路地裏の裏
「ねぇ、どうして私を助けたの?」
路地裏での戦いを終えて、犯人を嶋中先輩へと引き渡した直後である。近くの公園まで雉畑を連れてきたところで、雉畑が口を開いた。彼女の問いかけには嘘なく答えよう。
「別に助けたつもりはないよ」
「なら、どうして」
「……そりゃ、僕も戦いたいからだよ」
嘘だったらいいのにね、と僕は頬をゆがめた。
僕は通り魔に傷つけられて以来、自分の武術に疑問を持っていた。僕がもう一度正しく生きられる日が来るなら、それはこの武術の才能を活かせると理解った日だろう。そして僕は、拳を振るう日が来ることを心待ちにしていた。そういう僕がいたことにした方が、話も早いだろう?
僕の説明に納得していないのか、雉畑は返答が鈍い。僕らが押し黙ったまま時間を過ごしているうちに、喜慈の会のメンバーが公園へと集結し始めた。鬼児の会のメンバーと戦闘をした面々も数人いた。最終的に、僕らはメンバーの三割を失ってしまった。鬼児の会の一員だと面が割れたもの、彼らとの戦闘で傷ついて動けなくなったもの。その合計が三割だった。
代償としてはかなり重い部類だ。
「天童、お前が得た情報をもう一度聞かせてくれ」
「伝言ゲームだったからな。オリジナルの話が聞きたい」
先輩メンバーに言われるがまま、僕は鬼児の会について知っている情報を吐き出した。ただし、すべてを吐き出しはしない。百茂本人の情報を絞って、表に出さないようにした。あの日、僕が少女に襲われたことを知るのは警察関係者か、学校の関係者。そして、鬼児の会として彼女に依頼を掛けたメンバーに限られる。先輩達への話を終えた後、僕は雉畑に袖をひかれて先輩達から距離を取った。
彼女の瞳には不安が揺れている。
「どうして百茂のことを話さなかったの?」
「彼女自身の情報も大切だからね」
「……分かるように説明しなさいよ」
頬を膨らませた雉畑に、百茂の情報が一種のリトマス試験紙みたいに反応することを説明した。彼女の情報を表に出さないまま話を進めて、個人レベルで彼女の話題を出す。もしも彼女のことを知っている輩が現れれば、それは事前に彼女と通じていたことを意味する。
かもしれない。
曖昧で、確実なものじゃない。
炭鉱のカナリアほど、発見率は高くない。
そして、確実でもないのだ。
「それでも僕は、悪意ある他人を探したい」
「……正義のために?」
「まさか。ただの趣味だよ」
例え、最後に残るのが僅かな人数だとしても。
悪意ある人間を滅ぼせるなら、僕は後悔したくない。
そのためには仲間すら売り飛ばす覚悟で、僕は鬼児の会との戦いを望むのだった。
少しずつ夕闇に染まっていく空を眺めていたら、隣に座ったままの雉畑に腕を掴まれた。彼女は、僕を睨みつけてくる。そこには確かな決意が滲んでいた。僕が抱く漆黒の意志ではなく、眩いほどの黄金の精神がそこにはある。
「私も、手伝うから」
「……うん。頑張って」
正しいだけでは生き残れない。それでも彼女が、本気でこちら側へ踏み込もうとしているのだということが分かって、僕は自然と笑みを浮かべてしまうのだった。
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