第50話 『遠雷の魔女は語らない〜大虐殺〜』

 町の出入り口近くで転んだまま泣いてると、教会の方からゴーンゴーンって鐘の音が聞こえてきた。

 神父様のお葬式が始まったんだ。

 僕は最後の最後まで、お別れすることが出来なかった。

 雨でずぶ濡れになって泥だらけの僕は、なんか急に、気持ちがふって軽くなったことに気付く。

 吹っ切れた時に似てるけど、神父様のことがどうでも良くなったことじゃないのだけはわかる。

 でもなんだか、上手く説明出来ないけど、急に心のどこかが冷めたような感覚になった。

 僕は立ち上がって、最後にもう一度教会のある方を見る。

 今もずっと鳴り響いてる鐘の音。

 これはみんなが神父様にお別れをして、お葬式が終わるまで続けられる。鐘の音が亡くなった人の魂を、天国まで導く為のものだって教えてもらった。

 今、神父様の魂は遠いお空にある天国に向かっているんだ。


「ばいばい、神父様……」


 僕はとぼとぼとした足取りで、自分のお家に帰った。

 

 雨は激しく降ってて、大工さんに直してもらう前の家だったらきっと今頃お家の中にいても雨に打たれてたと思う。

 猫ちゃん達は、雨の日は家の中のあちこちでくつろいでる。

 僕だけの部屋なんてものはない。全部猫ちゃんのもの。

 だから猫ちゃん専用に増築してもらった小屋も、元々あった家と繋がってて行き来出来るようになってる。

 もちろんそこにも猫ちゃんがくつろげるスペースになっていた。

 

「ただいま、クリス、チャープ、ミッチー、ドリス、アネル、マリリ、ジェムス」


 僕はお家に招いた五十匹の猫ちゃん全員に名前を付けている。


「ラスク、イリア、ルーモス、エンダ、ロロ、カディス、ムシュー、タチアナ、メルル、ツァトル」


 ぼとぼとになった服を脱いでカゴに投げ捨て、おんなじような色違いのワンピースに着替える。

 何年でも着られるように、あえて大きめのものを買った。

 顔半分すっぽりと隠れるフードも、両手が完全に隠れちゃうほどの長すぎる袖も、どこも締め付けることのないサイズに僕は安心する。

 そのままベッドにパタリと、猫ちゃんが座ってないスペースに倒れ込んだ。ベッドもまた猫ちゃんが寝転んでても、座ってても、このお家にあるものは全部猫ちゃんのものだから、どかせたりなんかしない。

 僕はもぞもぞ、ゆっくりベッドの端っこから真ん中の方へ移動していく。猫ちゃんはそれを察して、改めて僕をクッション代わりにするように座り直す。

 顔の近く、お腹あたり、背中、足元、あちこちから猫ちゃんの「ぐるぐる」「ごろごろ」という音? 声? が聞こえてきた。

 そのぐるぐるごろごろを聞いてると、なんだか子守唄とかを聞いてるみたいにぐっすり眠れるようになるんだ。

 とっても心地良くて、僕以外にも存在を、命を感じられて、安心するんだ。そのままとろんと意識が遠のく。

 神父様の死が嘘みたいに感じられる。

 さっきまであんなに取り乱してたのに。

 今はとにかく、とっても眠かった。

 猫ちゃんの体温に包まれて、僕は深い深い眠りにつく。


 ***


「……っ!?」


 突然、何かが起きた。

 熟睡してたから理解が追いつかないけど、僕は誰かに体を押さえつけられていることだけはわかる。

 口に何かを噛まされて、声が出ない。唸り声が漏れるだけだ。

 両手は後ろ手に回されて締め付けられてる。両足も一緒。ロープか何かで拘束されている。

 目をきょろきょろさせて周囲を確かめる。

 猫ちゃんは!?

 バタバタという騒音がして、猫ちゃんの威嚇する声、悲鳴、人間の怒鳴り声、色んな音で溢れてて何が何だかわからなかった。

 だけど、これだけははっきりとわかる。

 前と同じだ。

 悪い人間達が、僕達の生活を脅かしに来た。

 そのことだけははっきりとわかる!

 僕は怒りに身を任せて魔法を放とうとした、けど……一瞬躊躇った。

 周囲のあちこちにはまだ、僕の大切な猫ちゃんが走って逃げ回っている。もしかしたらベッドのすぐ下にも隠れているかもしれない。

 ベッドの真上にある天井梁にも、猫ちゃんが潜んでいるのかもしれない。

 猫ちゃんだけを避けてくれるだろうか?

 僕の魔法は、悪者だけに命中してくれるんだろうか?

 わからない!

 魔法の効果範囲がわからない以上、むやみに魔法を放つわけにはいかないんじゃないか?


 そんな風に迷っていた僕は、頭に強い衝撃を受けた。

 痛みが走る直前に聞こえた言葉で、大体は理解出来た。


「魔法を使わせるな!」


 あぁ、こいつらは僕が魔女であることを知っている。

 魔法で反撃されないように、僕を気絶させようとしたんだ。


 僕はどうなってもいいから、お願い。

 猫ちゃんだけはやめて。

 僕の大切な猫ちゃんだけは……。


 ***


 あれからどれくらい気絶してたんだろう?

 ふっと目が覚めると、辺りはものすごく静かだった。

 頭がズキズキする。起き上がろうとして、初めて口に付けられていたものや縛られていたものがなくなっていたことに気付く。

 枕に血が付いてる。多分これは僕の血だ。頭を殴られて、その時に流した血に違いない。

 見るとここは僕のお家だった。だけどすっかり変わり果てた姿になっている。家具は壊れて倒されてて、本棚も一緒で、床に本が散らばっていた。

 窓ガラスも割られてて、初めてここに来た時と同じ、廃屋に戻ったみたいになってる。


「グリース? リアム?」


 名前を呼んだ。


「メナード? ルパート? ヒルト? エド?」


 ベッドから立ち上がって、ふらつきながら見渡す。


「アルフ? ハイン? ディート? ヴィル?」


 いない、どこにも。

 ベッドの下、梁の上、家具の下敷きになっていないか。

 テーブルクロスの下に隠れていないか。


「フリート! ルヴィ! ルムト! テオ! アンバー!」


 全身が痛くて悲鳴を上げてるけど、そんなことに構ってる暇はない。

 僕はとにかく出せる限りの声を出して、猫ちゃんの名前を呼んだ。

 鳴き声を聞き逃さないように。

 物音を聞き逃さないように。


「ガング! エデュ! マティン! ゴルト! 返事をしてよ!」


 だけど何の声も、何の音もしない。

 いつの間にか雨は止んでいて、風の音が聞こえるだけだ。


 探さなきゃ。

 きっとどこかで寒がって、お腹を空かせてる。

 僕が助けてあげなきゃ。


「そうだ、フルメンからもらった笛で……」


 誰が何の目的で襲ってきたのか知らないけど、僕がペンダントみたいにして首に提げていた笛は見逃したみたいだ。

 ピーッて吹いてみる。二度、三度と。

 いつもなら一回目でどこからともなく猫ちゃんが寄って来たのに、何度吹いても誰も出て来ることがなかった。

 つまりこの笛の音が聞こえる範囲には、猫ちゃんはいないことになる。怪我か何かして動けない、ということでもない限り。


 自分で想像して、ぞくっとした。

 もしどこかで大怪我をして、動けない状態だったとしたら?

 考えたくない! そんなことは絶対にない!

 嫌な想像をするな、シス!

 

 どこを探したらいいのか見当がつかないけれど、あれだけたくさんの猫ちゃん達がどうして攫われなくちゃいけないのか。

 どこに連れて行かれたのか。

 僕がどれだけ眠っていたのかわからない以上、どこまで距離を稼がれているのか……。

 とにかく僕は、真っ先に町へ行く選択をした。

 誰も僕の話なんて聞いちゃくれないことはわかっていたけど、でも……魔法で脅せば誰か一人でも目撃者がいるかもしれない。

 大丈夫、別に魔法で本当に攻撃するわけじゃないんだ。

 僕が誰も傷付けたくない、善人の魔女だなんて町の住民は知らない。魔女は凶暴だって思い込んでるはずだから、ちょっと脅せばすぐに信じて猫ちゃんに関することを教えてくれるはずだ。

 僕は町へ向かった。


 ***


 風に乗って、嫌な臭いがした気がする。

 町の出入り口が遠くに見え始めた辺りで、陽気な音楽が聞こえてきた。まるでお祭りでもしているような。

 町に近付くにつれて、楽器の演奏に交じって人々の楽しそうな声も聞こえてくる。

 ついこの間神父様が亡くなって、お葬式をしたばかりだってのに。

 町の人達は神父様のことを何だと思ってるんだ。

 どうしてそんなに楽しそうに、陽気でいられるんだ。信じられない。

 僕は全身の痛みと戦いながら、一歩一歩町に近付く。

 なんだか背筋が寒い。雨に打たれて、ちゃんと体を拭かなかったから風邪でも引いたのかな。

 ううん、違う。そういう寒気なんかじゃない。

 もっとこう、すごく嫌な感じがずっとしてる。

 胸の奥がざわざわしてきた。


 町はウッドフェンスに囲まれてて、出入り口はアーチ状になっている。僕はそのアーチ部分にぶら下げられているものを見て、また頭に強い衝撃が走った。


「嘘だ……」


 全身が震える。

 呼吸が乱れて、心臓の鼓動が早くなっていった。


 アーチ部分に、まるでガーランドみたいに飾られていたもの。

 それは真っ白いふわふわした長い毛が特徴的だった、上品なヴァインだった。

 灰色の毛色に黒い縞が特徴的だった、カギ尻尾のプルトだった。

 真っ黒い艶やかな毛並みをした、金色と緑色のキラキラした瞳が特徴的なレイヤだった。


「ヴァイン……? プルト……、レイヤ……?」


 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。


 目の前の残酷な光景と違って、お祭り騒ぎで楽しげな音楽と歓声が全く真逆な空間になってる町の中。

 お家にいた猫ちゃんが、ここにいる。

 つまり、そういうことなんだ。


 僕のお家を襲撃して、猫ちゃんを攫った犯人はーー町の人間だった!


 僕は狂ったように走って、ぶら下がってるヴァインとプルトとレイヤを助けようと真下まで来た時だった。

 町の中全部が見えた。

 身の毛もよだつ、その言葉がぴったりだった。


 あちこちに張り巡らされたロープは、周囲のお店やお家の屋根から屋根へと交差するように繋がってて、一定間隔に猫ちゃんが何十匹もぶら下がっていた。

 町の中心にあった噴水には、女性を象った石像が持つ農具の先にセリックが串刺しにされるようになっている。

 お店の軒先テントにまで、ロドリックがぶら下がっていた。

 どの猫ちゃんも、みんな、全員、知ってる猫ちゃんだ。

 僕の王国にいた猫ちゃんだった。


「うわああああ!!」


 楽しげな音楽が耳障りだった。

 歓声を上げながら踊り狂う住民が不快だった。

 何もかもがおぞましくて、僕は気が狂いそうになった。

 頭を抱えて膝をついて、僕は目の前の現実を受け入れられない。

 受け入れたくない。

 これは夢だ。悪い夢だ。悪夢だ。現実じゃない。作り物だ。嘘なんだ。全部、全部、僕の恐怖が具現化した幻覚なんだ。現実であるはずがない。あっていいはずがない。だってもし、これが、現実だなんて認めたら、僕は……僕は……っ!


 本当に壊れてしまうかもしれないから。


 うずくまっている僕を囲むように、少女が女性がステップを踏みながら踊り歌う。


「ここは猫が住まう町、猫を祭る猫の町」

「新たな門出を祝す毎、猫を捧げる猫贄の町」


 やめろ。


「町の中で猫放つ、町ぐるみで猫放つ」

「次の門出の贄の為、猫の血肉で祝祭を」


 お前達が何を言ってるのか、わからない。

 わかりたくもない。

 怒りが抑えられない。 

 石畳の床についた手から、ピリリと電気が走った。

 その瞬間、背後から鈍器のようなもので殴られて僕は床に伏せった。


「その子も贄だ、猫集めの醜い魔女」

「災い招く遠雷の、ここで猫ごと贄としよう」


 僕の周りで踊っていた女達と共に、お酒を飲んで笑ってた男達も加わって、僕を殴り始めた。


「頭を狙え。意識があったら魔法を使いかねん!」

「だったらすぐに殺してしまった方がいいんじゃない? こいつは町を穢し、神父様を死に追いやった忌み魔女でしょ」


 あぁ、ごめんよ。

 トリシア、リチル、ソニア、イルデ。

 僕は君達の仇を取れないかもしれない。


「ダメだ! こいつは祝祭の最後に取っておかんとな!」

「今年は魔女の贄を捧げられるんだ。きっと今後、数百年はこの町も安泰となるだろうな!」


 こんな狂った町だったなんて。

 ロドリック、フォン、ブラード、ジェルト。

 知ってたら、君達を連れてもっと遠くまで逃げればよかったね。


「そういや、こいつはどうするよ」


 男の声に僕が見上げると、そこには黒と白の毛色をしたフレドと明るい茶色に黒いしま模様のパジル、濃いオレンジブラウンのしま模様をしたブラードがいた。


「……っ!」


 僕は必死に命乞いをした。

 猫ちゃん達の命乞いを。


「お願い、この子達には……手を出さないでっ! なんだってするから。僕に……、何をしてもいいからっ!」


 もう一人、ブラードの首根っこを掴んだ男がいやらしい笑顔を浮かべてた。


「こいつらはな、お前への見せしめだよ」

「お願い……、僕のこと、ぐちゃぐちゃにしていいから……。どんな拷問でも、文句なんて……言わないから。お願い……」


 僕は涙でぐしゃぐしゃになりながら懇願する。

 それでも、僕が口を開く度に鈍器で僕を殴り付ける手は止まらない。痛みなんて、もうどうでもよかった。


「へっへっへっ、ダメだね」


 そう言った瞬間だった。

 男がブラードの首の骨を折って、だらんとして動かなくなる。


「うわああああ!」


 僕は喉から血が出そうなくらいに絶叫して、大粒の涙が流れた。

 声を張り上げ、脳が酸欠状態みたいになって、目の前が真っ白になる。

 僕が無力だから、何の力もないから、ブラードが……っ!

 そんな僕を見ながら周り全員笑ってる。

 ケタケタ、ゲラゲラ。

 許さない。許さない。絶対に許さないっ!


「フーッ! フーッ!」


 唇を噛んで血が出るけど、もうずっと前から口の中は血の味だらけだ。右手を力一杯に握り締めると爪が食い込んでいく。


「お願い……」


 僕は堪えながら、もう一度命乞いをした。

 さっきと同じにたついた笑顔。

 だんだん呼吸が浅くなって、ハッハッて犬みたいになる。

 ダメ、ダメ、やめて。

 これ以上僕の家族を、奪わないで……っ!

 フレドの首根っこを掴んだ男の手に、グッと力が入ったのがわかった。それを見た瞬間、僕は絶叫と共に全身からバチィッて魔力が弾けた。


「きゃあっ!」

「うわぁ!」


 僕を囲って殴打してた人達が、魔力の衝撃によって吹っ飛んだ。

 だけどあんまり強くなかったせいか、みんな尻餅をついただけで大きな怪我はしてないみたい。

 だからなおさら、僕が反抗的な態度を取ったとみなされて、持ってた棒や火かき棒なんかを持ち直して怒声をあげて叩きつける。


「やりやがったな、このガキ!」

「この魔女め!」

「頭だ! もう一度気絶させろ!」

「いいや! その前に見せしめだって言ってるだろ、お前達!」


 僕を叩きつける手が止まる。

 パジルとフレドを掴んだ男が一斉に、僕に見せつけるように目の前に持ってきて……。


「やめてええええっ!」


 叫んだ時、まるで僕以外の時間が止まったみたいにみんなの動きがなくなってた。

 焚き付けるように声を上げてた人達の声も聞こえない。

 歓声も、怒声も、罵声も、何もない、静かな空間みたいに。


『私の力が必要になったら、私の名前を呼ぶといい』


 誰だっけ。


『……言ってもらえば、即座に私の力が行使出来るようにしてあげる』


 そうだ、あの時……夢の中で会った精霊。


『雷の精霊フルメンと契約を結ぶと言いなさい』


 お願い、力を貸して。

 最後に残された猫ちゃんだけでも、守れるように。


「雷の精霊、……フルメンと」


 僕に力を。守れるだけの力を。

 

「契約を……」


 僕の家族を奪ったこいつらを、惨たらしく殺す為の力を!


「結ぶ!」


 そう口にした直後、時が動き始めた。

 僕から放たれた強大な魔力が、周囲にいた人間達を全員吹っ飛ばす。だけどパジルとフレドだけは、雷の玉のようなものに守られて宙に浮いている。

 猫ちゃんが痺れたらどうしようと思ったけど、雷の玉は上手い具合に猫ちゃんに触れないように絶妙なバランスを保っていた。


「こいつ……っ! なんだこの力は!?」


 パリパリバチバチ、僕の全身から今まで出したことがない位の魔力が解き放たれてる。

 それが僕のことも守るようにして、まるで雷のバリアでも張られてるみたいに全身を包み込む。


「この化け物め!」

「もういい! こいつを殺せ! 猫も! 全部だ!」


 起き上がった男が武器を手に、僕に向かって走って来る。

 馬鹿な人間だ。

 何の魔力もない、魔法も使えない人間が僕に勝てるはずがないのに。


 僕は振り払うようにして片手を振った。

 するとそれはものすごい電撃となって、バリバリと激しい音を立てながら人間達を黒焦げにして、ぐちゃぐちゃに肉体が崩れていった。

 まるで大きな雷が直撃したみたいに、残ったのは黒焦げの煤みたいになった「人間だったもの」だけだ。


「きゃああああ!」

「なんてことだ! なんて酷いことを!」

「……ひどい、だって?」


 僕はその言葉に、強烈な不快感を覚えた。

 何を言ってるんだ、こいつらは?


「自分達はどうなんだ? 何もしてないって言うの?」


 僕は空を仰ぐように上を向いて、それからそこかしこに無惨な姿となって飾られている家族達を見回した。


「これを見てよくそんなことが言えるよね!?」


 僕は怒りに震えながら、憎しみの心に支配されながら叫んだ。


「どっちがひどい!? ねぇ、どっちが!?」


 許せない。

 許さない。

 帰さない。

 生かさない。


「雷の精霊フルメン、僕はどうなってもいい。マナ切れってものになって、僕が死んでもいい。だから……この町の人間、僕の家族を殺した人間全員を……みんな殺して」

『いいでしょう。それがシスティーナの望みとあらば』


 僕は両手を広げて、ただフルメンに委ねた。

 夢見心地のような感覚だった。

 あちこちから断末魔が聞こえてくるのに、心地良いメロディみたいに感じられるんだ。

 

 あぁ、僕は家族に報いてる。

 稲光と共に、町中に何百何千という落雷が人間達を襲ってた。

 くるくる、くるくる、僕はたゆたう水に浮かんでるようだ。

 

 あちこち、そこかしこに雷が落ちて行く。

 逃げて行く者を決して逃さないように、僕の言葉に従ってフルメンの力が振るわれる。


「そう、これは報いなんだ。僕の家族を奪った、奪おうとしたお前達へのこれは罰だ」


 まだドロドロとした感情は鎮まらないけれど、一人また一人と絶命していく度に僕の心は落ち着きを取り戻していく。


「ぼ、僕の家族を……、守る……為の…。戦い……、なんだ……」


 なんだか、おかしいな。

 心の中で喋るのはいつもと変わらないのに、口に出すと……上手く言葉が出て来なくて、たどたどしくなっちゃう。


 でもいい、そんなことはどうでもいいんだ。

 今はただ……、守る為の戦いを続けるだけ。

 そう、これは大事なものを守る為の戦いなんだから。

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