市議嵐

羅波 平行

努と力

糞みてぇに寒い十二月。


俺と弟の力は二人して先輩のヴェルファイアを借りナンパに言った。


俺は努、弟は力。二人合わせて努力な努力兄妹ってわけ。


小さい頃から名前を馬鹿にされいじめられある日ぶち切れて馬鹿にしてきた奴の耳を噛み千切ってやった。それから不良街道を真っ直ぐ進み今は暴走族をしてる。



 暴走族はいいとしてこんな寒い時に出かけてしかもナンパだなんてまっぴらだが弟の力が

「あにぃ、おれ温かいまんこにちんぽいれてぇよぉ」

なんてグズリ出すのでもうどうにもならん。


弟は腕っぷしは有るが頭が弱くセックスのことについてはことさら我慢できない。



それでも自分は仕事だし弟をひとりで行かせると碌な事にならない。


週末まで我慢させている話を『武羅苦』のリーダー仇さんに話すと快く車をかしてくれた。


軽自動車じゃさまにならないだろなんて優しい言葉と共に真っ黒でギラギラメッキパーツのついたヴェルファイアをだ。



これはリーダーの仇さんが福岡で盗んで来た奴だ。

そして「別荘」の鍵まで貸してくれた。

烏帽子岳頂上付近にある豪華な平屋。地元の名家、長田宝石店のどら息子が別荘として使って居るの脅して合い鍵を奪い取ったやつだ。


それから一年、ラブホ代わりに使ったりチームでバーベキューをやるときに利用している。


車も別荘も惜しげ無くチームに貸し出す仇さんの気前の良さが好きだ。


「綺麗に使えよ!」


笑顔の仇さんに慇懃に頭を下げその場を後にした。


そして週末。



マジで糞みたいに寒風吹きすさぶ中、弟とふたりヴェルファイアで佐世保市内のナンパスポットを目差す。  


車のハンドルがぶれる程の強風。

糞寒いうえにこんなに風がある日に女がナンパ待ちしている訳が無い。


しかし弟の力は車の窓に額をつけ鼻息でガラスを曇らせている。


おそらくチンポはビンビンのはずだ。


 我が弟ながら情けない姿。いまさら中止にしようとも言えず結局佐世保のナンパスポットである相浦に到着した。


 俺はスピードを落とし車の中からゆっくり通りを眺める。いつもならナンパ待ち女も多く歩いた方が顔もわかって良いんだけどさすがに今夜は人っ子ひとり居ない。



風がびうびうと渦巻き体感温度を容赦なく奪ってゆく。


 こんな日にナンパ待ちをしている女はキチガイだ。


そしてナンパをしようとしている男もキチガイだろう。


 俺はキョロキョロするのも面倒になり車を止めスマホを取り出す。


 「なあ力、俺は此処でゲームでもしてるから歩いて脇道でも見てこいよ。こんな寒い中堂々と待ってる女なんかいねえよ。せめて風の当たらない所に行ってるだろ。歩いてさがしてこい」



 弟はブーブー後ろで言っている。甘やかしてはきたが今夜こそは付き合いきれん。寒すぎる。


 しかし弟は車から降りる気配が無い。コイツもさすがに寒いのだ。もう少ししたら諦めるだろう。


「兄ちゃん!女!女だ!」


いきなり弟が興奮して叫ぶ。顔をあげると確かに女がいる。前方のベンチにひとりぼんやり座ってうた。強風で髪がバサバサなんて生やさしいもんじゃない。狂ったようにうねらせている。


バケモノの類いにしか見えない。しかし弟は飛ぶように車から降り女の元へ走って行った。馬鹿だ。


しかたなく俺も車から降り女の元へ。

弟はすでに女の隣に座って居る。

 女の第一印象は汚い、だった髪は長く固く風に靡くというよりも押されるように動きメイク落ちかけている。

パンツは三本ラインだがアディダスじゃない知らないマークがついている。


上着は洗いすぎて薄くなっているナイロンジャケット。


外灯でもわかる程に至る所に醤油染みの様な物がついている。



 弟はそんなことを気にする様子も無くすでに女の肩に腕をまわし仲良さげに喋っている。


そして女はナンパも何も誘いも禄にしていないないのにとっとと車に自ら乗り込んだ。弟と共にだ。


俺は舌打ちして運転席に戻った。

 

俺がチームの別荘に向かい車を走らせている間、後部座席は盛り上がっていた。


「良かった~外寒くて~車の中あったか~い」

女の嬌声、そして駄菓子みたいなイチゴの臭いが車内に充満しだす。なんだ?香水か?


「ねえ!何処に行くの?」


運転中の俺に女が顔を近づける。強い口臭に辟易し。


「黙ってろ」


とだけ言った。


「え~怖~い」


女は気にする様子も無く席に戻った。



その後えらく静かになったなとバックミラーで後部座席を見ると弟が必死に女の胸をTシャツの上から揉んでいる。


そして二人してクスクス笑い合っている。



「おい別荘まで待たんや」



俺が強めにキレると弟は素直に従った。


リーダーは綺麗好きで車を汚されるのを嫌う。



こいつらの汚い汁でシートを汚すわけにはいかない。


 その後は静かなまま、目的地である別荘に辿りつく。


豪華な門扉に広く瀟洒な平屋。佐世保の街を一望できる立地。


そんな建物に女は興奮し我先にと別荘に入っていった。


弟もまるで新婚の様に女を追いかけ二人して玄関の鍵を開け中に入っていった。



俺はため息をつく。


俺も中に入るがあの二人は電気さえ点けていない。たぶんすでに最奥にある寝室に行って既におっぱじめている事だろう。


俺は広く磨き込まれたフローリングの廊下を歩き手前の居間にはいった。大きなソファにゆっったりと腰を下ろしセブンスターに火を点ける。

弟には困ったもんだ。



女であれば馬鹿だろうがブスだろうがお構いなしに腰を振る。性欲と喧嘩だけは異常に強い。今夜は特に張り切っていたので一晩中セックスするだろう。


俺はあの女の口臭ですでに萎えている。



 電動のカーテンを開き佐世保の夜景を眼下に納める。その後、部屋の電気は点けずに薄暗いままブルーレイを物色する。プロジェクターで映画でも見よう。



 仇さんの趣味であるSF映画ばかりでどれがどんな話かわからない。しかし「アルマゲドン」を目にした時にあぁ題名だけは知っているな、とこの映画を見ることした。

 

まだ盛り上がりもしない序盤も序盤。もう一本煙草に火を点けようとしたとき。



ガシャン


完全にガラスの割れる音だ。



何よりも綺麗好きで別荘を愛している仇さん。その別荘を壊したとなれば俺も弟も制裁は免れない。


俺は血の気が引いた。


ヤバイ。


仇さんの暴れっぷりを知っている俺はすでに漏らさんばかりだ。そして恐怖の後に爆発するほどの怒りが湧いてきた。あんの糞馬鹿ども何をしてやがるんだ!


「チカラッ!なんばしよるとや!」


俺は怒声を上げる。


ツトムの返事は無い。


俺はそれでも弟の名を呼び続けるが只電気も付いていない闇夜に消えていくだけ。


俺は手探りで寝室まで辿り着く。部屋を覗くも電気は消えたまま廊下と同じく真っ暗。


「オイッ返事くらいせんやッ」


しんとしたまま風の音だけがびゅうびゅうと響く。カーテンがはためいている。やはりガラスが割れているようだ。


何が起きた?


手探りで明かりを点け俺は驚愕した。


部屋中が泥だらけだ。マットレスがひっくり返りなにやら赤黒い液体がべったり付着している。


・・・血か?


俺は震えた。横を見るとあのブスが膝を抱え座り込んでいる。


「オイッ!居たら返事くらいしろや!弟は!?チカラはどうしたんだよッ!」


ただただブルブル震える女におれはゲンコツを食らわせる。


Tシャツを掴んで無理矢理立たせた。


「オイッ答えろよ!弟はどうしたんだよ!」



「わかりませんッいきなり!いきなり!黒い影が覆い被さってきてッ!もうッ!私わかんないッ!」


そう絶叫すると女はまたへたり込んだ。


二人してドラッグでもやってたのか。しかし弟は大麻くらいしか持っていないはず。


大麻じゃこうはならないし、この女が何か薬を持っていたのか。



 赤黒い血らしきものの引き摺られた後が外まで続いている。


 何が起きてやがる。



ライバルチーム『仏打』の襲撃か?あの金目当てが揃うへなちょこ達にこんな真似が出来るのか?



ポケットからナイフを出した。


殺し合いかよ、やってやる。舐めんなよ。



「出てこいッッ!やってやんよッッ!」



外に勢いよく飛び出した時に。


自分の意思とは関係なく顔が背後を向いた。




顔だけが。


バキバキと割れる音と共に。



感覚的には身体は正面を向いたままだと思う。

顔だけが寝室を見てる。


あれ?


そのまま俺の意識はブラックアウトした。








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