妊娠とエドガルド
一人、手ぶらで帰るのも何だと思い皆が飲めるノンカフェイン──基ホットミルクを持って行こうと厨房に向かうと、三名ほどの若い侍女が近寄ってきた。
「ダンテ殿下」
「何でしょう?」
「伴侶の方々が妊娠し、たまっているのではないのですか?」
下世話発言に、内心おげぇとなりかけたが、表面上微笑む。
「宜しければ私共がお相手を──」
「私に伴侶を裏切る行為をしろと言うのですか?」
笑ってない笑顔で言うと、侍女達はひっと悲鳴を上げて逃げていった。
「フィレンツォ、いるのだろう?」
「はい、ここに」
私と同じように、私の伴侶達への飲み物か何かを撮りに来ていたフィレンツォが姿を現した。
「荷物は私が持って行く、お前はあの三人の侍女の素性を調べて適宜処罰を」
「かしこまりました、ダンテ様」
私はフィレンツォから荷物を受け取り、部屋へ戻る。
フィレンツォは先ほどの侍女達の後をつけて素性を洗い出して処分、もしくは処罰するはずだ。
「皆さん、お待たせしました」
「あの……フィレンツォさんは?」
「ちょっと用事を頼みまして」
エリアの質問に答えると、皆の分のホットミルクをいれてやり、カップを渡す。
ちびちびと飲む姿は可愛らしかった。
「妊娠すると本当きついな……」
「だな……」
「はい……」
「全くだ……」
「皆さん、本当にすみません」
思わず謝ってしまう。
「す、すまないダンテ、お前を責めてるつもりじゃないんだ」
「は、はい。ダンテ様を責めてるつもりはありません……」
「ああ、私もそうだ。ダンテを責めてるつもりはない」
「俺もそうだぜ、妊娠のつわりとかそれらがきついって愚痴ってるだけ」
「皆様をそうさせたのは私でございます」
土下座して謝りたい気分だった。
「アルバート、お前は一言二言余計なのだ」
「アルバートさん……」
「アルバート……」
「わ、悪かったよ俺が」
皆に咎められるように見られて、アルバートは居心地悪そうだった。
「皆さん、アルバートを責めないで下さい」
「だったらダンテ、お前も自分自身を責めるな」
カルミネの言葉に、うーんと悩んでから頷いた。
「ならいい」
「ダンテ様は、今何をしたいですか?」
「貴方達の側にいたい、エドガルドの負担を減らしたい、ですね……」
「エドガルド様……」
「エドガルドは私等伴侶と違って、比翼副王だから、孕めないからその分仕事をするって行って聞かないのだ」
クレメンテの言葉を私は重々理解している。
「だからダンテ、お前から言ってくれ」
「私から、ですか?」
「ああ、お前からならなんとかなるだろう」
カルミネの言葉に少し悩む。
「……分かりました、私ができることなら、やりましょう」
「そうか、助かる」
「では、片付けるついでにいってきますね」
空になったカップを受け取り、厨房によって返すとエドガルドの所に行った。
エドガルドは相変わらず仕事に熱心だった。
「エドガルド」
「ダンテか、すまん、今は急がし──」
最後まで言う前に唇にキスをした。
歯列をなぞり舌を絡めさせ、腰砕けにさせる。
「なななな、何をする!」
エドガルドは顔を真っ赤にして講義してきた。
「エドガルド、エリアやクレメンテ、アルバートにカルミネの皆さんが貴方の仕事中毒を心配していましたよ」
「……身ごもっている全員ではないか」
「エドガルド、貴方はやはり──」
「孕みたくてたまらないのですね」
そう言うと、エドガルドうつむいては唇を噛み、そして頷いた。
「私だって、お前の子を孕みたい、だが孕めぬのだ」
「エドガルド……」
「だから仕事に没頭して忘れるしか無いのだ、そうでなければ嫉妬してしまいそうで──」
再び唇を塞ぎ、魔術で部屋の鍵をかける。
「エドガルド、これから貴方を抱きます」
「なっ?!」
「謝罪は後で皆に私がします」
「──孕めないというだけで、貴方を愛さない訳がないでしょう?」
ベッドに押し倒した。
そこから腹が膨れる程注いで、抱くのをやめた。
幸せそうに眠るエドガルドの後処理をして、毛布を掛けて部屋を後にし、公式伴侶組がいる部屋にいって土下座をした。
「すみません、みなさん、エドガルドを抱きました」
「やっぱりか」
「手っ取り早いからな」
「エドガルド様大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫だろ、今頃夢見心地だろうさ」
土下座をしたまま手を上げて私は言う。
「妊娠の症状に苦しんでいる皆様に非常に失礼なのですが、たまにエドガルドを抱いてもよいでしょうか?」
「いいですよ」
「は、はい、大丈夫です」
「いや、ここで抱かなかったら男じゃねぇだろ」
「アルバート、それは関係ない」
カルミネがアルバートの頭を軽く叩いた。
「エドガルドは私達伴侶の中で唯一孕めないのだ、それくらいして当然だろう」
その言葉にほっとする。
「だから、ちゃんと顔を上げてくれダンテ。お前は悪いことをした訳では無いのだから」
「カルミネ……」
顔を上げるとカルミネは微笑んでいた。
「お前がエドガルドを抱くのはいい、だが他の連中は抱くなよ」
「抱きませんよ!」
「分かってていってるからな」
「もう」
カルミネの発言にどういうことか分かりかねている三人に、カルミネが説明をした。
「先ほどフィレンツォが来てな、新入りの侍女達がダンテの性欲解消を務めようと言い出してダンテが追い払ったそうだ」
「私そんなに性欲マシマシなヒトに見えます?」
「伴侶四人を同時に孕ませたから、そう見えるかもな」
「あじゃぱ」
カルミネの言葉に床に突っ伏す。
「だ、大丈夫ですよ、ダンテ様。ぼ、僕、達は、ダンテ様のこと、よく、わかって、ますから」
「ああ、エリアの言う通りだ、私達はお前の事を分かっている」
「そうそう、情けない所も含めてな」
「アルバート、お前は一言多い!」
カルミネはどこからかハリセンを取り出してアルバートの頭を叩いた。
スパンといい音がする。
「アルバートさん、ダンテ様に恨みでも……」
「ねーよ! いや、ねーからエリアその怯えた目で俺を見ないで罪悪感が半端ない!!」
アルバート、エリアの怯えた目線に罪悪感を感じている。
まぁ、エリアの怯えた目線ほど罪悪感を感じるものは確かにない。
出自が出自なだけに。
「失礼します……おや、ダンテ様。いらっしゃったのですね……何故正座を」
フィレンツォが皆の食事をカートに乗せて入ってきた。
「ちょっと色々ありましてね」
「ああ、エドガルド様ですね、分かりました」
──何で分かるんだこやつ──
とか思いながらも、フィレンツォは皆が食べられる食事を適宜渡して、様子を見ているのはありがたい。
「ダンテ様、先ほどはありがとうございます。おかげで陛下も元の執務に戻られました」
「そうですか、よかったです」
「お妃様からも『ありがとうダンテ』との事です」
「息子として当然のことをしたまでですからね」
私はそう言った。
「あと、リディア様が執務の補助を担当されるようになりました。忙しいこの時期、お妃様の補助が少ない分、リディア様が担当されるとのことです」
「エドガルドも、でしょう?」
「その通りです」
「でも、エドガルドには無理はさせないでくださいね」
「勿論です」
私は自分でお茶を入れて飲み干した。
「ところで、妊娠期間はどれくらいなんでしょうか?」
「十月十日が基本ですが、母胎の魔力素質によって早く生まれたり、遅く生まれたりします」
「なるほど……」
「じゃ、じゃあ僕が一番最後に、なりそうですね……」
エリアが不安げに言った。
「エリア、大丈夫です。貴方が最後でも、ちゃんと側にいますから。私は皆様の側に」
そう言うとエリアは安心したようにふにゃりと笑った。
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