第87話
「アルノルド先輩、遅かったですか?」
「いや、私も今来たところだ」
ギルドに到着すると掲示板の前に立っていたアルノルド先輩に声を掛ける。今日は何処へいくのかしら。久々の討伐に心が躍るわ。
「今日はどんな魔獣を討伐するんですか?」
アルノルド先輩はうーんと依頼書とにらめっこしているので聞いてみた。今までは地域だけ見てサクサク取っていたけれど、必要な素材の取れる魔物や場所を考えているのかもしれない。
「少し遠いが大丈夫か?」
「えぇ、休日は三日あるので遠くても大丈夫ですわ」
「そうか、なら隣村のワイバーンを討伐しに行こうと思うがいいか?」
ワイバーンといえばBランクの魔獣だわ。飛行種で他の飛行種に比べて強度もあり、倒すのが大変なのでBランクになっているわ。ただ地面に落ちてしまえばDランク位の強さになる。どう落とすかが問題になるのよね。剣士には不向きな魔獣なの。ただ、私もアルノルド先輩も魔法が使えるのでそこまで難易度の高い依頼ではないかな。ただ、討伐の数が凄かった。
「ワイバーン二十頭、ですか?」
「あぁ。前は私個人の研究だったから少しの材料ですんだのだが、今回は錬金が成功すれば数が必要になるんだ。騎士団にも依頼はしているんだが、自分たちで討伐した方が早く素材を手に入るし、綺麗に狩る事ができるだろう?」
確かに。私達は素材を活かした狩りをする方が多い(主に私は食糧調達のため)騎士達は村や街に出没する魔獣を主に駆除する目的で討伐する事が多いため素材は二の次になってしまうらしい。
「まぁ、そうですよね。騎士団は駆除が主な目的ですから」
アルノルド先輩はワイバーン討伐の依頼書を数枚取り受付へと持っていく。受付の人が言うには、今、南にある村の先にワイバーンの繁殖場と化した場所があると教えてくれたのでその情報を頼りに南の村行きの馬車に乗り込んだ。
「あそこの村まで馬車で半日掛かりますよね。イェレ先輩のように行ければいいんですけどね。転移魔法ってやはりむずかしいですよね。それか村までピューンって飛んでいければいいんですけれど、魔力がもたない気がします」
「なんだ、マーロアはまだ転移魔法をイェレから教わっていないのか。マーロアの魔力量なら遠くは行けないが転移自体は出来るし、覚えて置いた方がいいかもしれないな」
「イェレ先輩は今忙しいみたいだし、リディアさんに聞いてみようかしら」
私は思いついた事を口にしたらアルノルド先輩はうんうんと頷いた。きっとリディアさんなら教えてくれるはず!だってイェレ先輩のお姉さんだもの(願望)アルノルド先輩は私の様子を見てフッと笑っていたわ。
そこからは魔道具の話になった。普段王宮で活動する時に困った事やあると良いなと思った事を話したわ。今の私の暗器にもなっているダガーナイフについても。小型化や、機能があっても良さそうなのよね。魔道具に関してアルノルド先輩は何処からともなく出した手帳に何かを書いている。
新しく何かを作ってくれるのかしら。
あと、零師団で使っているイヤーカフについても全員に繋がってしまうのが残念なので改良出来ないかと言ってみた。だって、知らない誰かに話すのって恥ずかしいじゃない?同じ職場だとしても、ね?みんなの前で発表している感じに思えてちょっと躊躇するのよね。フムフムと聞いてはメモしているわ。
それから、ソルトラ錬金術師長の話もしたわ。なんとかしてってね。これにはアルノルド先輩も苦笑い。やっぱりそうよね、上司だし。
そうして楽しく雑談している間に目的地の村に到着したわ。
お昼過ぎに到着したので早速ワイバーンを探しに行く。今日中に少し倒しておきたいわ。繁殖地となっているということはかなり数がいるって事よね。
「先輩今日の間に全てのワイバーンを討伐するのですか?」
「そうだな、居たら倒すことになるだろうが多分居ないと思う。ここを繁殖地にしているワイバーンは多くても一つの集団で十頭位の群れにしかならないから一ヶ所ではなく点在する感じだと思う」
「そうなんですね。倒し方はどうするのですか?」
「地上に降りている場合はそのまま首を刎ねてしまうが、飛び上がったら風魔法で落としてから倒すのが最良だと思っている」
首を刎ねるということは頭は要らないのかしら。ドゥーロさんとの訓練で編み出した技をちょっと使ってみたいのよね。
「アルノルド先輩、頭は要らないですか?ちょっと試したい事があって」
「試したいこと?やってみるといい。頭は材料にならないから必要ない」
よかった。私は試したい技の使用許可が出たのでちょっとウキウキ気分になりながら繁殖地へと歩いている。暫く歩いていると森の中にぽっかりと開けた場所が出来て居るのを確認した。どうやら繁殖地に到着したようだ。
森の一部の木々を火球で焼いて作ったのか一ヶ所だけが丸裸の状態になっている。よく森ごと燃えなかったわと感心してしまうわ。開けた場所には枝が敷き詰められた場所が三か所ほどあった。ここでは六頭のワイバーンが生活しているらしい。
草むらで息を潜めて観察していると、餌を取りに行っているのか三頭しかいないけれど、三頭とも地上で卵を温めているわ。確か、卵は貴重品だったわよね。どこかの国では卵から孵してワイバーンの部隊を作る所もあるらしい。
珍味でもあるらしいので高値で取引出来るはず。
「先輩、今がチャンスですよね」
「あぁ、今なら楽に倒せそうだな」
「この間出来るようになった魔法を試してみます」
私はそう言うと、なるべく巣から近い場所まで近づき【ウィンドショット】を打つ。この魔法はあまり知られていない。
一般的に使われるのはウインドカッターなの。風で刃物のように切るのはイメージがしやすいの。
ウインドショットは空気を圧縮させた物を敵に向けて打つのだけれど、空気を圧縮するという概念が殆どない。私も実際の所はよくわかっていないけれど、風で吹き飛ばす範囲を極限まで狭めて勢いを極限まで留めて一気に放つ、という事らしい。
ドゥーロさんは私と訓練する時は剣で相手と打ち合っている隙を突いて掌から風を出し、吹き飛ばすという事を無詠唱でやっているの。本来の敵ならこれが火や水になる。敵は大怪我をする事になるわよね。
ドゥーロさんはその風を暗部用にカスタマイズして範囲を指先程に狭めて威力を上げて急所に放つ技を編み出したらしい。
魔法が使える人は大きな魔法を使う傾向がある。見た目も派手で分かりやすいせいもあるのだと思う。それに学院では中級魔法まで本の通りに習うだけなのでカスタマイズ出来る事も殆ど知らないのだ。
私が使えるのはドゥーロさんが使っている所を見ているため、イメージが定着したからだと思う。けれど、空気を圧縮する技術はとても容易ではなく、かなり難しいので私も偶に失敗してしまうの。先ほど撃ったウィンドショットは見事にワイバーンの頭に直撃し、音と共に頭から血を流してパタリと動かなくなった。成功したみたい。
このウインドショットは命中率も低いので要練習なのよ?
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