鳥帽子岳のジハード
散るものもなく咲くものもない。
佐世保市の十二月はただ寒くなるばかり。
最近の俺と言えば副リーダーの三村と『仏打』狩りに精を出している。少し前はそんな喧嘩ばかりだと敵をつくるばかりでよくない、もっとメンバーを増やせよ。
なんて言っていた三村がニコニコしながら俺と一緒に喧嘩している。
何かあったな、とは思うがその何かが解らない。
そんなもう年の瀬十二月二十五日にライバルチーム『仏打』のリーダー桃野から俺に連絡があった。
直截スマホにだ。
自分の情報網で調べたとは言っていたが俺はピンときた。コイツ三村と繋がってるな。
桃野は決着を付けよう、終わらせよう。
とチームの解散を賭けた話を持ちかけてくる。
これで解った。
三村はおれたちの暴走族を終わらせるつもりだ。
半年前からそんな兆候はあった。
俺は終わらせるのはさびしい。
三村も俺も他のチームメンバーも貧乏で親の虐待やら何やらから生き抜いたサバイバーじゃないか。
オトナになったからってそんなに簡単に消して良いものじゃない。
だから俺は思ったんだ。
圧倒的に桃野達を倒しハッパの販路も奪い金を集められればまた三村だって暴走族を続けるって言ってくれるかもしれない。
だから桃野にはやってやるよと強く答えといたんだ。
クリスマス当日
烏帽子岳頂上にある駐車場。
そこで俺と三村。
桃野とおっさん。その四人だけでタイマンを張ることになった。
クリスマスでもあるし山頂はカップルとかが多いかと思っていたが俺達以外人はいないようだ。
そりゃそうだと思えるほど強い風だ。
その冷たさと鋭さに頰が千切れそうだ。俺はカナダグースのフードを被り三村のモンクレールのフードをあげる。
桃野は仕立ての良さそうなコートの襟をたてる。
横にいるオッサンだけ醤油のシミが付いてそうなねずみ色のスウェットパーカーを抱きしめてガタガタ震えている。
このオッサンは馬鹿なのか?
「じゃあとりあえず三村とおっさんからな」
俺がそう言うやいなや三村はオッサンに躍りかかりすぐさま引き倒し顔面を殴り続けている。
「あーあ喧嘩になってないじゃん」
そういうと桃野は笑い乍ら
「まあそうだろうね普通のおっさんだし」
と言って笑う。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄松本の懺悔 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
何故俺は殴られているのだ。
松本は自分の人生を悔いる。あの時強がらなければこんんあ事にはならなかった。初対面の若者相手にしたことすら無い喧嘩の話をしてあれよあれよという間にこんなことに巻き込まれてしまった。そんなことが沢山ある。人生において出来ないことは出来ないとハッキリ示さないと碌な事にならない。俺が悪かった、悪かったんだ。
謝ろう。
喧嘩なんか出来ないと。
謝ろう。
まいった、そう言って終わらせるんだ。
そして明日から俺は生まれ変わろう。
巻き込まれてしまった。そんなことが沢山ある。人生において出来ないことは出来ないとハッキリ示さないと碌な事にならない。俺が悪かった、悪かったんだ。
謝ろう。
喧嘩なんか出来ないと。
謝ろう。
まいった、そう言って終わらせるんだ。
そして明日から俺は生まれ変わろう。
追撃の手が止む瞬間をまって俺は声を上げた。
まいっt
叫ぶ前に俺に馬乗りになっていた若者が黒い塊に吹き飛ばされる。一瞬軽自動車かと思った。
若者を吹き飛ばした塊はその場にとどまる。
大きく黒い強い獣臭を放つ本物の羆だった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
黒い塊に吹き飛ばされた三村を皆が目で追う。
視線を戻すと羆だ。
それもかなりでかい。
あまり現実感の無い出来事に桃野も仇も動けずに居た。羆はそのままゆっくり腰の抜けている松本に近づき前足を松本の身体に乗せる。
水たまりの水を飲むように鼻先を近づけ松本の腕に嚙みつく。
バキバキ。
一気に骨まで折れたようだ。
松本は無言だ、痛くはないのだろうか。
「た、助けなきゃ」
桃野が至極当然な事を言い仇は我に返る。
「ど、どうやって」
三村がが走って自分の車に戻り金属バットを持ってきて仇に渡す。
「いや、俺がやんのっかよ!」
お笑い芸人の突っ込みのようになってしまったが松本から徐々にうめき声が聞こえてくる。
「あ、あ、ああああ、ああああ」
こんな初対面の奴の為に身体を張らなきゃならんのか。
しかし逡巡する暇はない、目の前で人間が羆に食われているのだから。
桃野に車のエンジンを掛けて置けよと指示を出し仇は果敢にも金属バットで羆に殴りかかる。
ボス
大きな砂袋を叩いたような情けない音。
全然まったく効いていない。
羆はおそらく蚊に刺されるよりも何も感じていないだろう。
しかし熊も不愉快だったのかターゲットを仇に変更し襲いかかる。
ビンタの様なフックのような。熊の手がゴキンと横っ面に
辺り目がひっくり返る衝撃を受ける。
あ
終わった。
仇はそう思った
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