お礼の間接キスと謎のスクールバッグ
洞窟へ戻ると、八重樫たちの姿があった。戻っていたんだな。
「おかえり、早坂くん。その様子だと丸太を取りに行っていたみたいね」
なんだかご機嫌そうな八重樫とその一行。なんだろう、サプライズ前の予兆が。
なんか怖いな。
「ああ、溜池作りの為にね。ほら、直ぐそこの穴」
「あれがそうだったの。落とし穴かと」
「誰かさんと一緒の感想だな」
俺の隣で複雑そうに頬を掻く天音さん。
「これで水は確保しやすくなるのね。さすが、早坂くん」
「いや、まだ完成には至ってないよ」
「そうなんだ?」
「今は土を乾かしている段階で、ここから更に土を固めていく作業がある。それから、丸太をはめ込んでいく形かな」
とはいえ、雨が降ったら崩れてしまう。
先に屋根を作っておくか。
「なにか手伝おうか」
「じゃあ、八重樫たちにもお願いしようかな」
俺はみんなに『屋根』を作ると説明した。テントを展開するみたいに、丸太を立ていく。
紐は、網を分解したものを使い括っていった。
七人の力を合わせれば、作業効率も良かった。ぐるぐると丸太を固定していき、三十分もすれば骨組みが完成した。
「おお! なんか形になった」
「これは驚きました」
天音と北上が意外そうに驚く。
「様になってるねえ」
「為せば成るのね」
「小屋っぽくなったね!」
「僕も感心しました」
千年世や八重樫、リコと宝珠花も今日一番にテンションを上げていた。
まだ屋根は出来ていないけど、森に生えている大きな葉を刈り取って――それを屋根に載せれば一応の完成だ。
「作業はここまでだな」
「お疲れ様」
天音がペットボトルを差し出してくれた。洞窟内で溜めた水らしい。
俺はそれを受け取り、喉の渇きを癒していく。
……労働の後の水、めちゃくちゃうめぇ。ただの水なのにな。
「ありがとう、天音」
「…………うん」
「なんだ? 顔が赤いぞ」
「……そ、そのペットボトル、わたしが口をつけたやつだからさ……」
「!?」
そういうことか。
なんかソワソワしながら俺を見ているなと思ったんだよな。
――って、
その事実を知って、俺は石像のように硬直した。
「さっき助けてくれたお礼だから」
「そ……そっか。ありがとう」
「ううん、お礼を言うのはわたしの方だよ」
照れていると、俺の肩を指でツンツンしてきた者がいた。振り向くと八重樫だった。
「あの、早坂くん。さっき何かあったの?」
「そうだ。八重樫たちに話しておかないとな」
俺は浜辺で『倉島』と会い、襲撃に遭ったことを話した。
撃退したことを知らせると、三人とも戦々恐々としていた。……だよなぁ、この三人がもともと追っていたみたいだし。
「そうだったの。実は今朝、ほっきーが破損した救命ボートを別の浜で発見したの」
「なんだって!?」
“ほっきー”というと『宝珠花』のことだ。彼女が浜辺に出ていたのか。いつの間に。
そうか、それでさっきは出掛けていたのか。でもなんで、千年世まで?
首を傾げていると、宝珠花が前へ出て状況を教えてくれた。
「僕、お風呂に入りたくて……それでこっそり西側の海へ行ったんです。その時、浜に救命ボートが流れ着いていて……もしかしてって思ったんです。
だから大至急で舞桜ちゃんを呼んで……それで」
そういうことだったのか。
……ん、まてよ。
なんで方角が分かるんだ?
「なあ、宝珠花さん。今“西側”って言わなかったか?」
「はい、西側ですけど」
「どうして分かるんだ? 太陽の位置で読み取った?」
「いえ、僕って
「ちょ、マジかよ」
それをもっと早く言って欲しかった。
そうすれば、この前も迷うことなかったのに。
この無人島、なにげに森が広がっていて迷いやすいからな。
いや、それよりも
「どうしましょうか」
「倉島は今もどこかで潜伏しているだろう。いつか襲ってくるかもしれない。警戒しておかないと……。
その為にも、これからは団体行動を心掛けないとな。単独行動は禁止だ」
一同頷き、同意してくれた。
少しピリピリした空気の中、八重樫が手を挙げた。
「どうしたの、八重樫さん」
「破損した救命ボートだけど、一応持ってきたの」
「おぉ、倉島の乗っていたヤツか。修理すれば乗れたり?」
「紐とかで穴を塞げば、一人くらいは乗れるかも」
「本当か! イカダを作るよりは手っ取り早いかもしれない」
俺は、北上の顔を覗く。
彼女は諦めの溜息を吐いた。
「早坂くん、脱出は無理だと思いますよ。その昔、キャスト・アウェイっていう孤島に漂流した映画があったんですけどね。
あの映画でも同じようなことを試みましたが、高波に
この前は可能性を言いましたけど、今は無理だと総合的に判断しています。あれではイカダも転覆するでしょうね」
だめかぁ。
というか、北上がその映画を知っていることに驚いた。
俺もこんな島に流れ着く前に配信サイトで視聴済みだが。
「救命ボートは洞窟内に保管しておこう。なにか使えるだろうし」
「分かったわ。それと、救命ボートの他にも収穫があったの。リコ、あれを持ってきて」
今度はリコが『スクールバッグ』を持ってきた。それも複数も。
「リコ、それって……まさか」
「多分、他の生徒の持ち物。流れ着いたんだと思う。啓くん、これどうしよう」
「中身は見たのか?」
「ううん、啓くんの判断で決めようって舞桜ちゃんと話し合ったところ」
とても難しい判断だ。
もしかしたら、仏さんのかもしれないし。けれど、こっちも生きる為に便利な
「とりあえず、中身をチェックしてみたら?」
「そうだな、天音。そうしてみる」
俺は慎重にチャックを開けていく。
中身が見えてきた。
なんか山盛りだな。
スクールバッグの中には――なんじゃこりゃ!
「グラビアアイドルの写真集?」
大胆なビキニを着た女性がエロいポーズをしまくっていた。十八禁モノではないようだが、これは刺激が――あ。
「…………」
女性陣から白い眼差しが。
うわ、なにこの空気。
俺の持ち物じゃないのに、心に響くのだが……!
「ていうか、これ天音じゃね?」
「え……!? って、これ、わたしだああ~~~!!!」
ハッと気づいて天音は叫んだ。
この本『
誰だよ、こんなモンをカバンに入れていたヤツ。
少なくとも俺ではない。
ここで天音と出会うまで名前すら知らなかったし。
なにか特定できるものがないかと、更にスクールバッグを漁る。
しかし、出てくるものは天音の写真ばかり。チェキが大量なんだが。
その度に女子たちは引きまくり。
「ちょ、おい。俺のモノじゃないからな!? 誰かの持ち物だから、そんな青ざめてくれるな!!」
せめて北上でも巻き込んでやろうと腕を引っ張る。
「……このスクールバッグの持ち主って、絶対天音さんのストーカーですよね」
「だろうな。しかし、誰のだ? 救命ボートの付近に置いていたのなら……やっぱり、倉島のか?」
俺がそう発言すると、女子たちは更に引いていく。
って、お~~~い!
俺じゃないのに……。
天音さんなんか泣き出しちゃったし。
おのれ、倉島め……。
アイツの目的は、もしかして天音でもあるのだろうか。知っている風だったし、人質に取っていたしな。可能性は高い。
「……ぐすっ」
「泣くなって、天音。俺が守ってやるって言ったろ」
「だって、気持ち悪いんだもん。あの倉島ってヤツ、サイテー…」
「ああ、遠足にこんなモンを持ち込んでいるとか尋常じゃない。
アイツは許しちゃいけない男だ。次に手を出してくるようなら、問答無用の武力行使に出る」
俺は、泣き崩れる天音を慰め続けた。
くそう、倉島め……次に会ったら拳でブン殴ってやる。
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