第15話 股間の膨らみと秘密の箱

「うっ…、嘘だ…

嘘だろ、こんな事があるものか…」


どう見てもヅラリーノの拳大のハゲはカツラを剥がした跡ではない。

何せ無数の毛穴が見えるのだ。

髪を無理矢理引っこ抜いたせいなのか、毛穴の幾つかには血が滲んでいる。

前にカツラを引っ剥がした時には頭頂部には毛穴は無く、勿論のことだがしっかりした髪の毛も無く、あったとしても痩せ衰え今にも死にそうな細い髪のみだった。

毛根が死滅した文字通りの不毛の荒野だったはずなのだ。

それがこんな短期間で髪は生えるのか?

死滅した毛根が生き返るのか?


不意に誰かが車椅子を動かした。


「シロタン、チャイムが鳴ったよ!朝礼に行かなくちゃ!」


クロだ。

俺はどうやら呆然としてたのか、始業のチャイムが聞こえていなかったようだ。

それにしても解せない。

何故だ…

何故なのか、

ハゲのはずなのに…


虚なまま、昼休みの時間が来た。

いつものようにパリスを売店へ向かわせ、焼きそばパン二つとコーヒー牛乳三本を買ってくるように指示をする。


ずっとヅラリーノの頭皮のことが気になって、授業のことなど上の空だった。

上の空過ぎて、授業中、無意識にコーラを飲んだところを教師に見られ、罰として廊下に立たされたのだが、今の俺は車椅子。

座っているだけだからな、こういう時に車椅子って物も悪くないもんだなと感じた。

そうだ、電動車椅子って物があるからな。

今度、電動にしよう。

改造してモーターをデカいのに換え、タイヤじゃなくキャタピラに換えたら凄いマシンになるだろうな…


そんなことよりもだ、ヅラリーノのことばかり考えていてもどうにもならないからな。

俺は気分転換にスマホを取り出し、SNSをチェックする。


なんて事だ…

俺がam/pmの駐車場で黒薔薇婦人と遭遇したことから、高校に着いて婦人と共に登校するまでの画像や動画が既にSNSに投稿されていたのだ。

この情報の速さには軽く恐怖を感じる…

俺のカリスマ性は自分で思ってる以上に高いのかも知れない。


やっぱり、俺は罪な男だ…


パリスが注文した物を買って戻ってきた。

買ってきた物を確認すると、俺達は屋上へ向かう。

ブラックファミリーは昼休みになると屋上へ出る。

屋上に俺達の定位置があって、そこで昼休みを過ごしているのだ。

しかしその場へ行くには車椅子だと階段は無理だ。

パリスや栗栖、榎本らに担がせればいいだけのことだが、俺はそこまで鬼ではない。

幸いなことにこの高校には業務用のエレベーターがあり、俺はそれを使って校内の階を移動している。

俺とパリスはエレベーターへと向かう。


エレベーターの扉が開き、屋上の端の定位置に既に誰かがいるのが見えた。

多分、クロと榎本、妻殴りの三人だ。

この三人はいつも先に来ている。

近付くにつれて、いつもの三人の姿がはっきりと見えた。


しかし今日は少しばかり様子が違う。

その三人が何やら地面に置かれた大きな段ボール箱のような物を囲むようにして立っているのだ。

かなりの大きさの段ボール箱だ。

高さだけで榎本の腰より上まである。


俺が近付くと三人が振り向く。

三人とも表情に困惑の色を浮かべていた。


「それはどうしたんだ?」


「わからない。

僕らが来た時には、既にこれがここにあったんだよ。」


クロだ。

三人へ近付き、


「とりあえず開けてみろよ。

話はそれからだ…」


「え?何が入ってるかわからないし、僕は嫌だよ。」


クロはいつもこれだ。

榎本も榎本で、自分にその役目が来るのを嫌がり後退りした。


「妻殴り、お前がやれ。俺は車椅子だから出来ない。」


妻殴りは頷くと、緊張した面持ちで段ボール箱の天面に貼られたガムテープを剥がし、天面を開く。


「え!」


段ボール箱の中身を見たクロは声を上げ、榎本は腰を抜かした。

妻殴りはそのまま固まった。


「何が入っているんだ?」


俺は段ボール箱の中を覗き見た。


「おいっ!


栗栖っ⁉︎」


栗栖だ。

段ボール箱の中で栗栖が全裸で体育座りをしていたのだ。


「おい、栗栖、お前はそこで何をしているんだ?」


俺の呼び掛けに栗栖は無反応だ。

クロや榎本、妻殴りも呼び掛けるが無反応。

栗栖の目蓋は閉じている。寝ているのか?


「起きろ、栗栖。」


と栗栖の肩を軽く揺するが、やはり無反応だ。


「栗栖を箱から出そう。」


三人が手分けして栗栖を段ボール箱から出そうとするが、栗栖は肥満体なのだ。

その重さのせいか三人の力を以ってしても箱から出すことが難しい。


「箱を広げるのはどうだ?」


俺の提案から、段ボール箱の四隅を切って箱を広げることにした。

三人が手分けして段ボール箱を切り開いていくと、手前の面が栗栖の重さで倒れる。

栗栖は体育座りのまま横転した。

しかし栗栖は目覚める素振りを見せない。


「おい、栗栖。起きろ。」


と俺が呼び掛け、クロが栗栖の肩を揺するが起きない。


「仰向けにしてみろ。」


クロと妻殴りが栗栖の身体を上向きにし、手足を伸ばして仰向けにする。

ここで気付いたのだが栗栖は全裸ではなかった。

白ブリーフに白靴下のみだった。

不可解なことに何故かその白ブリーフをサスペンダーで吊っているのだ。

白ブリーフに白靴下、という組み合わせには敬意を感じるのだが、白ブリーフをサスペンダーで吊り上げる意味はあるのか?

そして、もう一つ不可解なことがあることに気づいた。


栗栖の白ブリーフの股間の辺りがドえらく膨らんでいるのだ。

こいつ、こんなにデカかったか?

そんな事はないはずだ。

俺は白ブリーフの中を見たことがあるのだ。

栗栖のいちもつはお粗末だ。

ならば勃起でもしているのか?

この状況で?不可解過ぎる…


その時、背後に人の気配を感じた。

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