美凪side ② 中編 その②
美凪side ② 中編 その②
「むーーー!!!!納得行きません!!!!」
「あはは。まぁ仕方ないじゃないか。ボタンが押せなかったことくらいでそんなに怒るなよ」
私はバスから降りて、彼と一緒に手を繋いでショッピングモールへと歩いていました。
ですが、私の心は先程の納得出来ない事件のせいで頭がいっぱいでした!!
間も無くショッピングモールに到着です。
『ふふーん!!このバスを停めるかどうかは、私のこの指にかかってます!!』
『あはは。じゃあよろしく頼むわ』
私は意気揚々とボタンに手を伸ばしました。
チラリと視界の隅に、同じくボタンを押そうとしている女性が見えましたが、その方は私の方を見てニコリと笑ってくれました。
『貴女に譲りますよ』
そんな声が聞こえてきました。
とても良い方です!!
ですが、
『あ、あれ……反応しません……』
私がいくらボタンを押しても
ピンポーン
という音が鳴りません!!
『んー……故障してるのかな?』
『な、なんですってぇ!?』
そんなバカなことがありますか!!
整備不良です!!きちんと仕事をしてください!!
そう思っていると、バスの中にピンポーンという音が鳴り響きました。
私は先程の女性に視線を向けました。
その方は、すごく申し訳なさそうな顔でボタンを押して居ました。
『ごめんなさいね。譲ってあげようと思ってたんだけど、トラブルがあったみたいね』
『いえ、お気遣いなく。ご配慮下さりありがとうございます』
隣人さんはそう言ってその女性の方に頭を下げてました。
そんなことがバスの中でありました。
「まぁ、帰りも乗るんだからさ。その時に押せば良いだろ?」
彼の言葉に私は理解を示しました。
ふぅ……そうですね。
いつでも冷静沈着な美凪優花ちゃんです。
この程度のことで騒ぎ立てるのは淑女としてあるまじき行為でしたね。
「……ふぅ。そうですね。何時でも冷静沈着なパーフェクト美少女の美凪優花ちゃんにしては珍しく、少し取り乱してしまいました」
「まぁせっかくのデートなんだ。あんまりプンプンしないで楽しく過ごそうぜ」
「そうですね。では、まずはどちらの洋服から見に行きますか?」
「……そうだな」
ショッピングモールの中にある案内板を見ながら隣人さんが思案しました。
どうやらメンズファッションとレディースファッションのお店は併設しているようです。
あとはファッションショップの向かいにはアクセサリーショップがありました。
確か手作りを売りにしていて、価格と品質を両立してるとても評判の良いアクセサリーショップだと、奏さんが話しをしてましたね。
「俺の方が多分時間かからないと思うから、俺から選ぶか」
「はい!!では三階へ向かいましょう」
隣人さんの言葉に私は了承を示しました。
そして、私と彼はエレベーターに乗り込みました。
そこで、私は鏡に映った彼の姿を見ます。
背の高い彼。髪型もしっかりと整えて、身だしなみもきちんとしています。清潔感のある装いは非常に評価が高いです。
そして、何よりも私が彼に対して好感を持ってるのは……
「私は思うんですよ。男の人の良さって『姿勢』に現れるものだと」
「姿勢?」
私は鏡に映った彼の姿を指さします。そして、首を傾げる隣人さんに告げます。
「はい。見ればわかりますよ。猫背の人は論外です。しっかりとまっすぐ立って顎を引く。それだけですごく素敵に見えます。待ってる時の姿勢の良さ。隣人さんはとても良いですね」
「そんなことを褒められたのはお前が初めてだよ」
私はそういう彼の目を見て言いました。
「姿勢の良さは内面の良さだと思ってます。ぶっきらぼうな言葉の裏側にある貴方の本心はとても優しい人です。そんな所からも見て取れますよ」
「……辞めろよ。照れるだろ」
隣人さんはそう言うと、顔を赤くして視線を逸らしました。
ふふふ。褒められ慣れてないことを言われて照れてるんですね。
「あはは。可愛いですね、隣人さん」
そんな会話をしていると、三階へと到着しました。
「着いたな、ここだな」
「はい。では、中に入りましょう」
『いらっしゃいませーごゆっくりどうぞー』
店員さんの声に迎えられ、私と彼は店内を進みます。
少しだけ、他の男性客から視線を向けられますが、無視して行きます。
「ゆったりとした服が好き。という話をしてましたね」
バスの中で聞いた彼の好みの服装。
私はそのことを話題に出しました。
「そうだな。でも、そういうのばかりを着てきたからな。スキニーパンツみたいなのを一枚持ってても良いと思ってる」
「なるほど。先程も話をしましたが、姿勢の良い人程そう言う体のラインが出る服が似合いますからね。隣人さんは細身ですが筋肉もあります。スキニーパンツは似合うと思いますよ?」
私は彼に似合いそうなスキニーパンツとTシャツのセットを持ってきました。
詳しいサイズはわかりませんが、恐らく3Lだと思います。
「正確なサイズを知らないので3Lで選んできました。シンプルな色合いが私は好きです。白のTシャツに黒のスキニーパンツ。あとは隣人さんの好みでジャケットなどを合わせてはいかがですか?」
「悪くないな。俺の好みにもあってるし」
彼はそう言うと、灰色のジャケットを手に取りました。
良いですね。とても似合うと思います。
「じゃあちょっと待っててくれ。試着をしてくるから」
「はい。では試着室の前で待ってますね」
私がそう言うと、彼は試着室の中へと入って行きました。
私は彼を待つ間、スマホを取りだしてこの施設のことを調べていきました。
なるほど……ゲームセンターがありますね。
『メダル落とし』というものに興味があります。
もしこの後どこに行きたいかを聞かれたら答えることにしましょう。
私がそう思い、スマホをポケットにしまうと彼が試着室の扉を開けて出てきました。
「どうかな、美凪?」
灰色のジャケットに白いTシャツにスキニーパンツ。
隣人さんの姿勢の良さや体型も相まって、とんでもないレベルでした。
私は思わず、
「か、かっこいい……」
そう呟いてしまいました。
「……え?」
首を傾げる隣人さん。
よ、良かったです!!聞こえてなかったようです!!
「な、なんでもないです!!その!!よ、良く似合ってますね!!」
「そ、そうか……ありがとう。ならこれを買うことにするよ。サイズも3Lでピッタリだったよ」
彼はそう言うと、再び試着室へと入って行きました。
「ふぅ……あの隣人さんはとてもカッコ良かったです。ライバルが増えない内に私のモノにしておきたいところです……」
私はそう呟きながら、かなり乱れている心臓の鼓動を抑えるように、深呼吸を繰り返しました。
「お待たせ美凪。これを買ってくるよ」
「はい。待ってますね!!」
試着室から出てきた彼は、そう言って会計をしにレジへと向かいました。
そして、買い物を終えてこちらに戻ってきた隣人さんに私は告げました。
「では次は私の服を選んでもらいますね!!」
「何を着せてもお前なら似合いそうだからな。責任重大だな」
少しだけ苦笑いを浮かべる隣人さん。
ですがその懸念も当然かも知れませんね!!
「ふふーん!!この美凪優花ちゃんのファッションショーを特等席で眺められるなんて、隣人さんは光栄だと思ってくださいね!!」
私はそう言ってレディースファッションショップへと向かいました。
ファッションショップの中を進む私と隣人さん。
周りの女性からは、やはり背も高く、かっこいい彼は視線を集めています。
ふふふ。少しだけ誇らしいですが、彼の一番魅力的な部分は内面にありますからね。
そんな彼に視線を向けると、胸を貼って前を見て歩いています。変に恥ずかしがったりとかはしてません。
男性にとっては居心地の良い空間とは言えないはずですがこの様子。
……なるほど。そういうところも好感が持てますね。
「……ん?なんか言ったか?」
私の呟きに、彼は疑問符を浮かべました。
ですが、私はその質問には答えませんでした。
「あはは。いえ、なんでもないですよ」
教えてあげません。貴方の素敵なところは私だけが知ってれば良いんですから。
「さて、隣人さん。どのような服にしますか?」
私がそう聞くと、彼は少しだけ予想外なことを言いました。
「そうだな……個人的には露出の少ない服がいい」
「おや?えっちな隣人さんならミニスカートとか要求してきてもおかしくないかな。と思ってましたが」
「まぁ、俺だけが見るなら構わないけど、お前のそういう姿を他人に見せたくない」
私のその言葉に、彼は真剣な表情で理由を話してくれました。
彼の独占欲。それを感じることが出来て私は少しだけときめいてしまいました。
「……そ、そうですか。そうですね……私も貴方にだけ見せるのなら構いませんが、他の人にはあまり見られたくありません」
「ただ個人的にはそういうのも見てみたい。そういう欲求はあるよな。まぁ難しいところだよ」
「夏とかはどうします?プールとか行きませんか?」
水着は少し恥ずかしいですが、彼の為なら着ても良いと思ってますよ。
「まぁ……考えてるのはナイトプールみたいなカップル限定みたいな場所に行こうかなとか考えてる」
し、しれっと今『カップル限定』って言いましたよね!?
ですが、ここで私が慌てふためくのは少しだけ恥ずかしいので、心を鎮めて言葉を返しました。
「へぇ……色々考えてくれてるんですね」
「まぁな。どうせお前とはこの先ずっと付き合っていくんだろうしな。楽しく過ごしたいだろ?」
この先のことも考えてくれている彼の言葉。
私はとても嬉しく思いました。
「あはは。そうですね!!」
「さて、そろそろ服を選ぼうかな。露出が少ない方が良いとは言っても、俺も男だ。やっぱりそういう部分も捨て難い」
「あはは……」
やっぱり隣人さんはえっちさんです。
「オフショルダーのワンピースにストールを組み合わせることで、俺の前だけで露出を増やして他の人の前ではそれを控える。そんな神のコーディネートがあると聞いたことがある」
「なるほど……悪くないですね」
私は自分のサイズの薄いブルーのオフショルダーワンピースに白のストールを手にしました。
「これなんかどうですか?」
「うん。とても良いね。色合いも俺の好みだよ」
ふふーん?冷静そうな発言ですが、少しだけ顔が赤くなってます。意識していただけてることがわかりました。
「ふふーん?じゃあ着てきますね」
そう言って私が試着室へと入ろうとした時でした。
「悪いけど、着替えが終わったらメッセージで呼んでくれないか?」
「え?構いませんが、どうかしましたか」
私がそう聞くと、隣人さんは少しだけ苦笑いを浮かべて言ってきました。
「気にしないようにはしてたけど、流石にここで一人で待ってるのは気まずいからな。ちょっと外に出てようと思うんだ」
「あはは。そうですか。それなら納得です」
そうですね。確かにとても視線を集めてましたからね。
一人で待ってるのは辛いかもしれませんね。
試着室に入り、私は着ていた洋服を脱いでから、持ってきたオフショルダーのワンピースを着てみました。
「……こ、これはかなり大胆ですね」
鏡に映った自分の姿を見て、私は少しだけ苦笑いを浮かべました。
隣人さんには構いませんが、他の男性には見せたくありません。
私はストールを羽織りました。
「……ふむ。これなら悪くないですね。下界に降り立った天使を超えて、もはやこの美しさは女神の領域と言えるかもしれませんね!!」
私はそう思い、彼にメッセージを送りました
『着替えが終わりました!!超絶美少女の美凪優花ちゃんの美しさにひれ伏すが良いです!!』
すると、少ししてから彼から返信がありました。
『今からそっちに行くよ。店の前に居たから時間はかからない』
ふふーん!!そうですか。今から貴方の驚く顔を見るのが楽しみです!!
私がそう思っていると、外から彼の声が聞こえてきました。
「来たぞ、美凪」
「ふふーん!!地上に舞い降りた天使を超え、もはやこの美しさは女神と言えるでしょう!!隣人さん!!この美凪優花ちゃんの美しさにひれ伏すが良いです!!」
私は試着室の扉を開けて、彼の前に立ちました。
……わかります。彼の目が私に釘付けになっていることを。
め、めちゃくちゃ意識してもらえてるとすぐにわかりました。
そして、その後に言われた言葉は最上級の褒め言葉でした。
「…………綺麗だな。お前のことを可愛いと思うことはあったけど、今のお前はとても綺麗だと思うよ」
「あ、あ、ありがとう……ございます……」
私は思わず下を向いて彼から視線を切りました。
「そ、その……そこまで褒められると照れますね……」
「そうか。ちなみにそのストールを取るとどうなんだ?」
「えと……こんな感じです」
「…………っ!!」
私は彼に求められるまま、ストールを取りました。
あはは……ちょっと照れますね。
そんなことを思っていると、彼は少しだけ不機嫌そうに言いました。
「…………禁止だ」
「……え?」
「俺の目の前以外でそのストールを取ることは禁止にする」
「あ、あはは……はい。わかりました」
もぅ……隣人さんたら……
「隣人さん。意外と独占欲が強いんですね?」
「……ダメか?」
「ふふふ。いえ、ダメじゃないですよ。寧ろ嬉しく思います」
「そうか。ちなみに、その服の代金は俺が出しても構わないけどどうする?」
……何を言ってるんですかね、この人は。
自分のものは自分で買いますよ。
そのためのお金は口座から引き出してあります。
「はぁ……何言ってるんですか?自分で買いますよ」
「そうか。じゃあまた俺は外で待ってるよ。着替えをして、会計が終わったら来てくれ」
「はい。了解です!!」
私はもう一度試着室へとと戻り、元の服に着替えていきました。
「すみません。少しレジが混んでいたのでお待たせしました」
会計をするためにレジへと向かったのですが、たまたま色々な人と会計が重なってしまい、待ち時間が出来てしまいました。
五分程彼を待たせてしまいました。
「そんなに待ってないから気にするな。あと荷物は俺が持つよ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね」
優しい彼はそう言ってくれました。そして、私はその言葉に甘えることにしました。
女性の荷物を持つのも一つの漢気だと思いましたので。
彼が自分の時計で時刻を確認している時に、私も近くにあった時計で時刻を確認しました。
どうやら十三時です。昼時を外しているのでそこまで混んではいないでしょうが、かわりにお腹はペコペコです。
それは彼も同じのようでした。
「じゃあ下に降りてイートインでステーキを食うか。そのあとの予定は食べながら話そうぜ」
「はい!!今から楽しみです!!」
私と彼はそう言って、イートインコーナーにある『めちゃはやステーキ』へと足を運びました。
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