第46話

「お前、侯爵令嬢だったんだな。魔力なしなんだろ?」


1人がニヤニヤしている。


「ちょっとお前、顔かせよ。俺達と遊ぼうぜ?」

「長年侯爵の恥として生きてきたんだろ。俺達と仲良くしたらいいことがあるかもしれないぜ?」


 アルノルド先輩は面倒だなという感じで溜息を1つ吐く。この人達、同じ学院の人達かしら。


さて、どうしよう?


 折角の王宮舞踏会を台無しにできないわ。名乗りもしない令息たちにイライラするわ。きっと伯爵家あたりの子息なのだろう。それにしても何故侯爵家の恥と言っているのか。


……おおよその察しはつくけれど。


「アルノルド先輩、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。そろそろ帰りましょうか」

「ああ、そうだな。送っていくとしよう」


 私達は令息達を無視して皿を従者に渡し、その場を後にしようとする。


「おい、無視かよ」


 1人の令息が私の肩を掴もうとしてアルノルド先輩に手を取られ、捻り上げられる。もう1人の令息が回り込み私達の前へ来て邪魔をする。


「はぁ。ここは王宮の舞踏会だと理解はございまして?恥ずかしくないのですか?」

「魔力無しが何をいっているんだ?」

「先輩、憂さ晴らしか何かなのでしょうか?」

「あぁ、そうかもしれないな」


 先輩はホールを巡回している騎士と思われる従者に片手を少し挙げ呼ぶ。するとすぐに数人の従者の格好をした騎士達に令息は連行されていった。


王家の主催である舞踏会で高位貴族にこのような振る舞い。国家転覆の雰囲気が治安を悪くさせているのかしら。アルノルド先輩は抗議を出すと言っていたわ。先輩はもちろん令息達を知っていたようだ。


一応私も貴族図鑑は頭に入っているけれど、実際に顔を見ても情報とは一致しにくいのは仕方がないわよね。私は先輩に部屋まで送り届けて貰うとお礼を言って別れた。


待機していた侍女達がすぐにドレスを脱がせてくれたわ。化粧も落としてほっと一息。


「このドレスを侯爵家へ明日お届けしておきます。このまま部屋に宿泊されますか?」

「ありがとう。そろそろファルスも迎えに来るからこのまま寮に帰らせてもらうわ」


 そして私はファルスのお迎えと共に寮に帰った。もう当分舞踏会はいいわ。ご遠慮したい。シャワーをしてからそのままベッドへダイブ。


 気づけばすでに日が高くなっていた。


私としたことが寝すぎたわ。ちょっと反省をしながら食堂へと1人でやってきた。今日はファルスもゆっくりしているはず。私ものんびりと遅い朝食を取る。


今日は何をしようかしら。


 昨日の令息達の事を考えたらイライラしてきたわ。私は食後にこのイライラを発散しようと鍛錬場に行く。やはり休みの日は誰も居ないわ。私は錘を追加して鍛錬に励む。一頻り体を動かし汗を掻いた。


あの場だったから命拾いをしたわねあいつ等。今度あったら半殺しよ!!




 そうしてこの日はひたすら鍛錬で1日が終わってしまったわ。長期休みも残りわずか。


 ファルスはというと、舞踏会の翌日は侯爵家へと行っていたらしい。報告も兼ねて。令息達が私とアルノルド先輩に絡んでいた所を父達も目撃していたようで相手の家に抗議を送ったらしい。そして彼等は親にこってり絞られて謝罪文が送られてきたらしいわ。

 その内容にはやはり妹も含まれていた。普段から妹がお茶会で言いまわっているらしい。妹の話を真に受けた令息達が起こした事という事でいいのかしら。溜息しか出ないわね。


父達はどう思っているのかしら?





今日は長期休み最終日。


あれだけあった長期休みが懐かしく思える。

 私達はというと、いつものようにイェレ先輩の研究室に来ていた。そうそう、舞踏会では何も無かったとおもっていたのだけれど、外では襲撃があったらしい。警護の人達が見つけて大事になる前に処理したってイェレ先輩が言っていたわ。

 

国内の情勢は今後どうなるのかしら。


 因みに何故そんなに国内が不安定になっているのかという理由の元凶は王兄だったりする。

 当時、第一王子であった王兄は王太子として順風満帆だったらしいのだが、異世界人ヒナという女の子が現れてからおかしくなった。ヒナはとても可愛い人だったようで王兄や側近達は魅了に掛かったようにヒナを持て囃した。

 ヒナの考え方は当時としても今としてもあまり受け入れられる考え方ではなかった。男女差別は良くないという事から始まり、貴族、平民、王族は同じ人間なのだから身分は関係ない。


王が国を治める必要はない、と王国を根幹から揺るがすような思想だった。ヒナが住んでいた世界ではこの世界よりも文明が進んでいて平民達も自由を謳歌していたという。

 王家は異世界の文化を取り込むようにヒナを保護しながら聞きとりをしたのだが、どうやらヒナは若すぎたのだ。ドウロ、ヒコウキ、アスファルトなど様々な話は出てくるのだが、作り方を知らなかった。


つまり、使えないのだ。何にも役に立たないのに口ばかり立つヒナ。


 当時の陛下はすぐに見切りを付け、ヒナを何処かの貴族へ嫁がせる事にしたらしい。そこで第一王子であった王兄は名乗りを挙げ、王位継承権を放棄した上でヒナと婚姻する事になった。

仲睦まじく過ごしていたようなのだが、ヒナはあっさりと流行り病に侵されて数年後に亡くなってしまった。


 王兄はそこから少しずつ人が変わったようになり、ヒナの考えをこの国にも取り入れたい、取り入れるべきだ、王政を無くせ、と考えるようになり、ヒナに感化された側近など極一部の貴族もその考えを元に動いている。というのが今の流れなのだ。


 だが、王兄はそう言いながらもやはり王家とは血縁関係にあるため、口うるさく言いながらも特に手を出す訳ではないのだ。


ほんの極一部の過激な考えを持つ人々がヒナの思想に刺激され王家を襲撃するという行動に出るのだ。

 王家にしろ他の貴族達にとっては受け入れられる物ではない。兵を纏め上げ魔獣に立ち向かう強いリーダーが必要なのだ。魔力を無くさないための貴族システム。魔力のない平民と交わっていけば国は魔物に対処する方法が無くなるのだ。


そう考えるとやはりヒナの考えを全て受け入れるわけにはいかない。魔力を持たない私が恥だという考え方もそこから来ているのだろう。こればかりは仕方がないのだ。


 私だって納得している部分もある。だから私は気楽な平民の冒険者になりたいと思っている。


王家だって黙って襲撃されているわけではないのよ?


 人々の不満を減らすように努力をしたり、治安維持に力を入れたりしているのよ。王家を支える貴族が殆どなの。それに異世界人ヒナの思想も年々忘れ去られ始めているわ。襲撃も減りつつあるという話だ。


話が大分逸れてしまったわね。



 イェレ先輩と話をしながら魔法陣の勉強も今日で一旦終わりとなった。ここからイェレ先輩もアルノルド先輩も卒業に向けて研究が忙しくなるみたい。


私とファルスはこれから勉強の後、イェレ先輩の作る結界内で魔法特訓。週末はギルドへ行って魔獣討伐になる予定になった。


明日からの学院再開は気が抜けないわ。

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