第3話 お勉強タイム
あれから数年の時間が流れた。
六歳くらいに成長した俺は、毎日訓練漬けの生活を送っている。
相手はもっぱらユノかラージュだ。
どちらも規格外の強さを持っており、先生としても高い技量を持っていた。
ユノは回避術を、ラージュは戦闘術を俺に教えてくれた。総合的な体力づくりはベルベットが教えてくれている。それ以外の座学はメリルとアクラが担当していた。
訓練中は皆本気で相手をしてくれるが、油断すると致命傷に至るような攻撃が飛んでくるスパルタ教育だ。基本的に攻撃を受けるといろんな意味で死ぬのでユノの回避術が役に立つ。対象の周りにある気のようなモノを読んで、攻撃を躱す。
慣れてくれば何となく把握できるようになるらしいのだが今の俺にはさっぱりだ。
俺にあてがわれたのは練習用の木の小剣だ。正直言えば、もっと主人公主人公している武器が良かったが、身体的な問題もあるし仕方ないかもしれない。
攻撃術では今まで訓練場の端で見ていたように組手をしたり、武器を振ったり、組んで戦闘演習を行っている。
ラージュの動きは正確だが柔軟でもあり、様々な行動に対応している。ラージュは双剣を主に使うのだが、俺と訓練するときはいろいろな武器を使って俺の相手をする。
これらは自身が強くなっている感じがして楽しい。勿論訓練自体は地獄なのだが。
ランニングやらの運動はベルベットの担当だ。ベルベットは通常時、俺にはなぜか異様に甘いのだが訓練となれば話は別で鬼教官となる。
ランニング中に足を止めれば訓練内容が倍増するし、休むこともほぼ許されない。
弱音を見せれば怒鳴られるわ叩かれるわで泣きたくなってくる。
それでも、明らかに身体能力は向上しているのでいいかなとは思う。
勉強面では最近分かった事はいくつかあって、勉強の際にメリルとアクラから結構な量の情報量を流し込まれているが、不思議とこの体は物覚えも良く、一度覚えたことは早々に忘れるようなことはない。
この世界はどうやら『アルステラ』と呼ばれているらしく、五つの大陸からなる。
自分たちツヴァルヘイグ猟兵団が拠点としている東の大陸『ゴースティア』
魔族と呼ばれる存在がいるらしい西の大陸『エンデ』
ティア王国がある肥沃の南東の大陸『マンデット』
雪降る北の果ての大陸『フランメル』
そして中央にあって帝国と呼ばれている国がある『ガストリア』
世界はこの大陸群からなるらしい。それぞれに特徴があって、教えてもらっている分には楽しかった。何より異世界感があるのが最高に良い。
ツヴァルヘイグ猟兵団は基本的に依頼があればどこにでも行くようで、俺ももう少し成長したら少年兵としてマンデットに連れて行ってもらえそうだ。
そして魔物の存在である。
この世界の定義では魔物と呼ばれるのは、人類種に害をなすモノ共の総称で、人間もそこに含まれるらしい。いや、正確に言えば人間は魔王という扱いを受けるようだ。
魔王や魔物は世界中にいて、ツヴァルヘイグ猟兵団はそれらを専門に狩るのが仕事である。中央省と呼ばれている管理ギルドから依頼が来たり、村や町から依頼が届き、ソレを執行するのがいつものパターンである。
ではこの世界に魔法があるのかと言われれば、あるようだ。やったぜ。ここは正直に言えば嬉しい。
が、残念なことに俺には魔法を扱う才能がほとんどない様で、低級強化魔法しか使えない。魔法にはマナという空気中に無数にある透明な魔力源を体内で循環させる必要があるのだが、俺はどうやら体内のマナ循環がやさしく言えば下手くそで、悪く言えば才能がない、能無しらしい。悲しみ。
だが安心してほしい。俺が所属するツヴァルヘイグ猟兵団は殆ど魔法が使えない者ばかりなのだ。逆を言えば、魔法が使えないが魔法という存在を忘却するほど強い者たちばかりだという事だ。
ツヴァルヘイグ猟兵団には魔法使いはいない。治療は専ら普通の医療に頼っている。
ユノによれば昔は回復専門の魔法使いが居たようだが。が、ある時を境に猟兵団から抜けたらしい。会ってみたかったし魔法について詳しく聞きたかったが残念だが仕方ない。
因みに俺が使える低級強化魔法は現在、『ロー・ブースト』だけである。
瞬間的に自身の力を強化するだけの魔法だ。
何度も唱えれれるわけではない。連続で二、三度使うと息切れして眩暈が起こる。これはやはり俺のマナ循環が悪いらしい。
しかし悪い事ばかりではない。通常は詠唱を行わないと魔法という奴は発動しないのだが、俺の場合は頭の中でスイッチを入れる感覚だけで発動できるのだ。なぜかは分からないが。これは相当にでかい事だと思う。
戦闘中にいちいち詠唱を唱えることなくいきなり相手に魔法の力をぶつけられるのは優位性もあると思う。まあ、ラージュとの訓練中に試しに使ってみた結果は最悪だったが。怒られるわ、眩暈はひどいわで散々だった。
そんなこんなで毎日を過ごす俺は、異世界もそこまで悪くないんじゃないかと思っていた。
あの日までは。
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