6話


迎えた初配信当日。


俺の目の前にあるディスプレイに表示されるのは”10万人待機中”の文字。

どう考えても初配信に来て良い人数ではなかった。



コメント

:初の男性配信者と聞いて

:告知見て来ました!

:これってマジの男?

:釣りでしょ

:釣り釣り

:そっか…10万人が釣られんやな

:いい加減現実を見ようね…私

:草



コメントを見る限り俺が本当に男か疑う声が多くあった。

まあそうだろう。逆なら俺だって釣りだと思う。何処に自ら女性と関わろうとする男がいるんだよ(ブーメラン)。


それに過去に別の女性配信者が男性だと偽って視聴者を集め炎上したらしい。その事が尾を引いているんだろう。彼女が今どうなっているのかは不明だが。


一方で釣りだ釣りだと言いながら見るのを止めないのは…悲しき人間の性か。この世界の状況を顧みると無理も無いかもしれない。



緊張していたのか気付けば時刻は20:00。配信時間だった。

俺はカメラとマイクに電源を入れて配信を始める。



『あー…聞こえますか?』



コメント

:ううぇえええええええ?!?!?!?

:ま、ままままじか…

:きtら!きtら!

:イケメンじゃん!!

:本物の男!!

:これは…大変なことになるぞ…

:格好い……ってえ、晴翔様?!

:晴翔様じゃん!



声を入れた途端にコメントが目で追えないほどに高速化した。

…この分だと聞こえているっぽいので大丈夫だろう。


コメントがある程度落ち着くのを待ってから、俺は自己紹介を始める。



『晴翔です。これから配信者として活動していきます。内容は主に雑談やゲームをプレーしていくつもりです!』


コメント

:おぉ…!!

:辞めないでくれればそれだけでokです!

:もしかして私と目が合っている??両想い??

:癒やしだ…

:毎日見ます!

:一緒にゲーム…最高かよ…

:好きです結婚してください!



皆がコメントで次々と反応してくれる。

配信前には会話が途切れることを心配していたが……無用だった。


『みんなコメントありがとう! なるべく反応するようにするからどんどん書いて欲しい!  配信日は…不定期になるけど、事前に告知は出すからSNSのフォローお願いね!』



コメント

:配信してくれるだけで十分だよ!!

:うれしい!

:フォローしました!

:フォローしました!



手元のスマホで確認すると……既に50万人以上のフォロワーがいた。

あれ?まだ配信始めたばかりなんだけどな…


更には彼女たちがSNSに書き込んでくれたからか視聴者数も増え現在30万人に到達していた。チャンネル登録者数も同様だった。



『今日の配信なんだけど、初配信らしくタグとか決めていくよ!その後は……何しよう? 』


コメント

:晴翔様のこと知りたいです!

:彼女いますか?

:今何歳ですか?!どこに住んでますか?!

:タイプの女性は?!


コメントを読んでいくと俺に関する様々な質問が書かれていた。

流石に個人を特定されるのはダメだけどある程度なら大丈夫か。


『じゃあ質問に答える時間にしよう! 皆からの質問を可能な限り答える感じで! 配信についてとか俺のこととか!』


コメント

:やったー!!

:来た来た来た来た

:わくわく

:興奮して鼻血出てきた…

:え、えっちな質問とか…!! キャッ



『それじゃ今からコメントでタグを募集しまーす!』






◇◇◇



タグを初めとする”初配信でやること”を終えた後、俺は視聴者からコメントで質問を募集した。形式としては前世のマシュマロ配信みたいなイメージだ。


コメント欄を見ると視聴している沢山の人からのコメントがあった。

俺はその中から適当にクリックをしてランダムに選ぶ。


『うーん…1個目はこれ決めた! えっと「晴翔様は現在お付き合いしている人もしくは好きな人はいますか。良ければ好きなタイプを教えてください!」だね』


コメント

:1個目からナイスコメ!

:私、気になります!

:いたら死ぬいたら死ぬいたら死ぬいたら〇す

:緊張してきた…

:直球過ぎて草



一応ランダムに選んだんだがやはりこれ系の質問が来たか。今更スルーは出来ないな。


こういう質問は配信者として本来どうするべきなんだろう……忖度するのか?


うーん、でも彼女たちは本気で質問してるだろうからちゃんと答えるべきかな?前世とは違って男なら炎上しなさそうだし。


――うん、折角の人生だ好きに生きよう。それこそ炎上もお構いなし。犯罪者は…流石に不味いけどそうならない程度には自由に生きたい。


『……付き合ってる人はいないかな。好きな人もいないよ』



コメント

:よし!

:良かったぁ…

:信じます!

:チャンスあり!



『タイプの女性は……えっと、一緒に居て楽しい人だけど……好みで言うなら――――身長160cmくらいの色白でスレンダーな人かな!黒髪も茶髪も好き!あとは俺男だけど性欲強いからエッチな人!オタクならなお良し!』


コメント

:普通にぶっちゃけたww

:途中で吹っ切れてて草

:待て待て待て!情報が多すぎる!!

:え、エッチ…?オタク…?

:私全部当てはまってる?! 住所は?!晴翔様は何処?!

:ワイはオタクと性欲しか当てはまらない定期

:↑私も

:↑私も

:大丈夫!あくまでタイプだから!……グスン



何か喋っている途中で興奮してぶっちゃけちゃったけど大丈夫みたいだ。

うん、これからはリアルな男子として配信していこうそうしよう。そうすれば言い訳できるし安心だわ。俺って天才?


『ごほん………えっと、それで、今のうちに皆に言っておきたいことがあるんだけど、俺は配信者として活動していく中でなるべく本音でやっていくつもり。もしかしたら今みたいに不快になる人もいるかもしれないけど…それでも良ければ是非リスナーとして応援して欲しいな』


プロの配信者や芸能人でもよく仮面が剥がれることがある。そしてその時は大抵の場合炎上する。なので俺は初めから仮面を付けないことにした。…疲れるし、それにプロでも無理なら俺が出来るわけ無いんだよな。

その分ファンが減ってしまうだろうが…そこは仕方が無いと割り切るつもりだ。


コメント

:わかった!

:もちろん!応援します!

:私は良いと思うよ!

:逆に本音の方がリアルの男性を知れていい

:お互い楽しまないと意味ないからね!賛成!

:アンチは湧かないと思うよ むしろ逆にファン増える



そう思っていたんだが…想像より大分好印象でビックリした。

確かにお互い楽しまないと意味ない…うん、その通りだと思う。


――これ以上ぐちぐち言うのは止めだ! 素直に配信を楽しもう!



そこから俺は時間の許す限り沢山の質問に答えていった。


あるときは最近のご飯で何を食べましたか?の質問にカップラーメンと答えて怒られたり、性癖は何ですか?の質問にうなじと脚とくびれ!と答えて騒がれたり。またあるときはガチ恋距離お願いします!と言われてカメラにキスしたら黄色い歓声を浴びたりと、本当にいろんな事をやったBANされないよね?


そして楽しい時間はあっという間に過ぎて配信終了間際。

最後の質問タイム。


『それじゃあ最後!……なになに?「晴翔様ってこの前に下着姿の自撮りで話題になっていた男性と同一人物ですか?どう見ても同じとしか思えません」だね。えっと――――これの答えはYesだよ!あの時は本当に焦ったよ!無一文だったからね!皆もお金は大事にしよう! じゃあお疲れ~!』



彼はどう考えても特大級の爆弾発言をかましていった。

自分の影響力を考慮せずに…。 



一方そんなことになるとは露知らずの彼はと言うと、『配信楽しかったー!』と呑気に鼻歌を歌いながらお湯に浸かっていたそうだ。





――この発言によって向こう数日間、彼はSNSのトレンドを総ナメにした。

それに続いてショップで販売していた彼のえっちな自撮りを求める大軍によってサーバーは陥落。復旧後写真は売れに売れると最終的な販売数は全世界累計7桁に到達したのだった。







◆◆◆あとがき


1,000,000 * 5000 = ???


え?この世界では男から税金はとらないの?国外流出を防ぐため?

えっと…それってショップの経費を差し引いても……。

ええ…(困惑) こんな大金どうしよう…。



              募集



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る