美凪side ② 中編 その①

 美凪side ② 中編 その①




 隣人さんに指導を受けながら、私は朝食の準備をしていきました。

 今日は私の希望もあり、火を使わせて貰うことになりました。


 私と彼のマンションは火事防止の為、ガスコンロではなく、IHのクッキングヒーターだったので、厳密には火では無かったですが、そんなのは些事です!!



「ふふーん!!どうですか、隣人さん!!私の完璧なウインナー焼きは!!」

「うん。とても良く出来てると思うぞ」


 テーブルの上に乗せたお皿の上には、彼の作ったスクランブルエッグと私の焼いたウインナーが乗ってます。


 ふふーん!!この焼き具合は完璧だと自画自賛してしまいます!!


 隣人さんも褒めてくれました!!


 そして、トーストした食パンにマーガリンを塗り、スクランブルエッグとウインナーとレタスを挟んでサンドイッチを作って食べました。


 彼の作ったふわふわのスクランブルと、私の焼いたパリッとしたウインナー。そして、シャキシャキのレタスが織り成すハーモニーは完璧でした。


「美味しいよ、美凪。だが何よりも、フライパンを洗う時に……」

「火傷をしなかったことが偉い!!ですよね?」


 美味しそうに食べる隣人さんが言おうとしたことを、先に言ってやりした。

 ふふーん!!貴方の考えてることはわかってますよ!!


「あはは。そうだな。」


 隣人さんはそう言うと、軽く苦笑いを浮かべました。


 そして、言葉を続けました。


「俺はさ、良く漫画とかアニメとかで見かける手に傷を作って料理を作りました。ってのは嫌なんだ。そうして出された料理がどんなに味が良いものでも、俺は素直に喜べない。そう思ってる」

「……はい」


「お前には絶対に怪我をして欲しくない。不格好でもいい。不揃いでもいい。焦げても構わない。砂糖と塩を間違えても構わない。だけど、怪我にだけは十分に気をつけてくれ」

「はい。わかりました」


 真剣な表情で語られた想い。

 彼の優しさが伝わってきました。


「貴方は、優しい人ですね」

「こんなのは普通だよ」


 それを『普通』といえる貴方。

 そうですね。私が好きになったのは貴方のそういう所ですよ。



 隣人さんが食器を洗っている間に私はお湯を沸かしてコーヒーを作ります。


「インスタントコーヒーに隣人さんはミルクと砂糖は使いますか?」

「使うぞ。砂糖を二つにミルクを一つだな」


 意外です。私のイメージでは、彼はブラックかなと思ってました。驚いたので変な声が出てしまいました。


「はぇ……私の勝手なイメージでは『俺はコーヒーはブラック以外は飲まないんだよ。キリッ』みたいなことを言うと思ってました」

「あはは……ブラックコーヒーは中学二年生の時にやって見たけど苦くて飲めなかったよ。それからだな。砂糖とミルクを使い始めたのは」

「なるほど。厨二病と言うやつですね」


 私にもありますよ。カラーコンタクトと眼帯を着けてた黒歴史が……


『邪王〇眼は無敵です!!』


 なんて言ってた時代が……


「隣人さんに黒歴史はあるんですか?」

「あったとして、話すと思うのか?」


 あはは。これはありそうですね。


「机の中を見たら黒いノートとか出てきませんかね?」


「それ系の黒歴史は無いな。あるとしたら傘を振り回しながら『卍解!!』とか『アバンストラッシュ!!』とか叫んだくらいかな」


 何言ってるんですか。そんなのはみんな通りますよ。


 私は傘を振り回しながら、『飛〇御剣流 土龍閃!!』とかやって傘を壊してお母さんに怒られました……


「そんなの、みんな通る道ですよ?ちなみに、私は『呼吸』の使い手です!!」

「水の呼吸とかかよ?」


 鬼〇の刃?いえ、違いますよ!!


 私の呼吸は、極めれば不老とも言われてるあの呼吸です!!


「いえ、波紋の呼吸です!!」

「お前本当は何歳だよ……」


「ふふふ。私は結構そう言うのも好きでしたからね。ところで、この後はどうしますか?」


 こんな会話も楽しいですが、本題はこの後のデートです。

 私は彼に話を振りました。


「そうだな。個人的には買い物に行きたいな。背が伸びてるからだと思うけど、洋服が少し合わなくなってきててな」

「……羨ましいですね。まだ伸びるつもりですか?」


 彼は見た感じ180くらいはありそうですね。

 160の私には羨ましいです。

 もう5センチくらい欲しかったです。


「美凪だってそんなに小さいわけじゃないだろ?」

「もう少し欲しかったと思いますよ。あと5cmくらい」


 私がそう言うと、彼の視線が私の胸に向きました。


 お前の胸はまだまだ育ちそうだな。

 みたいなことを思われてそうです。


 もぅ……隣人さんはえっちなんですから!!


「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいよ……恥ずかしいです……」

「あ、すまん……」


「もぅ……ダメですよ。隣人さんはホントにえっちなんですから……」


 私はそうは言っても、彼から『女性』として見られてることが嬉しく思いました。

 ふふーん。これの私の『武器のひとつ』ですからね!!


「それで、どうする?ショッピングモールで買い物をする感じでもいいか?」

「そうですね。私も春物を欲しいなと思ってましたので、ちょうど良いかなと思います」


 そうです。いいことを思いつきました。


「そうですね、貴方好みの服を選んで貰ってかまいませんよ?」

「……え?」


「今日買った服を明日のデートで着る。と言うのはどうでしょうか?昨日のワンピースはほとんど汚れてないので、今日も着ようと思ってます」

「そうだな。俺もほとんど汚れてないしな。じゃあお互いの好みに合わせるようにするか」


「それは良いアイディアですね!!では早速着替えてショッピングモールへと向かいましょう!!」


 私はそう言って椅子から立ち上がりました。


「貴方の部屋で着替えてきますね」

「おう、じゃあ準備が終わったら居間に集合しようか」


 椅子から立ち上がった彼に、私は冗談混じりで言いました。


「……隣人さんはえっちですからね。覗いたらダメですよ?」

「……覗かないから」


 スっと視線を逸らした隣人さん。

 少しだけ頬が赤く染ってました。


 ふふーん?意識してもらってるみたいですね!!


「あはは。ではまたあとでお会いしましょう」


 私はそう言って、間借りしてる彼の部屋へと向かいました。




 彼の自室へとやって来た私は、扉を開いて中に入ります。


 鏡を見た私はまずは髪の毛を弄ることを決めました。


 昨日と同じ格好では芸がありません。


 お気に入りのワンピースを着ていくことは決めてますが、彼の好きな髪の毛に少しだけウエーブをつけることを決めました。


 ヘアアイロンを使って髪の毛にウエーブをつけていきます。


「ふふーん。隣人さんの為だけですからね、こんなことをするのは」


 本当は髪の毛が痛むかもしれないのでこういうのは少し敬遠していましたが、彼を驚かせたいのでチャレンジしてみます。


 鏡に映った私は、上手く髪の毛にウエーブをつけることが出来てました。


「ふふーん。流石は私です。初めての経験も完璧にこなしましたね!!」


 そして、私はお化粧をして着替えを済ませて、彼の待つ居間へと戻りました。




「天気に恵まれて良かったな。せっかくのデートなのに、雨とか降ったら最悪だからな」


 居間ではテレビで天気予報を見ていた隣人さんがそんなことを呟いていました。


 どうやら天気は二日間とも『晴れ』のようですね!!


 流石はパーフェクト美少女の私です!!


 最強の晴れ女でもありますからね。私が楽しみにしていた主要の行事ではいつでも晴れでしたから!!


「ふふーん!!パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんは最強の晴れ女でもありますからね!!この天候の予報は当然と言えるでしょう!!」


 私はそう言って隣人さんに声を掛けました。


 私の声に反応した彼は、こちらを振り向いて、私の姿を見たあとに微笑みながら言ってくれました。


「昨日も言ったけど、とても良く似合ってるよ美凪」

「ふふーん!!まぁこの私が本気を出したらこの位は当然ですよ!!」


 とても良く似合ってるよ。

 ふふーん!!貴方からそう言ってもらうために頑張りましたからね!!とても良い気分です!!


「俺とのデートに本気を出してくれるなんて嬉しいな。そんなに楽しみにしてくれてるのかな?」


 ……そ、そうですよ。私は貴方に喜んでもらうためもありましたが、このお出かけ……デートがすごく楽しでしたから。


「……そ、そうですよ。男の人とデートをするのなんて初めてですからね。そ、それに……私は少なからず貴方には好意を持ってますからね。楽しみにしているってのは間違いでは無いですよ」


「そうか。その……俺も女性とデートをするのは初めてだからな。何か変なこととかあったらすぐに言ってくれ」

「あはは……そうですね。ですがあまり肩肘張らずに自然体で楽しみましょう。私はいつもの貴方との会話がとても楽しいですからね」


 先程の漫画の話も楽しかったです!!

 貴方とは変に気負わずに話をしたいです!!


「そうだな、とりあえず自然体で楽しむことにしようか」


 隣人さんはそう言うと、椅子から立ち上がりました。


「じゃあ行こうか、美凪」

「はい!!」



 こうして私たちは、『初めてのデート』に向かいました!!




 マンションから出たところで、隣人さんが私に聞いてきました。


「ここから駅までは歩いて二十分位だけどどうする?」

「歩いて行くか、バスを使うか、自転車を使うかですかね」


「そうだな。個人的には自転車は無しにしたい。お前の服がシワになるのは嫌だし、そもそもスカートの女性に自転車を漕がせたくない」


 ……そうですね。私も貴方以外の人に中を見せたくありませんからね。

 こういう配慮は本当に紳士的だと思います。


「配慮してもらってありがとうございます。そうですね、私としては徒歩で駅まで行きたいです」


「何か理由はあるのか?」


 首を傾げる彼に、私は自分の想いを伝えました。


「貴方と手を繋いで歩いてみたいです」


 奏さんが言ってました。

 好きな人と手を繋ぐと幸せな気持ちになれる。と。


「そ、そうか……なら、駅までは徒歩で行こう。駅からはショッピングモール行きのバスが出てるからそれを使う感じで」


 彼はそう言うと、私に向かって右手を出してくれました。


 大きな手。私よりふた回りは大きいです。


「手を繋いで歩こう。車道側は俺が歩くからな」

「は、はい!!」


 私は彼の右手を握りしめました。


 温かい手。彼の優しさがそこから伝わってきます。


 彼はそっと私の手を握り返してくれました。


 こ、これは……


「て、照れますね……」

「そうだな……でも、悪くないな」


 そうですね。悪くないです。


 私と彼はこうして手を繋いで駅へと歩いて行きました。




 少しだけ彼と手を繋いで歩くことにも慣れてきました。


 最初は少し歩幅が合わないことがありましたが、段々と彼が私に合わせてくれるようになってくれました。


 そうしていると、少しだけ私の中に『物足りなさ』が湧いてきました。


「……その、隣人さん。お願いがあるんですが」

「ん?どうした、改まって」


 疑問符を浮かべる彼に、私は提案しました。


「こ、恋人繋ぎ。というのをしてみませんか?」

「……そ、そうか」


 恋人繋ぎ。指と指を絡めて繋ぐ手の繋ぎ方です。


「こ、恋が感謝か知るためにもどうですかね?」


 私は恥ずかしさから、そんなことを言ってしまいました。


 ですが、彼はそんな私にとても嬉しいことを言ってくれました。


「俺はそんな理由が無くても、お前とならそういう手の繋ぎ方をしてもいいと思ってるよ」


 そんな理由が無くても。彼も私に好意を持ってくれてるのは知ってます。ですが、こうしてそれを表に出してくれるのはとても嬉しく思います。


 そして、私と彼は手の繋ぎ方を指と指を絡める恋人繋ぎに変えました。


 ……っ!!


 こ、これは……


「……こ、これは……心にきますね」

「そうだな。でも、俺はこうして歩くのは嫌いじゃない」


「そうですね。私も嫌いじゃないですよ。その……むしろ歓迎してると言えますね」

「そうか。じゃあ今日と明日はこうして手を繋いで過ごそうか」


 ほ、本当ですか!!これはとても嬉しい提案です!!


「は、はい!!喜んで!!」


  私は満面の笑みでそう答えました。






「どうやらそんなに待たないでも大丈夫みたいだな」


 バス停に辿り着いた私たち。隣人さんはバスの時刻表を見ながらそう言ってきました。


「良かったですね。ちなみに隣人さん。今日のお昼はどうしますか?」


「そうだな。ショッピングモールにはイートインがあるからな、買い物が終わったらそこで食べるのが楽だろうな」

「そうですね。実はちょっと食べてみたいお店があるんですよ」


 私は前から気になってたお店をスマホに写して彼に見せました。


『めちゃはやステーキ』


 一昔前に大流行りしたステーキ屋さんです。


「なるほどな。聞いたことがあるステーキ屋だな。値段の割には美味い。そんな話だな」

「はい。正直な話を言えば『タレ』が美味しい。そう聞いています」


「そうだな。肉を美味しく食べるのに欠かせないのはタレの存在だからな」


 私は彼のその言葉に、真の理由を話しました。


「隣人さんならここのステーキを食べたら、同じ味のタレを作れないかなぁ……と思ってます!!」

「あはは。流石に全く同じ味とは行かないだろうけど、近い味なら再現することは出来るぞ?」


 ち、近い味を再現出来る!?

 やはりこの人は私の望みを叶えてくれます!!


「ホントですか!!流石隣人さんです!!」

「店の味をある程度のレベルで再現する。ってのはそんなに難しい事じゃないんだよ。でもそこにかかる『手間』であったり『コスト』が出来上がったものに見合わないことが多いんだよな」


「再現するのは難しい事じゃない。って台詞がもう凄いですね……」


 そうしていると、ショッピングモール行きのバスが来ました。


「よし。このバスだな、乗るぞ美凪」

「はい!!」


 隣人さんはそう言うと、バスステップに先に乗って、私に手を差し伸べてくれました。


 もぅ……貴方って人は……


「あはは。紳士ですね」

「転びやすそうなミュールを履いてるしな。この位は当然だろ?」

「お気遣いありがとうございます。隣人さん」


 私は彼にそうお礼を言って、手を取りました。


 バスの中は空いていたので座ることが出来ました。


 ふふーん!!窓際の席は私が貰いました!!


「窓側の席は私が貰いましたぁ!!」

「あはは。そんなにボタンが押したいのか?」


「ふふーん!!この役割は誰にも譲りません!!」


 このバスをとめる権利を持つのはこの私です!!


「それじゃあショッピングモールまでの間はお互いに好みの服装とかを少し話でもしてようか」

「はい!!」


 そして、私と隣人さんはバスの中で他愛の無い会話をしながらショッピングモールへと向かいました。

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