第十一話 ~風呂場で身体を洗おうとしたところに、美凪が突撃してきた件~
第十一話
「よし。あとは味が染み込むように食べる時まで寝かせておこう」
「はい!!了解です!!」
カレーを作り終わった俺と美凪は手を洗ってから台所を後にした。
料理を終え居間で麦茶を飲みながら、少しだけまったりとした時間を過ごす。
そして、この後のことを彼女に話していった。
「じゃあこれから風呂に入って、出たら飯にしよう。俺はこの後風呂の掃除をしてくるから、美凪はその間に使った調理器具を洗って元の位置に戻しておいてくれ」
「はい!!」
「今日は色々とやることがあったから疲れてると思う。包丁を洗う時には十分に気をつけてくれ。俺が初めて包丁で怪我をしたのは、洗ってる時だからな」
「り、隣人さんでも怪我することがあるんですね……」
少しだけ驚いた表情の美凪に、俺は笑いながら言う。
「当たり前だろ。俺がお前によく『注意しろよ?』と言う時は、俺が怪我をしたり、失敗をした時の経験から言ってるんだよ」
俺が包丁で怪我をしたのは二回目の時。
洗ってる時に指を滑らせて切った。
フライパンを洗う時にも取っ手の近くにある金属に触れて火傷をしたこともある。
ピーラーを舐めてかかって指を剥いたこともある……
そういった『痛い思いをした教訓』があるからこそ、俺は美凪に注意をしろと言えるんだ。
「お前にはなるべく怪我をして欲しくないからな。だから、十分に気をつけてくれよな?」
「はい!!」
そんなやり取りをして、俺は風呂掃除をした。
美凪は怪我に気を付けながら調理器具洗いを終えてくれた。
『お風呂が沸きました』
美凪と二人で居間でのんびりとテレビを見ていると、お風呂の準備が整った。
「じゃあ俺から行ってくるわ」
「はい。一番風呂は家主の特権ですからね」
「あはは。ありがとう」
俺はそう言うと、着替えを持って風呂場へと向かう。
衣類を脱ぎ捨てて洗濯機に入れる。
裸になって浴室に入り、お湯を身体に掛けてからお湯を張った浴槽に身を沈める。
「あぁ……たまんねぇなぁ……」
タオルを頭に乗せて、俺はそう声を上げる。
結構歩いたからなぁ……流石にちょっと疲れてたみたいだ。
湯船の中でふくらはぎをマッサージしておいた。
十分に身体が温まったところで、俺は身体を洗おうと浴槽から出る。
すると、
コンコンという音が浴室に響く。
「……え?」
美凪か?何かあったのか??
もしかして、不審者が現れたとかか!!!???
俺は驚いて振り向くと、磨りガラスの向こう側には美凪の姿が見えた。
「どうした!!もしかして、不審者が現れたとかそう言うのか!!??」
俺がそう聞くと、美凪は少しだけ言いにくそうに答えた。
「そ、その……お背中を流そうかと……」
「は、はああああああああぁぁぁ!!!???」
背中を流すだって!!??
馬鹿なこと言うなよ!!
こっちは素っ裸だぞ!!
「な、何でそんな事いきなり言ってくるんだよ!!」
「お、お世話になってるので……」
「そ、そんなことは求めてないんだけど……」
「だ、ダメですか……?」
ぐ、ぐぅ……
寂しそうな美凪の声。
べ、別に背中を流すのは理性には響かない。
こっちがただ恥ずかしい思いを我慢すれば良いだけだ……
はぁ…………
「…………わかった。良いよ。許可するよ」
「あ、ありがとうございます!!」
美凪はそう言うとガラリと磨りガラスの扉を開けた。
「…………は?」
「…………あ」
まだ何の準備もしてなかった俺。
タオルを腰に巻いておくとかそう言うのをした上で迎え入れようと思っていた。
そういうのをまるでしていない状況。
しかも、俺は磨りガラスの方を向いている。
……素っ裸の状態で仁王立ちしながら美凪の前に立っていた。
「…………何か言うことはあるか?」
「ご、ご立派ですね」
そうか、ご立派か。他人と比べたことは無いとは思うけどな。
父親くらいか。サイズを知ってるとしたら。
「し、失礼しました……」
美凪は顔を真っ赤にしながらそう言って磨りガラスの扉を閉めた。
「…………まぁ、一緒に暮らしていけばこういう事故もあるだろうから特に俺から何かを言うことは無いが、気を付けてくれ」
磨りガラスの向こう側に俺がそう言うと、
「は、はい……」
と言う声が返ってきた。
ホント……勘弁してくれよ……
タオルを腰に巻きながら、俺は大きなため息をついた。
「……はぁ。開けていいぞ」
「は、はい!!」
腰にタオルを巻き、お風呂用の椅子に腰を下ろした状態で美凪に声を掛ける。
ガラリと磨りガラスの扉が開き、美凪が中に入ってくる。
「さ、先程は失礼しました……」
「まぁ気にするなよ。今度はお前の裸を見せてもらうから」
俺が冗談めかしてそう言うと、
「お、お望みでしたら……」
なんて言葉が返ってきたので、
「頼む。冗談だから本気にしないでくれ……」
と言っておいた。
そして、俺は美凪にボディータオルを渡す。
「好きにしてくれ。多少強めに擦ってくれる方が嬉しいかな」
「わ、わかりました。では、失礼します!!」
美凪はそう言うと、まずはシャワーを俺の背中にかける。
きちんとお湯が出るようになってから掛けてくれた。
最初の冷たい水を掛けられたらどうしようかと思ったけど……
そして、十分に濡らした俺の背中をボディソープを着けたタオルでゴシゴシと擦っていく。
「もう少し強くていいぞ?」
「え?結構強くやってますけど?」
俺がそう言うと、美凪は少しだけ驚いたように聞いてきた。
「あはは。まだまだそんなんじゃ俺は満足出来ないぞ?」
「わかりました!!目いっぱい強くやりますよ」
そう言って美凪は結構な力を込めて背中を擦ってきた。
「おぉ……いい感じだな」
俺がそう言った時だった。
「わわ!!」
後ろで美凪が慌てたような声がした。
「美凪!?」
ふにゅん……という感触が背中にやってくる。
滑った美凪が、後ろから俺に抱きついてきた。
「す、すみません……滑りました……」
「わ、わかったから……怪我は無いか?」
「はい。隣人さんに抱きついたお陰で転ぶことは無かったです」
その言葉に俺は安堵する。
良かった。お風呂場で転ぶと下手したら骨折とかあるからな。
なんて思っていると、
「で、ですが……着ていた服はびちょびちょです……」
「だろうな……」
なんて声が返ってきた。
「これは、すぐに脱がないと風邪を引いてしまいますね」
「そうだな。身体が冷えるからな」
「じゃあ。服を脱いで来ますので、一緒にお風呂に入りましょう」
「………………え?」
美凪はそう言うと浴室から出て行った。
俺は美凪が残した言葉を頭にもう一度思い浮かべる。
一緒に、お風呂に、入りましょう。
「お前!!マジで言ってるのかよ!!」
「はい。風邪を引いたら大変ですからね」
「た、確かにそうだけど……」
「あはは。ですが流石に少しは恥ずかしいので視線は逸らして貰えると嬉しいです……」
そんな返事が返ってきた。
「………背中を流すことは理性には響かない。なんてのは嘘じゃねぇか」
俺は浴室の中で頭を抱えてそう呟いた。
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