第十話 ~ 美凪と一緒にカレーを作り、彼女のレベルアップを感じた件~

 第十話




「いやー隣人さん!!とても楽しい一日でしたね!!」

「そうだな。連休初日としては最高のスタートだったと思うよ」


 夕方。俺と美凪はバスを乗り継いだあと、駅から自宅へと歩いていた。


 ゲーセンを出た後は荷物を回収して、帰路に着いた。


 バスは少し混んでいたが、座れないこともなかったのは幸いだった。


 帰りのバスでは停車ボタンを押すことが出来た美凪はごきげんだった。


 そして、荷物は二人で分担して持ち、空いた方の手を繋いで歩いていく。


「自宅に着いたら夕飯の支度をしましょうね。私の華麗なピーラー捌きをお見せしましょう!!」

「あはは。調子に乗って指を剥いたりするなよ?」


 そんな話をしていると、俺たちのマンションに辿り着く。


 エレベーターを使って部屋の階まで上がる。

 鍵は美凪が取り出してくれていたのでそれで玄関の鍵を開けた。


「ただいま」

「お邪魔しまーす!!」


 そう言って部屋の中に入る俺と美凪。

 俺は美凪に気になったことを言っておいた。


「もうここはお前の家みたいなもんだから、お邪魔します。なんて言わなくて良いぞ?」

「……え?」


「いつまでも他人行儀なんて寂しいことしなくていいからな」

「……あ、ありがとう……ございます」


 少しだけ頬を赤く染めながら、美凪は了承してくれた。


 そんなやり取りをして、俺と美凪は洗面所で手洗いとうがいを済ませたあと自室で部屋着に着替える。

 今日来た服は洗濯機に入れ、動きやすい服装に着替えた。


 そして、ご飯は3合炊くことにした。

 今日のごはん係は俺なので、米を洗って炊飯器にセットして、予約で炊いた。


 もしかしたら夕飯は外食するかもしれない。

 と思っていたので、朝から炊くことはしていなかった。


 そうしている間に、美凪はカレーの準備を進めていた。


 料理に使う野菜をあらかじめ水で洗ってくれていた。

 こういう所が本当に気が利くよな。と思う。


「さて、美凪。まずはお前にピーラーの使い方を教える」

「はい!!」


 俺は人参とピーラーを持って説明の体制に入る。


「こんなもんで怪我する奴なんか居ないだろ。という慢心が、怪我の元なのはわかるな?」

「はい!!わかります」


「ピーラーは力を入れ過ぎて引くなよ。刃をしっかりと当てて、適度な力で引く。そしてピーラーの進む先には絶対に指を置くな。それが怪我の元になるからな」

「はい!!」


「よし。じゃあ俺は隣で見てるからやってみろ」

「了解です!!」


 そう言って美凪は慎重な手つきで人参とじゃがいもをピーラーで剥いていった。

 丸くてでこぼこしてるじゃがいもには苦戦をしていたが、


「焦らない。イライラしない。ゆっくりと、丁寧に……怪我しないように気をつける……」


 と呟きながらやっていたので、手つきは危なっかしかったがそこまでの心配はしてなかった。


 そして、


「出来ました!!」

「うん。良くやったな、美凪」


 まな板の上には皮が剥かれた人参とじゃがいもが並んでいた。

 苦戦していたじゃがいもも、綺麗に皮が剥かれている。

 芽の部分もしっかりとくり抜いてある。


「そしたら次はこの人参とじゃがいもを一口サイズにカットする。人参の上と下は捨てるからな」

「はい!!」


「あと。皮を剥いたじゃがいもは滑りやすい。平らな面を下にして、滑らないように気を付けるんだぞ」

「了解です!!」


 俺の説明を聞いた美凪は、真剣な表情で人参とじゃがいもをカットしていった。


 そして、カットした野菜はボウルの中に移していく。


 俺は少し離れたところで、次にカットする予定の玉ネギの皮を剥いていく。


「出来ました!!」


 俺が玉ねぎの皮を剥き終えたくらいに、美凪が人参とじゃがいもをカットし終えた。


「よし。じゃあ美凪。これが野菜カットの最終試練だ」

「わ、わかってます。玉ねぎ……ですよね?」


 美凪のその言葉に、俺は首を縦に振った。


「そうだ。これを乗り越えればお前はひとつ上のステージに行けるだろう」

「はい!!頑張ります!!」


「良いか。辛かったら無理をするな。あと、絶対に玉ねぎを切った手で目を擦るなよ?」

「はい!!」


 茶色い皮を剥いて白い状態にした玉ねぎを二つ、美凪に渡す。


「上と下を切って捨てる。そしたら一口サイズにカットする。俺の包丁は良く研いであるし、切る前には水で晒してある。それにみじん切りよりもダメージは少ないとは思う。ここで大切なことがある」


「涙が出るのは生理現象だ。防衛反応だ。それを我慢しなくていい。しっかりと切るところを見ながらやるんだ。辛いからといって目を背けて切るなよ?」

「はい!!」


 そして、美凪はゆっくりと玉ねぎを切っていく。


「……っ!!」


 案の定。美凪の目には涙が浮かんでいる。

 だが、想定よりは少ない。


 やはり事前にしっかりと準備をしておいたからな。


 美凪は俺の言いつけ通り、しっかりと手元を見ながら、ゆっくりと慎重に玉ねぎをカットしていった。




「……やりましたよ、隣人さん」

「うん。良く頑張ったな」


 全ての玉ねぎを切り終えた美凪は、包丁を置いてからこちらに振り向いて、微笑みながらそう言ってきた。


 俺は美凪の頭を撫でながら、しっかりと労った。


「……えへへ。これでまた一つレベルアップです」

「そうだな。何も出来なかった頃から比べたら、すごい進歩だぞ」


 そして、俺は豚のブロック肉を取り出した。


「レベルアップした美凪には、肉のカットをしてもらう。玉ねぎよりは簡単だと思うが油断するなよ?」

「はい!!」


「じゃあまずは……」


 そう言って教えていきながら、俺と美凪は二人で一時間ほどかけてカレーを作っていった。



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