第二十一話 ~美凪と作った弁当が見つかり、バカップルにからかわれた件~

 第二十一話





「はぁ……朝からやることが多くて、なんか疲れたな」


 朝。教室の机の上に頬杖をつきながら、俺はそう呟いた。




 朝ごはんを食べ終わったあと、お弁当の準備をするために一度使ったフライパンを流しで洗っていた。


 お弁当の中身は海野家特製のだし巻き玉子と美凪がリクエストしていたタコさんウインナー。そして、彩りにミニトマトを添える予定だ。


 ご飯の上に乗せる用の高級味のりも用意した。

 この味のりは、美凪のお母さんからの頂き物だ。

 ありがたく使わせてもらおう。


 まぁ、この程度の弁当なら楽に作れるよな。

 これを作るだけで昼飯代がかなり浮く。

 そう考えると、作る手間位なんてあってないようなものだな。


 そう考えていると、


『隣人さん。私も何か出来る事ありますか?』


 美凪が台所にトコトコやって来た。

 こういう姿勢は好感が持てるよな。


『とりあえずこのミニトマトを洗ってヘタを取ってくれ。しっかりと水気は拭き取る感じで。あとはこれからだし巻き玉子を作る予定だ』


『だし巻き玉子!!ご馳走ですね!!』


 笑顔になる美凪。だし巻き玉子をご馳走と言ってくれるのは嬉しいな。


『そのだし巻き玉子を包丁でいい感じの大きさにカットしてくれ。昨日のきゅうりより難易度が高いからな?頑張れよ』

『はい!!指を切らないように気を付けてやります!!』

『よし。その心持ちなら大丈夫だな。多少だし巻き玉子が潰れても構わないから、気をつけるんだぞ』


 そうして、俺と美凪は二人でお弁当を作っていった。

 やはりこいつとやる作業ってのは楽しいな。


 そして、弁当作りを終えた俺たち二人は、美凪の部屋へと向かう。


 俺がガチャリと玄関のノブを回すと鍵が掛かっていないのだろう。そのまま開いてしまった。


『おいおい、鍵も掛けないでうちに来たのかよ』

『そ、そんな余裕が無かったです……』


 美凪が出て行った瞬間より、今の方が危険度が高いと思うんだよな……


『はぁ……先ずは俺が中を確認してくる。美凪はここで待ってろ』

『だ、大丈夫ですか?』


 心配そうな美凪の頭に手を乗せる。


『大丈夫だよ。これでも鍛えてるからな』


 頭を撫でながらそう言うと、美凪は納得したのか、首を縦に振った。


『さて、行くかな』


 俺はそう呟いて、部屋の中を進む。


 ブレーカーが落ちたままなので、部屋の明かりはスイッチを押してもつかなかった。


 分電盤の位置はうちと変わらないはずなので、その場所に行くと、やはりあった。


 位置の確認を終えた俺は、洗面台へと向かう。

 コンセントにはスマホの充電器とドライヤーが繋がれていた。


 やはりこれが原因だな。


 俺はドライヤーと充電器をコンセントから抜きとる。


 分電盤の所へと戻り、蓋を開けてブレーカーを上げる。


 すると、部屋中の明かりが一斉についた。

 そして、居間からはテレビの音が聞こえてきた。


『はぁ……あのバカ……』


 部屋中の電気をつけて、テレビもつけて、とどめにドライヤー。こんなことしたらブレーカーなんて落ちるに決まってるだろ……


 テクテク歩いて部屋の明かりを一つづつ消して回る。


 最後に居間の明かりとテレビを消す。


 そうした中でも不審者の姿は無かった。


 居留守を狙った犯罪者に遭遇することがなくて良かった。

 最近では女性物の下着を狙った犯行もあるからな。

 見た目だけなら美凪はとんでもない美少女だ。


 一緒に暮らすと言うなら、そういう奴からも守ってやらないとな。


 俺は玄関へと向かい、美凪の元へと帰る。


『……おぅ、美凪。特に問題はなかっ……ぐふぅ』

『……ぶ、無事で良かったです』


 俺の姿を見た美凪は、タックルのように俺に突っ込んできて抱きついてきた。


『心配かけてすまんな。まぁとりあえず大丈夫だから』


 そう言って、俺は胸に顔を埋めている美凪の頭を撫でる。


 ほんと、こいつの髪の毛はサラサラでいつまでも触っていたいと思ってしまう。


『待ってる間は不安でした。ここは危険な場所ですから……』

『あはは……そうか。まぁとりあえず電気が消えた仕組みだけは教えておくよ』


 俺は苦笑いをしながら美凪にそう話した。


『ブレーカー。って言葉くらいは聞いたことあるだろ?』

『はい。ブレーカーが落ちる。というのを言葉としては知ってます』


 部屋の中に入り俺と美凪は奥へと進む。

 恐ろしいんだろうな。美凪は俺の腕に必死にしがみついていた。こいつの豊かなおっぱいの感触が腕から伝わってくる。


 ほんとに、理性を削るのが得意な女だな……


『電気を使いすぎるとブレーカーは落ちるんだ。ドライヤーとか電子レンジとかエアコンとかがヤバいやつらだな。お前の場合。部屋中の明かりをつけて、テレビもつけて、とどめにドライヤーを使ったからブレーカーが落ちて電気が消えたんだよ』

『な、なるほど……その場合はどうしたらいいんですか?』


 首を傾げる美凪。幽霊の仕業では無い。とは理解してくれたようだ。


『分電盤ってやつがあって、その蓋を開けてからブレーカーを上げて元に戻す必要がある。それをしない限りは何をしても電気は流れてこない』

『だから、スイッチを押しても明かりがつかなかったんですね』


 そして、俺と美凪は分電盤の位置に辿り着く。俺はそれを指さしながら説明する。


『そう。ほらコレが分電盤だ。ブレーカーが落ちたらここのスイッチを操作して、元に戻す。その際にはその原因になった家電のスイッチは切っておくこと。あとは急に電気が流れるから出来ればテレビとか冷蔵庫のコンセントも抜いておいた方がいいけど、そこまではしなくていいよ』

『そ、それをあんな暗い中でやれと?』


 目を丸くする美凪に俺は笑いながら言う。


『そうだよ。懐中電灯片手にやるのが普通だ。だからブレーカーが落ちないように、家電を使う時には注意が必要だ。まぁ、目安としては20アンペアだと思え。ドライヤーは12アンペアだ。ドライヤーを使う時には余計な電気は消しておく。位の配慮が必要だな』

『わかりました。隣人さんの家でドライヤーを使う時には注意します!!』


 グッとこぶしを握る美凪。まぁいきなり停電とかやめてもらいたいとは思うけど……


『俺の家で暮らすのは確定なんだな……』

『ふふーん。これほどの美少女と暮らせるんです!!喜んでくださいね、隣人さん!!……あ、同居するので隣人さんでは、変ですかね?同居人さん……ですか?』


 学校でこいつから『同居人さん』なんて言われたら、何を言われるかわかんねぇよ……


『隣人さんでいいよ……同居人さんだと、なんか余計な噂が立ちそうだ』

『わかりました!!それではこれからもよろしくお願いしますね、隣人さん!!』





 なんてやり取りが朝にあった。



 一時間目の数学の時間の教科書を開いて、今日の授業の箇所をボケーッと眺めていると、ガラリと教室の扉が開く。


「うーし。お前ら席に着け。SHRを始めるぞ」


 山野先生が教室へと入って来た。


「よし。じゃあ海野。お前が号令を掛けろ」

「……はい。わかりました」


 学級委員をやるって言ってるしな、その辺で言ってるんだろうな。


「起立」


 俺がそう言うと全員が立ち上がる。


「礼」


 山野先生に礼をする。


「着席」


 全員が着席をする。


「よし、皆。おはよう。連絡事項だが、昨日も話したように今日から通常授業が始まる。テストもあるからな?そして六時間目はLHRだ。この時間で各委員を選出する」


「男子の学級委員は海野が既に立候補しているが、まぁ別に誰がやっても構わない。クラスの学級委員を選出したら、その二人が司会進行をするように」


「ここまででなにか質問があるやつは居るか?」


 誰からも質問は出なかった。


「よし、ではSHRを終わりにする。一時間目までは好きにしてて構わない」


 山野先生はそう言うと、教室から出て行った。


「一時間目は数学だよな?確か、担当は根岸(ねぎし)先生だったな」

「そうですね。なかなか意地悪なテストを作る。と聞いています」


「最初の授業だし、春休みの宿題からのテストになりそうだな。よし、美凪。テストの点数で勝負だ」

「ふふーん!!私に勝負を挑むとは良い度胸です!!良いでしょう、その喧嘩は買いました!!」


 そんなやり取りをしながら、美凪はカバンを開けて、筆記用具と数学の教科書とノートを取り出す。


「なぁ、凛太郎。今ちらっと見えたんだけどさ、美凪さんの弁当。包んである布に見覚えがあるんだけど?」

「凛太郎くん!!もしかして、優花ちゃんにお弁当作ってあげてる感じかな!!」


 美凪のカバンの隙間から見えたお弁当に、幸也と奏が食いつく。

 美凪はカバンから弁当箱を取りだしてドヤ顔で自慢する。


「ふふーん!!こちらは隣人さんが作ってくれたお弁当です!!中にはミニトマトとだし巻き玉子に、私の大好きなたこさんウィンナーがたくさん入ってます!!」

「え、中身まで知ってるって、美凪さん、その場に居たの?」


 幸也の言葉に美凪は笑顔で首を縦に振る。


「はい!!何を隠そう、このお弁当の中身のミニトマトを洗ってヘタを取り、更にはだし巻き玉子のカッティングを行ったのはこの私ですからね!!」


「そ、それって大して何もしてないんじゃ……」

「言うな、幸也。これでもこいつは頑張ってるんだ」


 苦笑いをする幸也に、俺も笑いながら言う。


「可愛いだけじゃなくて、家事まで手伝える。凄いね優花ちゃん!!」


 奏だけは美凪のことをべた褒めしていた。

 そうだな、こいつも家事初心者だ。


「ふふーん!!白米の上に味のりを乗せたのも私です!!もはやこのお弁当は私のお手製と言っても過言ではありませんね!!」

「いや……過言だろ……」

「あはは……美凪さんって結構面白い人だったんだね」


「隣人さん。この優花ちゃんスペシャルお手製弁当を味わって食べてくださいね!!」

「あぁ……うん。そうするよ」


 よくもまぁここまで天狗になれるものだ。と思いながらも、昨日のあの涙で濡れた美凪を見る位ならこっちの方が百倍いいと思う。


 俺はお弁当片手にして、奏を相手にドヤ顔をしてる美凪を見ながら、そう思っていた。

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