成長の早さ~留学と爆弾発言~




 子等が全員七歳になった時、聞かれた。

「「「「父様、どうして僕(私)達の誕生日はバラバラなの?」」」」

 そう来たかーと思いつつなんと答えようか悩んだ。

「ブルーナ、アルフィオ、ディアナ、デミトリオ。お前達がお前達の親の中で育ち始めたのは一緒だが──」

「生まれてくるときが見事別々だったのだ、何故かな」

「エドガルド叔父様どうして」

 悩む私の代わりにエドガルドが説明してくれた。

「ブルーナは早く外に出たいとでも思ったのだろう、アルフィオも、ディアナとデミトリオはのんびりお腹の中にいたいと思ったが、ディアナはお腹をすかせてでてきたんだろう」

「僕は?」

「お前は育ちがゆっくりだったからな、だからお腹の中に他の子より居たかったのだろう」

 てきとうに、それでいてなんとなく納得できるように嘘を交えて話していた。

「僕小さかったって母様いってました」

「だろう?」

「私はカルミネ父様に『お前は寝て育つ子だった』って言われました」

「僕はお外が見たかったのかな?」

「私は、早く父様と母様に会いたかったのかしら?」

 それぞれいろんな意見を出し合う。

「まぁ、実際何故そうだったのかはいずれわかる。それまではそう思っているといい」

「「「「はい、エドガルド叔父様!」」」」

 そう言ってぱたぱたと勉強をする為に自室に戻っていく子どもらを見て、エドガルドに私は言った。

「エドガルド、有り難う」

「いや、何。お前は真面目に考えすぎる所があるからな、これくらいがちょうどいいだろう」

「まさか、エドガルドにまでそう言われるとは思いませんでしたよ」

 と言えば、エドガルドは笑った。

「私も真面目だが、お前ほどではないよ」


──そうかなー?──

──私結構不真面目だと思うんだけども──


『不真面目な輩は今ので悩まんわ』

──げ、神様──

『げ、とはなんだ』


 神様が突如降臨した事にびっくりした。


『まぁ、子等が事実を知るのは数年後だ。それとそのうち子等が自信の生みの親に何故お前と結婚したか問うてくるぞ』

──げ、それで軽蔑されたら死ねる──

『死ぬな死ぬな、軽蔑されんが、ただまぁ、お父様どうしてそんなに奥手だったの? とは言われるな』

──奥手言うか、神様が手を出すな言ってたからですよ!──

『お前がスパダリじゃないからな』

──うがー!──

『まぁ、子育てを頑張ってるお前を応援しているよ』

──とってつけたように言ってー!──



 神様がいなくなり、戻ると私は息を吐き出した。

「どうしたのだダンテ?」

「いえ……ちょっと思ったのです、初めての子達の中に証を持つ子は生まれませんでした」

「……確かにな」

「ええ、それはつまり──」


「伴侶達に妊娠をし、子を産んで貰う必要があるという事です」


「……何で今回は証が持ちが生まれなかったのだろうな?」

 エドガルドの言葉に頷く。

「四人いるから一人位証持ちがいてもいいと思うのですが……まぁそれは仕方ない」

「後、稀に証持ちの子を産んだ事で伴侶達の仲に軋轢が生まれるとか聞くのでそれも怖いです」

「ダンテ安心しろ、あの四人に限ってない」

「そう、ですよね」

「まぁ、ともかく今は今の育児に慎重に居よう」

「はい、そうですねエドガルド」

「ダンテ」

「はい?」

 名前を呼ばれて振り返ればキスをされた。

 触れるだけのキスをするとエドガルドはくすりと笑って立ち去った。


──ま、魔性の男~~!!──


 年々精神的に逞しくなりつつあるエドガルドがこういう行動を取るのは心臓に悪いと思いながら、私は自分のやるべきことをやることにした。


 子ども達が側に居ない間は、公務に私も参加することになり、父上達とあーだこーだと論じ合ったり、視察に行ったりと仕事が増えた。


 それでも子育てを優先することには変わりなかった。


「ブルーナ、アルフィオ、ディアナ、デミトリオ、お休みなさい」

「「「「お休みなさい、お父様」」」」

 そう言って皆が寝付くのを見守ってから伴侶達と話し合い、そして眠るのだ。

「ブルーナが、エドガルドみたいな人を見つけて結婚すると言ってるが、ハードルが高くないか?」

「……確かに高そうだな」

「アルフィオはそういう話を全然せんな」

「ディアナもだ」

「デミトリオは……僕みたいな人を見つけて結婚すると言ってますが……」

「……それはそれでハードルが高いな」

「あうう……」

「エドガルドはともかく、エリアのような境遇が見つかったらまた国家問題起きるからな」

「そうですね……」

 エリアが暗い表情をしている。

 いくら何年も前のこととはいえ、「家族」に暴力を振るわれ、知らぬ男に陵辱されてきた過去は消えないのだ。

「エリア、大丈夫ですよ。貴方のように心優しい方と一緒になりたいと来ますから」

「ぼ、僕は心が優しくは……だ、ダンテ様がお優しいです……」

 エリアが気弱な声で言うと、周囲からため息が。

「エリア、お前は相当優しい人間だぞ」

「びっくりするほどお人好しだぞ」

「ダンテと変わらんぞ」

「そういう訳だ、お前は優しい子だよエリア」

 エドガルドがそう言ってエリアを撫でる。

 エリアは目から大粒の涙をこぼして泣き出した。

 私はエリアを抱きしめて背中をさする。

「エリア、大丈夫ですよ、貴方は優しい。そして貴方との子も優しい子に育っている」

 陳腐な言葉かもしれないけど、本当の事を言いたかった。





 子らがすくすくと成長して、18歳になった。

 つまり、留学の時期が訪れたのである。

「ブルーナ、忘れ物は」

「お母様、心配性ね。ブリジッタとファビオがいるから大丈夫よ」

「何かあったらすぐ連絡しなさい」

「ええ、分かっているわ」

 一時の別れの挨拶を済ませて、幻馬の馬車に乗り込むブルーナ。


「アルフィオ、ブルーナが暴走しそうになったらファビオと共に止めるんだぞ」

「分かっております、アルバート父様」


「ディアナ、向こうではあまりふらふらするんじゃないぞ」

「はい、カルミネお父様」


 同じように別れの挨拶を済ませて幻馬に乗り込むアルフィオとディアナ。


「母上……」

「デミトリオ、体に気をつけて。カリオとファビオの言うことをよくきくんだよ?」

「はい、母上。母上もお体にお気をつけて」


 デミトリオも馬車に乗る。


「ファビオ、息子よ。ダンテ殿下のご子息、ご息女の安全はお前の腕にかかっている、肝に銘じよ」

「はい、父上!」

 凜々しいフィレンツォそっくりの男性──実はフィレンツォの息子さん。

 息子さんが、まとめ役としてカリオさんとブリジッタさんと共に留学についていくのだ。


──責任重大だなぁ──





『んなこといっても、こやつも既に成人済みの子持ちの親だぞ』

──マジですか──

『フィレンツォがお前にべったり付き添いできたのも、子が全員成人済みだったからだ。こやつも同じだ』

──年齢不詳ばかりで怖い──

『今更よな』


 からから笑う神様がちょっと憎たらしい。





「皆、気をつけて。良い学園生活を!」

「「「「はい、行ってきます、お父様(父上)!!」」」」



 出発する皆を見送り、私達は少し涙ぐむ。


「ダンテ様、お話がございます」

 フィレンツォが沈痛なおももちで話しかけてきた。

「何だまさか、父上が退位するとごねて?」

「その通りでございます、ですので延期する為に──」


「再び子作りの方をお願いしたく」


 顎が外れそうになった。






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