モテモテになったっぽい

 丸太を持って突撃した俺は、蛇に会心の一撃を与えた。

 蛇は動かなくなり、ご臨終。


「や、やったの、早坂くん」


 八重樫が恐る恐る近づいてくる。


「抹殺完了だ。一応、食えるし食糧にしたいところだけど――」



 女子全員、顔を青くして拒絶した。


 あの北上でさえも。

 北上といえど、蛇は嫌らしい。


 う~ん、もったいないので俺が蛇の肉を食うか。貴重なタンパク源だし。


「あ、あの……早坂くん」

「どうした、八重樫さん。それに、宝珠花さん、彼岸花さんも」



「「「ありがとうございましたっ」」」



 三人は目尻に涙を溜め、頭を下げた。



「い、いや、俺は当然のことをしたまでだ」

謙遜けんそんしちゃって。あんな大きな蛇と戦うなんて凄すぎよ」


「そ、そうかな。でも、八重樫さんも弓矢で何とかしようとはしていたんでしょ?」

「手が震えて、それどころじゃなかったわ……」


 そうなのか。

 冷静沈着に見えるけど、案外か弱い女子なのかも。


 続いて宝珠花が何度も頭を下げていた。


「僕も驚いちゃいました。早坂くん、カッコ良すぎです!」

「俺も怖かったよ。噛まれるんじゃないかって」

「それでもです。強い男の人は憧れちゃいますね」


 尊敬の眼差しを向けられて、いい気分だ。


 それから彼岸花さんは俺の手を握って“ありがとう”を何度も言った。言い過ぎなくらい何度も。


「ありがとう、ありがとう、ありがとう」

「感謝しすぎだよ、彼岸花さん」

「あ、リコのことは『理瑚リコ』って呼んで。呼び捨てでいいから。リコも早坂くんをてつくんって呼ぶねっ」


 わぁ……彼岸花って親しくなると、こんなに距離感近いのか。きゃぴっとした感じがたまらない。



 というか、俺のモテ期やっと到来!?

 永遠に訪れないと思っていたのに。


 毎日毎日、孤独で冴えない日々だった。


 透明人間のような扱いを受け、日陰者の烙印さえ押されていたと思う。



 だが、今はどうだ。



 この島に来てからは、俺が主役となった。もしかして、島に居続ければモテまくり……?



 既にハーレムっぽいことにはなっているし、結構――いや、かなり楽しいことになっていた。



 今頃俺たちを探している救助隊よ、もうちょっと遅れてもいいぞ。



「ちょっと、早坂くん!」

「お話があります」



 いつの間にか天音と北上に囲まれていた。


 なにごと!



「ふ、二人とも……顔が怖いぞ。――って、ちょ……天音も北上さんも俺の腕を引っ張るな!! 痛い、いだだだッ!! 割けちゃう! 俺が真っ二つに割けちゃうからああああああ!!」



 ギリギリギリっと俺の肉体からヤバイ音がした。


 天音も北上も物凄い力で俺の腕を引っ張る。


 死ぬぅ、死んでしまう……!!!



「離してよ、北上さん!」

「天音さんこそ、早坂くんから離れてください」



 なんで二人ともバチバチしているんだ。

 このままでは俺が半分になっちまう。

 そうなる前に脱出だ。



「分かった。分かったから! 俺が離れるから!」



 二人の手を振り解き、俺はなんとか逃げ出せた。

 仕方ないので、ぼうっとしている千年世を連れ出した。



「えっ、私ですかぁ!?」

「千年世さん、ちょっと話でもしよう! な! な!?」


「は、はいぃ……」



 怯えられているが、今は許せ。

 天音と北上から逃げるには、これしかない。



 * * *



 千年世を洞窟の奥の方へ連れ出し、良さげな場所で腰を下ろした。



「……ふぅ。天音も北上もなんで仲が悪いんだ?」

「早坂くん、それ本気で言っているんですか!?」


「なにかおかしいこと、言った?」

「えぇ……。じゃあ、教えてあげましょうか」


「頼む」


「天音さんも北上さんも、早坂くんが好きなんですよ」


「…………」(←頭が真っ白になった俺)


「やっと気づいたんです?」

「ソンナワケ、ナイダロ」


「なんでカタコトなんです!?」



 あのアイドルの天音が俺を好く?

 そんなことがあり得るのか。


 北上だって高嶺の花みたいな存在で、手が届かないような女の子だ。俺のようなクソぼっちのとは釣り合わない。



「ナイナイ」

「ありますって。手ぐらい握っても怒られないと思いますよ」

「本当か!」


「はい、私が保証しますよ」

「試してみるか」


 その程度で分かるなら、簡単だ。

 もし、嫌がられなければ俺は好かれているってことだよな。


 拒絶の意思があったら、その時点でミジンコ以下の存在に認定されるわけか。



「なら、私で試してもいいですよぉ」

「ん、千年世さんで?」


「はい。どこでも触っていいです!」


「どこでも!?」

「はい、どこでもです。胸もお尻も大丈夫です!」



 そんな元気な顔で言われてもな。

 けど、千年世はウェルカムなんだな。


 あれ……それってつまり、俺のことを好きってことなのでは?



「……本当に良いんだな」

「どうぞどうぞ」


「叫んだり、虚偽を述べたり、訴えたりするのはナシだぞ」


「しませんしません。というか、早坂くんってずっと私の名前・・呼んでますよ」

「へ?」


「千年世は名前の方なんです」

「そうだったのか。そうとは知らず……呼んでしまっていたとは」


「大丈夫です。私、早坂くんとは中学校の頃に同じクラスだったんです。あの時から意識していたんですよ~」



 予想外すぎる情報に、俺はまた混乱した。

 千年世ってそうだったのか。

 全然覚えがないけどな。


 ……まあ、友達いなかったから仕方ないか。



「でも、なんで俺? 浮いていたし、近づくヤツはいなかった」

「そんなことはありません。早坂くんは、私を助けてくれたではないですか」


「俺が? いつ?」

「あれは中学三年の時。私はある生徒から乱暴されていたんです。そこに早坂くんが現れてくれて……『そこのお前! 俺の右腕の封印が解き放たれる前に立ち去れ! さもないと、貴様は地獄の業火に焼かれて――』」



「あああああああああああああ、やめてくれえええええええ!!」



 俺の黒歴史だった。


 そうだ、中学の頃……俺は、中二病全盛期。


 そりゃ、千年世を助けたことなんて記憶から抹消されているわけだ。



「あれがなかったら、私は今頃腐っていたと思います。だから、あの時のお礼をずっと言いたかった。ありがとうございます」



 素敵な笑顔を向けられ、俺は瞬間で恋に落ちた。



「ち、千年世……でいいのかな」

「はい、その方が嬉しいです」



 またまたエンジェルスマイルを貰ってしまい、俺はズキューンときた。


 感動さえ覚えていると、洞窟の奥から音が聞こえた。



『――――ゥゥ』



「「!?」」



 な、なんだ今のうめき声みたなの。



「千年世、今の……」

「はい……まるで死者の叫びみたいな。怖いです」


「確か、千年世はこの奥を探検したんだよな。なにかあったのか?」

「ただ道が続いているだけで……けど、かなり奥が深かったです。まだ全貌は分かりません」


「となると……まさか亡霊か」

「こ、怖いこと言わないで下さいっ!」



 ぶるぶる震える千年世。

 けどなぁ。



「俺の雑学なんだが、そういえばトカラ列島の『宝島』には、キャプテン・キッドの財宝が隠されているんじゃないかって言われている」


「え、お宝です?」


「ああ、実在の海賊だよ。あくまで噂というか伝説みたいなものだけど」

「それになんの関係が……?」


「例えば、キャプテン・キッドの財宝が奥深くに眠っていて……その無念の幽霊が漂っている、とか」


「…………」



 なんてな。

 もしかしたら、この島が『宝島』ではないかとも思っていたりした。でも、そんな距離を流されたとも考えにくいが……まさかな。


 とにかく、ここは不気味だ。

 立ち去ろう。



 出入口付近まで戻ると、天音が泣いて飛びついてきた。



「さっきはごめんね、早坂くん! わたしを嫌いにならないでぇ……!」

「うわ、近いって天音。……いやいいさ、俺も悪かったよ」



 俺は試しに天音の肩に手を置いた。

 今の俺にはこれが精一杯だ。



「……許してくれるの?」

「許すもなにもない。もういいから、元気だせよ」

「うん、ありがとね」



 普通に触れた。

 嫌われなかった。


 不快そうな表情も一切なかったし……これって、脈あるのか。



 もっと天音に触れてみたいけど、今はこれでいい。

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