五章 気ままな猫の■セカイ転イ

第48話 三澄透の空白

 三澄透は仕事が終わり自宅に帰ると、手に持った紙袋を部屋に置いてあるゲーム機の隣にそっと置いた。


 中に入っているのは、白玉あんみつスペシャルホイップ。


 あの後、ルカが咥えていた小さな紙に見覚えがあった俺は、部屋の中から似たものを探した。あれはクリスマスに配られていたチラシの一部だった。そのチラシを見せた途端、ルカが何かを訴えるように鳴き始めた。テトまで一緒になり一日中鳴き、その日は大変だった。


 俺の顔とチラシを交互に見ては鳴き続けるため、試しにチラシに書かれていた白玉あんみつを買ってみると二匹が鳴くのをやめた。食べようとするとルカに怒られ、食べられなくなり捨てるとルカが再び鳴く。でも、買って帰ると大人しくなる。


 置く場所にもこだわりがあるようで、俺とアーミャが冒険していたゲーム機の隣がいいらしい。ルカは何かを待つように毎日飽きもせずゲーム機の傍から離れなかった。まるでマタタビをかけたおもちゃにしがみつく時のようにずっと。


 それは、毎日のように続いた。


 猫は何もない場所をジッと見つめている時がある。猫は嗅覚や聴覚が鋭いため、見つめる先に何かがあるのかもしれない。だが、一説によると幽霊を見ているという噂もある。本人…もとい本猫にしか真相はわからない。ルカには何かが見えているのかもしれない。


 今は寒い季節だからいいが、暑くなると匂いが気になる。スイーツの甘い匂いを部屋の中に充満させて寝るのは正直辛い。まあ、いつかルカも飽きるだろう。


 それ以外の変化はというと、俺が弟のように思っていたゲーム機が完全に動かなくなった。つまりはアーミャが動き回っていた世界は消えた。電源プラグを差しているがゲーム機の電源がつかない。ずっとテレビに繋げているが、もう何も表示されない。


 それから時が過ぎた。


 ゲームが終わっても現実は止まることなく動いている。そんなの当たり前だ。ゲームは所詮遊びで、遊びが終われば子供だって家に帰る。どんなにいい夢を見ていても、目が覚めると夢は終わってしまう。


 遊び終わっただけ。


 ゲームが壊れただけ。


 変な夢を見ていただけ。


 俺だってそう思いたいが…


 気持ちはまだ、整理できない。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【マタタビ】


 マタタビ科マタタビ属の植物。別名、夏梅。


 猫が匂いを嗅ぐとふにゃふにゃする。顔や頭を擦りつけゴロゴロと転がる。普段あまり動かない猫もよく動くようになるため、ストレス解消になる。食欲増進効果もあるが、ご飯にふりかけるのは食用として販売されているマタタビにしよう。


 ちなみに、マタタビよりも効果は薄いがキャットニップにも同様の効果がある。日本ではイヌハッカ、西洋マタタビと呼ばれるハーブの一種。なぜ猫が喜ぶのに「イヌ」ハッカなのかというと、「何の役にも立たない→要らぬ→いぬ」から名付けたらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る