第十四話 ~一緒に寝ていなくても、美凪は俺の理性を朝からガリガリ削って来た件~

 第十四話





 ピピピ……ピピピ……ピピピ……


 早朝。俺は目覚ましのアラームの音で目を覚ました。


 ふにゅん……


 という魅惑の感触は『今日は無い』


「おいおい……俺はあれが無いことを『残念に』思ってるって言うのかよ……」


 四日連続で美凪に抱きしめられて目を覚ます。

 と言う、天国のような朝ではない。

 今日は普通に一人で目を覚ました。


 俺はベッドから出ると、身体をグッと伸ばした。


 昨日はたくさん歩いたけど、お風呂である程度マッサージをしていたからな。変な筋肉痛とかは無かった。


 四月の朝は少しだけ寒く感じるが、この寒さが俺の目を覚ましてくれる。


「よし。顔を洗ってから朝ごはんの準備をするかな」


 俺はそう呟くと、寝室を後にした。





 洗面所で顔を洗いフェイスタオルで顔を拭く。


 冷たい水を顔にかけたので、完璧に目が覚めた。


 今日は日曜日。二連休の二日目だ。


 美凪と一緒に映画館に行って、話題の映画を見る予定になっている。


 ただ、映画を見るだけでは時間が余ってしまうのが目に見えている。

 なので、映画館の近くにある『猫カフェ』に彼女を連れて行こうと考えている。


 まぁ、朝ごはんを食べながら彼女に『猫アレルギー』とかが無いことを確認しておく必要があるが、恐らくは大丈夫だろう。


 万が一そういう事があったら……漫画喫茶とかでもいいかもな


 なんてことを考えていると、


「おはようございます、隣人さん」

「おはよう、美凪」


 後ろから目を擦りながらパジャマ姿の美凪がやって来た。


 少しだけ乱れたパジャマから覗く首元が朝から俺の理性を削ってくる。

 こいつは本当に、俺の理性にダメージを与えるのが得意な女だな……


「ぎゅー……」

「は?」


 テクテクと俺のところまで歩いて来た美凪は、何故かいきなり俺の身体を抱きしめてきた。


「んー……幸せです……」


 美凪はそう言うと、俺の胸に頬擦りをする。


「いやいやいやいやいやいやいやいや………………おかしいだろ!!!???」


 朝っぱらからいきなり何してんだよ、コイツは!!


 目覚めた時には、むにゅん……という魅惑の感触はなかったが、まさかこんなタイミングで襲いかかってくるとは思ってなかったぞ!!


「お、おい美凪!!俺を解放しろよ!!」

「んー……何を言ってるんですか、隣人さん。これ程の美少女の抱擁ですよ……甘んじて受け入れてください……」


 そして、美凪はそう言うと俺に抱きついたまま……寝やがった……


「おいおい……勘弁してくれよ……」


 スヤスヤと俺の腕の中で眠っている美凪。

 連休二日目は平和な朝で始まると思ったのに、飛んでもないスタートになってしまった。


 俺は大きくため息をつきながら、美凪の身体を抱きしめる。


 全く。この位は許してくれよな。


 そして俺は、せっかくなので美凪の綺麗な髪の毛の感触を、彼女が目を覚ますまで楽しむことにした。




「さ、先程は失礼致しました……」

「まぁ……気にするなよ。俺も役得を感じてたから」


 居間へとやって来た俺と美凪は、椅子に座って牛乳を飲んでいた。

 あれから十分程だろうか。俺が美凪の髪の毛の感触を楽しんでいると、彼女が目を覚ました。


『お、おはよう……ございます……』

『おぅ……目を覚ましたか……』


 上目遣いで俺を見る美凪。やべぇな。めちゃくちゃ可愛いな。


 キスでもしてやろうか。と言う欲望を押さえつけ、俺は彼女の身体を離す。


『ね、寝ぼけてました……』

『だろうな。まぁ超絶美少女の美凪優花ちゃんに抱きしめられて光栄だと思ったよ』


 俺がからかいながらそう言うと、美凪は顔を赤くして


『……隣人さんはいじわるです』


 と呟いた。




 そんなやり取りを経て始まった日曜日の朝。


 俺は美凪に一つの提案をした。


「なぁ、美凪。今日の朝ごはんはお前が全部作ってみるか?」

「……え?」


 牛乳を飲み干した俺は、彼女の目を見ながら話を進める。


「卵も割れるようになった。火も使えるようになった。サラダも作れるな。冷蔵庫にあるものを使えば朝ごはんを作ることは可能だぞ?」

「……わ、私が作ってもいいんですか!?」


「当たり前だろ?『優花ちゃんスペシャル朝ごはん』を俺に食べさせてくれないか?」


 俺がそう言うと、先程までの美凪とは違い、彼女にいつもの調子が戻ってきた。


「ふふーん!!良いでしょう!!これまで隣人さんから家事を習ってきた私の集大成!!優花ちゃんスペシャル朝ごはんを完璧に作り上げて差し上げますよ!!」


「卵焼きはスクランブルエッグにしても、目玉焼きにしても構わないからな」

「スクランブルエッグにチャレンジしてみます!!あなたの作る姿を見てきましたからね、作り方とポイントはわかってます!!」


 美凪はそう言うと、椅子から立ち上がって俺に言ってきた。


「絶対に怪我をしない。それを心において、料理をしてきます。隣人さん。楽しみに待っててくださいね!!」

「あぁ。その心持ちなら安心して任せられる。楽しみに待ってるぞ」


 俺のその言葉を受けて、美凪は台所へと向かっていった。



「さて。どんなのが出てくるかな」


 俺は時間つぶしにテレビをつけて、朝のニュースを見ながら美凪の朝ごはんの出来上がりを待っていた。

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