第7話

「えいみゃっ!」


 新品の緑のローブに見を包み、気合を入れて放った矢は、スカッという音が聞えそうなほど関係ない場所に飛んでいった。


 アーミャの攻撃が終わると、今度は自分の番だと言わんばかりに、ドタドタとモンスターが近づく。


「もう! みゃんであたらみゃいのおおお!」


 自分が攻撃をしたら次は相手のターンになる。


 それが、この世界のルールだ。


 なぜ敵と戦っているのかといえば理由は簡単。宿で泊まったら次の町に行くためのお金が足りなくなったから。


 お金は使えば無くなるもの。


 これはどこの世界でも一緒である。


 それ以前に手持ちの所持金では次の町行きの乗り合い馬車に乗れなかった。なので、アーミャは駆け出し冒険者らしくクエストを受けることにしたのだった。


 受けるといっても常駐依頼は討伐対象を倒すだけでいい。ここははじまりの町だから、弱い魔物の討伐がほとんどだ。今挑戦しているポータン討伐もそのひとつ。


 幸い、ボクには弓がある。弓は得意武器だ。冒険者登録をした時に貰えた初心者用の弓だけど、ボクの腕があればすぐに終わるだろう。


 クエストに行く前のボクは、散歩に行くような、なんならピクニックに出かける気分で町を出た。


 そして、草原で呑気に草を食べているポータンを見つけて攻撃をした。


 その結果が、これだ。


「こ、みゃ、い、でえええええ!」


 ボクは今、食事を邪魔されて怒り心頭のポータンから全力で逃げている。ピンと立っている栗色の猫耳をなびかせて必死に走る。


 ポータンは遠距離攻撃をすれば簡単に倒せる草食系の豚モンスター。


 名前の由来はポークと満タン。ポータンはHPが満タン状態だと素早さが高くて強い攻撃をしてくる。


 でも、HPが減ると素早さが下がる。


 攻撃力や攻撃間隔も下がっていく。


 毎ターンだった攻撃が二ターンに一回になり、三ターンに一回に…四ターン、五ターン、そして瀕死になる頃には攻撃をしてこなくなる。


 つまり、先制攻撃を当てれば楽して勝てる相手なのだ。


 楽して勝てる、はずだったのに…


 そんなポータンに矢が一本も当たらなかった。こんなに足が早かったなんて知らなかった。豚を侮ってはいけない。


 豚とは足が速い生き物なのだ。


 隙を見ては振り向いて矢を放つけど、明後日の方向に飛んでいき距離を縮められていく。ボクはただひたすらに逃げた。数分、数十分間、もしかしたら数時間くらい逃げ回った。


 そして…


「はあ、はあ。逃げ勝った…みゃぁ…」


 倒れているポータンに近づくと、お腹に矢を突き刺した。倒したポータンが粒子になり、経験値が体に流れてくる。




 レベルアップ! レベル2になりました!




「やったみゃ!」


 レベルアップ音と音声がどこかから聞こえてきた。何回聞いてもレベルアップ音は嬉しい。その場でぴょんぴょんと跳ねて喜んでいると、ふと疑問が生まれた。


 これ、どこから聞こえてくるんだろう?


 周りには見渡す限り草原しかない。モンスターは居ても、人なんてひとりも居ない。今まで不思議に思わなかったのが不自然なくらいの怪奇現象だ。考えても考えても答えは見つからない。


「とりあえず、なにかわかるまでは…保留みゃ!」


 ポータンを倒したから、クエスト達成の報酬を貰うことができる。ルンルン気分で冒険者ギルドに向かった。


「クエスト達成したから確認お願いしますみゃ!」


「では、そちらで少しお待ち下さい」


 初めてソロで倒したモンスター。つまりは貰ったお金、その全てが自分の報酬になる。ポータンは弱いモンスターだから、貰えるお金は少ないけど、それでも初めてソロでクリアしたクエスト報酬は嬉しい。


 カウンター近くの椅子に座ると足をばたつかせる。嬉しさを抑えきれなくて、栗色の尻尾もゆらゆらと揺れる。ここでふと、疑問が生まれた。


 討伐したことって、どうやって分かるんだろう?


 冒険者ギルドの人は討伐した所を見ていない。モンスターは討伐するとすぐに消えてしまう。残るのは確率ドロップのドロップアイテムくらいだ。


 それなのに倒したことがわかるのはおかしい。どうやって討伐数を数えているのか、考えても考えても答えは見つからなかった。


「アーミャさん、お待たせしました」


「みゃっ!」


 椅子から飛びはねるように立ち上がる。スキップしながらカウンターへ向かった。せっかくだから、どうやって討伐数を数えているのかを聞いてみることにした。


「それでは、こちらが…」


「討伐数ってどうやって数えてるみゃ?」


「それでは、こちらがクエス…」


「冒険者が報告した数の報酬を渡してるみゃら、討伐数を誤魔化すような詐欺もあるのかみゃ?」


「それでは、こちらがクエスト報酬にな…」


「今ボクが百匹って言ったら、百匹分の報酬が貰えちゃったりするのかみゃ?」


「それでは、こちらがクエスト報酬になります」


「ご、ごめんみゃさい…」


 話している途中に聞かれて怒ったのか、終始笑顔で同じ言葉を繰り返された。顔には青筋が立っているに違いない。


 怖いものが苦手なボクは、受付嬢の顔を見るのが怖くて慌ててしゃがんでカウンターに隠れた。報酬の受け渡しが終わるのを目を閉じてただひたすら待つ。


 ちゃりんちゃりんと所持金が増えていく。


 増えていく、増えていく、増えていく。


「…みゃ? みゃみゃみゃ!?」


 それはそれは増えていく。


 目を開けると、所持金の数字がまだ増えている最中だった。所持金の増加が止まる頃には、ちょうどポータン百匹分のお金になった。


 ポータンの討伐報酬は一匹100G。


 その百倍、つまりお金が1万Gも増えていた。


「こ、こんみゃに貰っていいんですかみゃ?」


「討伐おつかれさまでした」


「ええっと…ほんとにいいんですみゃ?」


「討伐おつかれさまでした」


「あっ…はいみゃ…」


 報酬の多さに困惑しながらも、答えの返ってこない受付嬢への質問を止めた。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【ふたつの世界、ふたりのキャラ】


 主人公は猫獣人の少女・アーミャですが、この物語はふたつの世界、ふたりのキャラで展開します。ここまで読んでいると恐らく、きっと…いや、確実に先の展開が読めると思うので、もうネタバレします。


 ええ、いつか繋がりますとも。ガールとボーイがミーツして、現代日本でにゃん生活を送ります。




 ちなみに、ここまでが一章です。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

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