第31話 最強種族によるドタバタは止まらない

 ドラノアに連れられ、俺は野外へと出る。

 遊ぼうといって聞かないのだ。


「遊ぶのはいいけど、何して?」


『うーん……あ! それは何をするものなの!』


「ああ、これはボールだよ」


 俺の足元に転がっていたのは一つのボール。

 考え事をするときに、バスケ部みたいに指でボール回しやら、サッカーみたいにポンポン跳ねさせていたボールだ。


『それで遊ぼわよ!』


「わかったよ。じゃあこんな感じで返してみな。それっ」


 そしてポーンとドラノアの方に弾いた。

 バレーボールだ。


『おおっ、そ~れ!』


「──ぐはぁ!」


 ドゴオッ! パーン!

 俺の打ったボールは隕石がごとく打ち返され、俺の顔面に当たり破裂した。


「し、死にかけた……」


 咄嗟とっさの『魔力結界』、加えて全身『身体強化』でなんとか難を逃れたが……


『ルシオ! 次! 次の“ぼーる”!』


「無理無理!」


 ボールを破裂させるゲームか何かと勘違いしてないか?


 そうだ、あんな可愛い見た目でも中身は立派な最強種族ドラゴン。

 そんな見た目になっても、力は健在か……。


『えー、つまんない!』


「じゃ、じゃあこれならどうだ!」


 そうして収納魔法から取り出したのは、将棋セット。

 セットに反応して、ドラノアはシュバッ! と俺の元へ来た。


『ん~? なによこれ、絵が書いてあるみたいだけど?』


「そうなんだよ。これはな──」


 将棋とは言っても、少し異世界風。

 ドラノアが絵と言ったように、本来漢字である場所には魔物や兵士などの種族に表して、分かりやすくしてある。


 ルールはまるっきり一緒だけどな。


 これなら怪我をすることもないだろう!

 なんなら、魔獣が恐れられているせいで絵のウケが良くなかったので、念願の相手も出来て一石二鳥!


『うん! 難しいけどなんとなく分かったわ!』


「おー、理解が早いな」


『じゃあ、あたしから』


「おう。──ごふっ!」


 ダァン! と歩兵を将棋盤に叩きつけたドラノアは、そのまま盤を破壊。

 真っ二つになった台の片側が、見事に俺をあごから突き上げた。


『ああルシオ! ごめんなさい!』


「いててて……。だ、大丈夫だ」


 大丈夫ではないけど。

 しかも将棋盤も壊れてしまったし。


『次は次は!』


「あ、ああ。って、だから壊すゲームじゃねええー!」


 この時点で察してはいた。

 だが、この無邪気な暴走列車を止められるはずもなく……。


 そうしてその後、いくつもドラノアとたわむれようと試みるが、圧倒的パワーの前に道具を使った遊戯ゆうぎは全壊。


 治癒ちゆ魔法があるからいいものの、俺が毎度死にかけるハメになった。


『あはは! 楽しいわね! ルシオ!』


「た、楽しくねえ……ぐはっ」


 何気なく発してしまった言葉だが、どうやら効いてしまったよう。


『楽しく……ない?』


「! めーっちゃくちゃ楽しいぞー。あははー」


『良かったわ!』


 楽しいか楽しくないかの二択で言えば、楽しい。

 ただ、毎回死にかけるだけだ。

 

 誰か助けてくれ……と心の中で叫んだ頃、夕飯の仕込みを終わったらしいリーシャが、コテージの扉を開いて声を掛けてきた。

 気が付けば夕方になっていたのだ。


「そろそろ湯に入るけど、ドラノアはどうする?」


『ん? 湯……とは?』


 そうか、温泉のことは知らないか。


「あれだよ。温かくて気持ちの良い施設なんだ」


『ふーん……』


 ドラノアは俺の指した方向を眺め、俺の顔をじーっと見た後、


『じゃあルシオと入る!』


「えっ!」

「なっ!?」


 とんでもないことを言いだした。


「ちょ、ちょっと! それは……ど、どうなのよ!」


「そ、そうだぞ~、ドラノア。温泉は裸で入るところなんだ。だから、その……」


『関係ないわ! あたしはルシオと入りたいの!』


「だからダメよ!」


 俺よりもリーシャが、ドラノアのことを必死に抑える。

 そうして何を思いついたのか、ニヤリとした表情のドラノアが言い放つ。


『でもルシオじゃないと、あたしを抑えられないんじゃない?』


「!」


『ルシオならともかく、ただの人間のリーシャには荷が重い気がするわね~』


「それは、たしかに……」


 その言葉には、むむむと考えたリーシャ。

 彼女が出した答えは、


「じゃあ、私も一緒に入るわ!」


「リ、リーシャ!?」


「なによ、文句でもあるの! た、ただ、ルシオがドラノアに変なことしないか、み、見張ってるだけだから!」


「そういうことならわたしも一緒に!」


「!?」


 後ろからいきなり挙手して現れたのは、スフィル。

 ていうか、聞いていたのか。


『じゃあ我も』


 って、フクマロお前もかよ!


『じゃあみんなで入るわよ!』


 そうしてドラノアが、楽しそうに右手を上に突き上げる。

 そんな空気を抑えられるわけもなく……


「もう好きにしろー!」





 かぽーん。

 外で竹の音が鳴り響く。


『ルシオ! これはたしかに気持ち良いわね!』


「お、おう……」


 俺に腕を絡め、ぴったりとくっついてくるドラノア。


 控えめながらも、当然むにゅっという感覚はある。

 何がとは言わないが。


「ちょ、ちょっと寄りすぎよ! ドラノアってば!」


 それを横から必死に抑えるリーシャ。


「ルシオさん……」


 ドラノアの反対側で地味にすり寄ってくるスフィル。


『ワゥ~ン。……修羅場よのう』


 我関せずなペット枠。

 最後、ぼそっと何か言った?


 勢いのまま押されるがまま、気がつけばこうなった。

 この見事なまでの混浴状態。


 美女に囲まれた混浴、それもかなり距離が近い。

 なんならほぼゼロ距離だ。


 男なら一度は憧れるシチュエーションであろう。

 それがまさか、こんな形で実現されるとは。


 ドラノアには振り回されてばかりだが、その分リターン(?)もあるように思える。

 良くも悪くも、積極的には変わりないからな。


 それに、


「……」


 ごくり。


 ドラノアも含め、それぞれ体にはタオルを巻いている。

 巻いてはいるのだが、やはり濡れた布一枚の向こうがお肌だと考えると、どうしても意識してしまう。


 眼福ではあるが、見ていることを察せられてはいけない、まさに究極の状況。

 素晴らしいが、俺の心臓が持ちそうにない……!


 幸か不幸か、ドラノアがもたらすものは刺激が強すぎる。

 こんな調子で、俺はやっていけるのか?


 そう思いながらも風呂の時間を楽しんだ。

 だが、ドラノアによる波乱はまだまだ続く。

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