打倒魔王の元魔王
@OGANAO
第1話
(1)
「フハハハ!」
嘲笑が響きわたる。
「くっ…」
私はガクッと膝をついたまま呻いた。
なんということだ。
この私にレベルドレインだと!?
魔力が抜けて霧散して消え去ってゆくのが分かった。
「魔王ともあろうお方が、色ボケするからそうなる」
嘲笑の主がまた嘲った。
「なんだ、これは?」
私はそういうのが精一杯だった。
「我が家に伝わる秘宝中の秘宝ですわ」
背後で甲高い声が聞こえた。
「魔力を残さず吸い出して空気中に還してしまうのですよ」
ずげぇグラマラスな美少女悪魔。
ミス魔族の座に何度も着いたことのある女の子だ。
てか、声の主が言うように色香に惑わされたのが悪かった。
…だって、魔王だし。
ちょっとくらい女の子とイチャついてもいいじゃん。
しかし、それが最悪の結果をもたらしたのだった。
浮かれて女の子を抱きしめた瞬間、何かを背中に貼られた。
それが魔力を奪うアーティファクトだったとは誰が予測できるかっつーの!
全魔力を奪われたら、ただの雑魚になり下がるのは目に見えている。
この二人なら、私を捻り潰すことなんぞ簡単だ。
文字通り一捻りである。
残された方法はただ一つ。
私は非常時を想定して、ある魔方陣を設置していった。
まさかホントに使う羽目になると思わなかったけどね。
「エマージェンシーコール!」
私は定められたチャントを唱える。
転送魔法。
「ぶっとべ!!!」
「何ッ?!」
「ファッ!?」
二人は驚きのため動きを止めた。
私の視界からその姿が消える。
私は空間の狭間を潜って、転送された。
*
転送先は魔族の領土から離れた人間の街にある古い廃墟だった。
何十年も前に住んでいた一家が全滅してから誰も使っていない物件だ。
一応配下のゴーストを配置して管理をさせていた。
管理事項は以下の二つ。
一つ、人を家に住み着かせない。
一つ、緊急避難先として、物資を備蓄し設置された設備を修理保全する。
ちゃんと管理しているか、ちょっと不安ではあったが、転送されてしまった今、それを心配しても仕方がない。
最悪、避難場所として使えればそれでいい。
「……」
暗闇にようやく目が慣れてきた。
暗視能力もなくなったようだ。
暗視なんて最下級の魔物ですらもっているのに。
これでは人間と大差ない。
「うぐっ…」
ちょっと涙がこみ上げてくるが、我慢だ。
「あれ?魔王様?」
驚いたような声がした。
「ちょっと見ないうちにちっちゃくなりました?」
配下のゴーストのリチャードだ。
フードを被った魔法使いのような格好をしている。
こいつの自己申告では、生前は魔法使いとのことだが、大したレベルではないようだ。
「うん、ワケありでこんなになってしまった」
私は頭を抱えてうずくまる。
角や牙、爪がなくなり、身長も縮んで、普通の人間の大人サイズになっている。
唯一違うのは肌の色だけか。
ちなみに魔族にありがちな青白い肌だ。
「魔王ともあろうお方がなんと情けない」
リチャードはどっかの王様みたいなセリフを吐く。
「どうしよう?」
私は不安に駆られて聞いてみたが、
「……え、私に聞かれても」
リチャードは困惑して目をしばたかせた。
「所持金が半分になってスタート地点に戻された気分だ」
私は半分ヤケになって愚痴る。
「なにアホなことを言ってるんですか」
リチャードはため息を一つ。
「とりあえず、のんびりでもしたらどうです?」
「……」
なんと!
魔王の私がのんびり?
「そのうち良いアイディアが浮かぶかもしれませんし」
「うー」
私は唸った。
確かに。
今現在、何をしてよいか分からない。
とりあえず追っ手が来てる訳でもないし、のんびりでもするしかない。
「…そうだな、めったにない休息でも取れたと思ってのんびりするか」
「そーそー、人生、適度に息抜きも必要ですよ」
人生終わってるヤツが何か言ってるようだが。
*
することがないので、とりあえず拠点となる廃墟の設備、備蓄を点検。
ワイン、干肉、塩、ドライフルーツなどの保存食料は残っている。
調理器具、衛生器具、寝具などもある。
あと必要なのは、きれいな水くらいかな?
しばらくは隠れ棲むのが適切な対応だろうから、外を出歩かない方がいいだろう。
……ワインと干肉とかで酒盛りでもして憂さ晴らしするか。
「ワインの霊気を吸うと…?」
「うえっ…なんじゃこの薄っぺらい味は!?」
「御霊前に備えられたお酒とかが美味しくなくなるのは幽霊が霊気を吸うからです」
リチャードが持ち前の特技を披露していた。
なんにも面白いことがないから、こんなことでもして暇潰しをするしかないのだね、うん。
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