~エピローグ~

 エピローグ





「それにしても、本当に手作りケーキは美味しかったよ。ありがとう、美凪」

「ふふーん!!喜んでもらえたのなら光栄です!!まあ、パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんですからね、この程度のことならおちゃのこさいさいです!!」


 豊かな胸をそらせながら、美凪はドヤ顔でそう言った。


「食器洗いくらいはやらせてくれないか?さっきも言ったけど、お前のその服を汚したくない」

「えへへ。その……似合ってますか?」


「あぁ。とても良く似合ってる。正直な話。下界に降り立った天使かと思ったよ」

「も、もぅ……言い過ぎですよ……」


 そんな甘い空気が部屋に満ちる中、俺は椅子から立ち上がって食器を流しへと持っていく。


「おや……隣人さん。ポケットに何かを入れてるんですか?」

「…………あ」



 や、やべぇ!!こんなもん持ってるのがバレたらとんでもない事になるぞ!!


「……き、気にしなくていいぞ」


 俺は苦笑いを浮かべながら、ポケットの膨らみを隠す。


「隣人さん……そんな事されたら、余計に気になるってわかりますよね?」


 呆れたような表情でそう言う美凪。

 だが、これを見られる訳には……


「出してください」

「……はい」


 彼女の圧に負け、俺は奏からの誕生日プレゼントをテーブルの上に出す。


 0.01mmの避妊具 10枚入の小さな箱。


「……隣人さん。私はこれが何かわからないような子供では無いです」

「はい」


「どういう意図があって持ってきたか、話して貰えますか?」


 ニコリと笑いながら、美凪はそう言う。

 その笑顔が……怖い……


「も、黙秘……」

「黙秘は認めません」

「……え?」


 顔を伏せて黙秘権を行使しようとしたが、それを却下された。

 俺は顔を上げて彼女の目を見る。


 そこには俺を『軽蔑』しているような視線では無かった。

 真意を知りたがっている。そういう目だった。


「きちんと話してください。私は貴方の本心が知りたいです」

「そ、それを話したら軽蔑……」

「軽蔑なんかしませんよ」


 美凪はそう言うとふわりと笑う。


「私がどれだけ貴方を信頼してると思ってるんですか?この程度のことで軽蔑すると思われてるのなら、その方が心外です」

「そ、そうなのか……」


 俺はそう言ったあと、一つ息を吐いた後に話し始めた。



「これは、奏からの誕生日プレゼントだ」

「……なかなか刺激的な誕生日プレゼントですね」


「俺もそう思うよ。そして、これをここに持ってきたのは『万が一そういう雰囲気になった時のため』ってのだよ」


「別に、お前とそういう事をするために持ってきた訳じゃない」


 俺がそう言うと、美凪は首を縦に振った。


「でしょうね。もし貴方がそういう人なら、私はここまで信頼してません」

「……はぁ。買いかぶりだよ。俺の頭の中はいつだってえろい事でいっぱいだよ」


 その言葉を受けて、美凪は言う。


「私に対してもそういうことをしたいと思うことはあるんですか?」

「……あるよ」


 そんなんしょっちゅうだよ。とは言わなかったけど。


「そうですか。話すのが辛いことを話してくれてありがとうございます」

「はぁ……どういたしまして」


 ため息混じりにそう言う俺に、美凪は微笑みを浮かべながら話し始める。


「貴方が私に本心を話してくれたので、私も本心を話しますよ」

「そうか……」


 俺がそう返事をすると、彼女は頬を赤く染めて言う。


「貴方の家に泊めてください。私がそう言って部屋を訪れた時がありましたね?」

「そうだな」


「あの日。私は貴方が求めてくるのなら『初めて』を差し出しても良い。それくらいの覚悟がありましたよ」

「…………はぁ。あの状況下でそんなことをお前に求めたら、俺はただのクズだろ」


「ふふふ。そうですね。ですが、貴方が私と今夜はそういうことをしない。そう宣言した時に、私は安心したのと同時に、悔しい気持ちにもなりました。求められない。と言うのは女としての魅力に欠けている。そう言われてるようにも思えましたから」

「馬鹿言うなよ……お前に女の魅力が欠けてるなんてことがあるはず無いだろ……」


 俺がそう言うと、美凪は少しだけ頬を赤く染める。


「あ、ありがとうございます……」


 そして、美凪は俺に向かって言葉を続けた。


「私は、貴方に対して非常に大きな好意を抱いています」

「…………え?」


 い、今俺はなんて言われた?


「それこそ。これを使うような行為すら、貴方から求められればしても構わない。そう思えるくらいには」


 美凪はそう言うと、避妊具を指さした。


 少しの沈黙の後、美凪は言葉を続けた。


「ですが、私はこの気持ちが『恋』なのか『感謝』なのかわかりません」

「…………美凪」


 そして、彼女はふわりと微笑みを浮かべて俺に言う。


「だって、私はまだ初恋すらした事の無い乙女ですからね」

「そうか……」





「だから、もう少し待ってて貰えませんか?」




「私のこの気持ちが乙女の恋心なのか、生命を救ってもらった恩人に対する感謝なのか、私が理解するまでの時間をください」

「理解したら……どうするんだ?」


 俺のその問いに、美凪は答える。


「その時は、私の気持ちを貴方に伝えますよ」

「……わかった」


 俺はそう言ったあと、避妊具をポケットにしまう。


「先に言っておく。俺はなんとも思ってないような人間に飯は振る舞わない」

「…………はい」


 きっと、俺が言いたいことは伝わってるはずだ。


「お前が望むなら『一生』美味しいご飯を作ってやるよ」


 俺はそう言って、美凪に笑いかけた。


 その言葉を受けて、彼女は満面の笑みを浮かべる。


 あぁ、そうだな。俺はお前のその笑顔が本当に大好きなんだ。





「はい!!これからもよろしくお願いします!!私の……私だけの、飯使いさん!!」





 腹ぺこお嬢様の飯使い

 ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~



 エピローグ



 ~完~



 第二章へ続く


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