『クロク・オリジン』

常闇の霊夜

序章『この世界の隔たりと偏りと』

『昔々と今生の』

プロローグ『このクソッたれの世界へ送る黒塗りのラブレター』


 この世界は不平等だ。その昔、魔法と言うモノが産まれ、その後とある魔法使いがある魔法を発見した。その名前は『オリジナル魔法』。……なんとも陳腐な名前だが、これ以外に良いネーミングセンスが無かったのだろう。今は『我流魔法オリジン』と言う名前が付けられているが、まだその呼び名が無かった頃の話である。


 それはともかく、このオリジナル魔法と言うモノがとにかく強く、通常の魔法の十倍程度の強さがあると言われてきた。実際、このオリジナル魔法を持っている者が有利になり、そこには格差が産まれることになった。


 そしてここが重要になってくる。。つまり我流魔法を持っている奴と、持っていない奴が結婚した場合、大体半々の確率で持っている者と持っていない者が産まれるのだ。


 これが格差を広げる要因となった。我流魔法を持つ者は、必ず持っている者と結婚するようになり、逆に持っていない者は持つ者とは絶対に結婚出来ず、どうあがいても格差は広がっていくばかり。


 その結果、この世界には余りに大きな格差が産まれた。どれだけ魔法を鍛えても、どれだけ肉体を鍛えても。我流魔法を持っていなければ全てゴミ。それがこの世界の常識なのである。


 ここはとある平民が住む場所。お世辞にも良いとは言えない場所だが、少なくとも人が住める最低条件を満たしている程度の土地。ここで、平民達は慎ましく生活をしていた。割と皆仲が良く、それには上には上の、下には下の結束がある為である。


 ある日、この平民達の住む村で新たな命が誕生した。名前は『ヤノカ』。基本的に平民は苗字を持たない。持ったところで、誰に言う訳でもないからである。


「また赤ちゃんが産まれたのか」


「ま、労働力になるだろ。それより今月のノルマ達成しないとなぁ……」


 平民達は、貴族達に色々なノルマを課せられている。金やら作物やら物資やら……。まぁ大概が片手間に達成できる程度の物なので、切羽詰まると言う事は無いのだが。


「はぁ……我流魔法が使えりゃこんな生活しないで済むんだがなぁ……」


「ま、それが無いからここにいるんだがな。いいから今日の狩りに行くぞ」


「へーへー」


 だが。ヤノカには我流魔法が宿っていた。それが判明するのはヤノカが十歳になる頃の話。たまに口から黒い粒が出てくる事が気になったヤノカは、それを取り出して調べてみる事にした。


「……あっ、動く!」


 その結果、この粒は自分の意志で動かすことが出来ると言う事に気が付いた。それからという物、ヤノカはその黒い粒々『クロク』を使い色々やってみた。


「ヤノカがいると狩りも楽だなぁ」


「えへへ……」


「おいっ!あっちに行ったぞ!」


 このクロクと言う物質、まず初めにヤノカの口から出すことが出来、大体三万粒程度で打ち止め。固めると凄い硬度になるが、出し切るとしばらく出すことが出来なくなる為、結構注意がいる。


「あのくらいの距離なら届くよ!」


 続いて、このクロクは射程があり、大体ヤノカの半径五十メートル圏内なら、大体自由に動かすことが出来る。とは言え、視界外に出ると一気に精密動作は出来なくなるし、距離が離れると威力も下がっていくと言う感じ。


「プギャーッ!」


「これで三匹目だ!今日はもう帰るか?」


「そうだね。じゃぁ獲物は僕がもっていくよ!」


 そして三つ目、このクロクを使って空を飛ぶことも出来る。ヤノカの半径なら自由に動かせると言ったが、それを応用し、クロクで自らを持ち上げ飛んでいく事を覚えた。


「……やっぱ、持ってるのと持ってないのじゃ相当変わるよなぁ……」


 そんな訳だが、ヤノカは我流魔法を持っているにもかかわらず、こうして平民として過ごしていた。村の皆も割と、優しいヤノカの性格故か普通の人間として接していた。


 ヤノカが十の頃。この頃のヤノカはかなり成長しており、やや青黒い髪を短くまとめ、金色の目をしていることが判明した。かなりの美形である。両親はある決心をする。ヤノカはここで腐らせてはいけない人間であると、もっといい場所で、もっといい勉強をさせるべきだと。


「お金……、まぁこれだけあれば大丈夫かね」


「そうだな。……後はあいつの心しだいだ」


 そしてヤノカが十四歳になる頃、遂にヤノカは大きな町に行く事になった。そこには学園もあり、数万人規模の人間がいる、とても大きな町である。ハッキリ言って平民が来れるようなところではない。


「本当に行っていいの?」


「あぁ。村の皆もお前が行くならとお金を出してくれたよ」


「……え、でも僕なんかに……」


「いいか!お前には凄い力がある!普通じゃない力が!お前なら間違いなく、その力を正しいことに使ってくれると信じてる!……だから、行け!」


 ヤノカは父に激しくそう言われ、しばらく考えた後に決断する。確かにヤノカも町には行ってみたかったし、憧れと言うのも確かに存在はしている。故に、ヤノカは行く事を決める。


「……分かった。僕、行くよ。この能力が神様から与えられたなら……僕は、それを正しい事の為に使うよ」


「ヤノカ!……風邪とか、ひくなよ」


「……うん!じゃあ行ってくるよ皆!」


 そして、町の皆から見送られ、ヤノカは一人町へと向かう。これがこの世界を変える一端になることを、今はまだ誰一人として知る由は無かった。

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