔王、ですか。それはちょっと目覚めさせたくなっちゃいますね」



 小悪魔スマイルを向け、俺に近づいてくる北上。距離なんてあってないようなものだから、直ぐに密着だ。



「ちょ、北上さん! こうして間近で見なくても大きいんだから、俺をこれ以上……興奮させないでくれっ」


 分かってはいたけど、とんでもない谷間だ。手に収めることなんて出来ないかもしれない。それに、柔らかそうだ。


「ずっと胸を見ていますね、啓くん」

「煽るな、煽るな。それより、流れ星に願いをしなくていいのかい」

「もう願いは叶いました。啓くんと二人きりの時間を過ごしたかったのです」



 小さな顔を、俺の胸に寄せる北上。小顔で驚く。いや、全てが小さい。腕とか脚なんて細くて折れちゃいそうだ。


 けど、ほどよいムチムチ感があって……俺は結構――いや、かなり好みだった。



「無人島でドラム缶風呂とは贅沢すぎだよ」

「しかも、好きな人と一緒に入れるとか極上の至福。他の人は島を出て行っても、あたしと啓くんはこのまま永住するのも、いいかもですね」


「この島に永住はちとなぁ……。北上さんは帰りたくないのかい?」

「それより赤ちゃん、何人欲しいですか?」


「――――んなッ!!!」



 とんでもない発言に俺は心臓がバクバクした。

 まさか、本当にこの島に住む気か……!?



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