とんでもない祖母と父
「おばあ様……と伴侶の御方ですね。初めまして孫のダンテです」
私はそうやって挨拶をした。
気楽に挨拶をしていいと言われたので、割と気楽に。
祖母の隣には、頭から真っ白な布で全身を隠している人物がいたが、多分その方が伴侶なのだろう。
「紹介しよう、私の伴侶のロンディネだ」
「初めまして、ダンテ。私はロンディネ。リディアの伴侶をしています」
男とも女ともつかない声でその人物は喋った。
「父上から、祖母と伴侶は父に王座を譲ってからこちらに一回も姿を見せなかったと言われましたので、お会いできて光栄です」
「まぁ、ジェラルドにロンディネは甘すぎるから、あえて会いに行かなかったんだ」
「だって、貴方の可愛い子ですよ?」
「お前の子でもあるだろう」
「そうですが……」
呆れたように言っている、祖母と、何か言いたげな雰囲気の祖母の伴侶。
一体何があるんだろうかなとか思ったりする。
「――私の可愛い孫、ダンテ。貴方に聞きたい」
「何でしょうか?」
「私の姿を不可思議とか、変だと思いますか?」
その質問に私は即座に首を振る。
「いいえ、全く。それが祖母の伴侶である貴方の姿なのでしょう? 別におかしいとか思いませんよ」
「……うん、貴方になら見せても大丈夫だろう」
「はい」
祖母の伴侶のロンディネは、そう言って白い布を外した。
するとそこには真っ白な髪に赤い目、白い肌の中性的な顔立ちの人物が現れた。
「……アルビノですか?」
「ええ、アルビノです。でもそれが理由で姿を隠しているわけじゃないんです」
「え?」
アルビノは日光の影響を確かもろに受ける。
でもそれが理由じゃないなら何なんだろうと頭をひねる。
「聞いて驚け、ロンディネは美しすぎると言われていた。結果、多くの貴族が娶りたい、婿にしたいと贈り物を送る様になり、それが怖くなってコイツは姿を隠すようになったんだ」
「つまり……美しすぎて人気者であるのが怖くて姿を隠すように?」
「その通りだ」
予想外の言葉に、私は困ったように笑うしかなかった。
祖母は呆れたように言うし。
「あの、ちなみに今でも姿を隠している理由は?」
「美しすぎて、目を離すとすぐに口説かれるからだ。私に喧嘩売ってるのか若造共は」
「おばあ様、のろけが隠し切れない程溢れてますよ?」
「ん? そうか、そうなのか?」
「はい、今のはのろけですだって――」
顔を赤くした祖母の伴侶は、祖母の言葉に布を被って再び顔を隠してしまった。
「おばあ様、ロンディネ様がお顔を隠しになるのはおばあ様ののろけが原因では?」
「そんなことが――……あるかもしれないな」
今更ながら納得したような物言いだった。
何だかんだで、伴侶ぞっこんなのは父も祖母も変わらないという事だろう。
――……私も二人に似ているんだろうか?――
「そういうお前はどうなんだ、ダンテ。伴侶を四人に、比翼副王を一人と。いやお前にとっては伴侶は五人か。そこの所どうなんだ?」
「どうなんだと聞かれましても、皆大切なので、自分の悪口ならともかく皆の悪口を言われたりなんかしたら……」
「したら?」
「自尊心ぼろぼろにしてやりたくなります」
「……割と過激派だな、顔に似合わず」
――余計なお世話です!!――
お茶を口にしながらそんなことを思う。
決して口には出さないし、表情にも出さない。
「ははは……じゃなきゃ、入学時にエドガルドの事を悪く言った彼を叩きのめしてませんよ」
「ああ、聞いたぞ。しかしそれだけで終わらせるあたりが生ぬるいな」
「ご両親と婚約者の方がまともだったので、それだけで良しにしました」
「そうじゃなかったら?」
「多分全員潰してましたかと」
「……やはり顔に似合わず過激派だな、私とジェラルドに似たな」
「父上とおばあ様に?」
私の言葉に祖母はにやりと笑った。
「ジェラルドは、アデーレを自分の婚約者と分かった上で近づいてきた輩を男女関係なく叩きのめしたから、アデーレがそうしないように釘を刺したからな。だが、三桁くらいかなぶちのめしたのは」
「……父上」
思わず遠い目をする。
「リディア様、貴方も相当酷かったですよ。私に近づく輩男女関係なく呪ったじゃないですか……」
「ああ、あれやりすぎて学長に呼び出されたし、父上達にも叱られたな」
「おばあ様……ん、父上、達? おばあ様の――」
「ああ、私の父の伴侶は男だったからな。ちなみに孕んだのは伴侶の方だ」
「あー……」
「産んだ方の父上はがん泣きされた『やっていいことと悪い事は教えたのに!』とな」
「……ちなみに何人呪ったんですか?」
「教職生徒、住民含めて四桁」
「ぶふっ?!」
飲んでいたお茶を噴き出す。
「父上より質が悪いじゃないですか……」
「仕方ないだろう、嫌がるロンディナに触るもんだから……」
「もっとやりようがあるでしょう……『客人』にするとか」
「……今考えればその手があったんだが、当時の私は若い上青くてな、ロンディナに婚約を申し込むのすらできんかった」
「え、つまりロンディナ様、貴方がおばあ様に?」
「はい、リディア様のご両親から『君がもしリディアが好きなら君から告白して欲しい、あの子はどうやら自分から告白する勇気がないようだ、ああいう事をしてるのに』と」
「おばあ様……」
父も父でエピソードは相当だったが、祖母はそれを上回るエピソードの持ち主だったことを私は知る。
「お前の方も相当だったと聞くが?」
「ああ、まぁ、そうです、ね……」
問われてそう答えるしかなかった。
――しゃーねーじゃん!!――
――神様にそう誘導されてたの気づいたの、その時だもん!!――
『仕方なかろう、お前はスパダリじゃないんだから』
――ちくせう!!――
神様に文句を言うが事実なので言い返せない。
「ダンテ様は、大切すぎて一歩踏み出せない御方でしたから」
「大切すぎて?」
「ええ、皆が大切だからこそ、自分みたいな輩よりも良い方がいるのでは? となり、自分からは踏み出せなかったようです」
フィレンツォが私の性格的な理由でもっともらしく理由を述べてくれた。
実際はちょっと違うけども。
「……何か私よりも真っ当な理由で腹が立つな」
「そこで腹を立てないでくださいおばあ様」
呪われるのは心底御免なので、そう言う。
「まぁ、それはそれとして。フィレンツォ、お前まだ渡してないのか?」
「……」
「フィレンツォ?」
フィレンツォははぁ、とため息をついて懐から手紙を数枚取り出しました。
各国の王族の印璽がされたものを。
「……ダンテ様が落ち着いてから渡してくれと言われたので、色々ありましたのでゆっくりしていただきたかったのですが……」
「む、そうだったのか。すまない」
「あの、それ開けたら何かヤバい事になるとかないですよね?」
「それはないですが……一応読んでみてください」
私は不安になりながら、封を切って手紙を読み始めた。
内容は何処も一緒。
簡潔に言えば――
『新婚旅行、是非我が国にお越しください!!』
というものだった。
「そう言えば、新婚でしたね……」
「「「ダンテ(様)?!」」」
エドガルドとクレメンテが怒ったようにいい、エリアが泣きそうな声で言う。
「落ち着こう、三人とも」
「ダンテは『学生時代にもう結婚してるような感じだった』から新婚と言われてそういえばとなってるんだ」
「申し訳ございません言葉が足らず……」
アルバートとカルミネが私の言葉足らずを補足してくれた。
「新婚旅行……ですか……」
私は憂鬱なため息を吐く。
「どうしたんだ、そんなに憂鬱そうに」
「いえ、何か厄介ごとに巻き込まれそうな予感がひしひしと……」
「「「「「あー……」」」」」
『確実に巻き込まれるな』
――やっぱりー?!――
――いきたくなーい!!――
私は神様からの予告に心から叫んだ。
――厄介ごとはもうこりごりだ!!――
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