第十四話 ~やっぱり美凪は笑ってる方が可愛いなと思い直した件~
第十四話
「玄関先で大金を持ったまま話すのも物騒だ。とりあえず、美凪。家に上がれ」
「はい。お邪魔します」
俺は美凪を家に上げると、居間へと連れて行く。
そして、椅子に座った彼女にコップに入れた麦茶を出す。
「ありがとうございます」
麦茶を一口飲んで、美凪はお礼を言った。
「先に言っておくぞ、俺の親父も仕事先に泊まらなきゃならなくなった。一ヶ月は家に帰れない。そう言われている。全く、システムエンジニアってのはブラックな企業だと思うわ」
「……そうなんですね。どこもみんな酷いものだと思います」
……はぁ。どうも元気が無いな。
こんなコイツを見ててもつまらん。
そう思った俺は、美凪のほっぺたを両手でつねる。
「……っ!!な、なにふるんへふか!!りんひんはん!!」
ほっぺたをぐにぐにしながら俺が言う。
「何らしくない態度取ってるんだよ美凪優花!!お前の良いところは笑顔が可愛くて、底抜けに明るくて、どこまでもポジティブなところだろ!!そんなどんよりした顔でいたら折角の美少女が台無しだぞ!!」
「……っ!!」
美凪の目に光が戻ったのを見た俺は、ほっぺたの手を離す。
「ふ、ふふーん!!やはり隣人さんも私のことを美少女だと思っていたのですね!!」
「……まぁ、見た目だけならな」
「何を言ってるんですか、隣人さん!!この優花ちゃんは見た目だけじゃなくて中身も完璧なパーフェクト美少女ですよ!!勉強も運動もトップレベルです!!」
「でも家事は出来ないけどな」
俺がそれを言うと、美凪はビシッと指を突きつける。
「お母さんからお金を貰ってるのですから、貴方は美凪家に雇われた召使い……いえ、『飯使い』です!!」
「文字にならねぇとわかんねぇようなことを言うなよ……」
「言わば私は貴方の雇い主です!!お嬢様と呼んでください!!」
……はぁ。元気になったのはいいけど、良すぎるのも考えものだな。
まぁ。さっきのどんよりした彼女よりは百倍マシだけどな。
「はいはい。美凪お嬢様」
「ふふーん!!良い気分です!!私のために、いっぱい美味しいご飯を作ってくださいね、飯使いさん!!」
隣人さんだったり、飯使いさんだったり、こいつが俺の名前をまともに呼ぶ日はいつになるんだろうな。
俺はそんなことを考えながら、コップに注いだ麦茶を飲み干した。
「さて。美凪。重要な話がまだあるんだ」
俺が真剣な表情で話し掛けると、
「な、なんですか。話してください、隣人さん」
と返事をした。
「冷蔵庫の中には昨日のハンバーグで使って残った野菜しかない。具体的に言えば、卵と玉ねぎしかない」
「大事件じゃないですか!!」
美凪はそう言うと、テーブルをバンと叩いた。
「俺一人なら下の牛丼屋で済ませようかと思っていたけど、お前も食うのにそんなことしたら、金なんかあっという間に無くなっちまう」
「そうですね!!私が本気を出したら牛丼五杯はいけます!!」
……食い過ぎだろ。
まぁ、食べる女は嫌いじゃない。
「と言うわけで、これからスーパーに買い物に行く。お前も着いてこい」
「夕飯の献立に口を出していいんですか!?」
「まぁ、今日は玉ねぎが残ってるから豚肉の生姜焼きとかにしようと思ってるけど」
「豚肉の生姜焼きは大好きです!!無限にご飯が食べられます!!」
よし。じゃあ今日の献立は豚肉の生姜焼きだな。
「よし、じゃあ美凪。こっちに来い」
「……え、なんですか?」
俺はそう言って立ち上がると、美凪を台所に呼ぶ。
「米の炊き方を教えてやる。これさえ出来れば餓死することは無い」
「なるほど!!確かにお米が食べれれば死ぬことは無いです!!」
俺は米びつを引っ張り出すと、炊飯器の中にある釜を取り出して、三合の米を入れる。
「いいか、美凪。一合の米で茶碗2.2杯分だと思え」
「はい!!」
「明日から授業が始まる。学食では無く弁当を用意してやる。その弁当の分も含めて三合炊く。お前のおかわりも含めるとこれが妥当だろう。あまり炊き過ぎても米が余るのは勿体ない。まぁ、ラップにくるんで冷凍しても構わないがな」
「はい!!」
そして、米を入れた釜を水道水を流しながら洗っていく。
「洗剤で米を洗う。なんて馬鹿なヤツはいないと思うし、それくらいはお前だって知ってるだろ?」
「はい!!知ってます!!」
「米を洗う時の注意点はたっぷりの水で優しく洗うことだ。あまり強くごしごしやると米が不味くなる」
「お米はおいしく食べたいです!!」
何回か米洗いをして、白濁の水が無くなったことを確認した俺は、釜の水を拭き取り、指定された量の水を入れる。
「あとは釜に書いてある指定の水を入れるだけだ。この時の注意点は当然だが、水平な場所で水を入れるんだ」
「はい!!」
水を入れた釜を炊飯器に入れ、蓋を閉めて、ボタンを押す。
「これであとは炊きあがるのを待つだけだ。簡単だろ?」
「そうですね。理解しました!!」
そう言う美凪に、俺はニヤリと笑う。
「じゃあ美凪。明日から米を炊く係は順番だ」
「……え!?」
「全ての家事を俺がやるのは簡単だ。だが、それではお前のためにならない。少しずつ家事を覚えてもらうぞ」
「な、なるほど……」
「それに、お前が食べたい分だけ米を炊けるんだ。嬉しいだろ?」
「それは嬉しいです!!」
とても良い笑顔でそう言う美凪。
そうだな。お前はやっぱり笑ってる方が可愛いぞ。
「よし、じゃあ米が炊けるまでの時間でスーパーに買い物に行くぞ」
「了解です!!」
俺と美凪は家の戸締りをしっかりとしてから、自転車に乗って近くにあるスーパーマーケットへと向かった。
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