けもフレ短編小説保管所
コイル
ずっと一緒に
ある日、いつものように周辺をパトロールし拠点にある自分の部屋で休息をとっていた時、戸の奥からコンコンッと叩いてきた。
「入っていいよー」
そう言うと、ガチャッと音を立てて戸が開いた。
そこに立っていたのは、ドールだった。
「隊長さん。今、いいですか?」
と問いかけられた。
どこか悲しげな、冷たいような声に聞こえたのは気のせいだろうか。
「なにー?いいよー」
「あとでツリーハウスに来てください。そこで要件を言いますね」
と言った直後に部屋から出て行ってしまった。
普段、なにか要件があるとすればその場ですぐに言うはずなのに。
と思いつつ、疲れ切った体を起こした。
壁に掛けてある帽子をかぶり、身支度をパパッと済ませ部屋を出た。
疲れているのか、外に出るまでの時間が長く感じた。
外に出てみると日はもう落ちかけていた。
帰ってきたのが昼過ぎだっていうのに。
あたりがオレンジ色に輝いている。
その中でもツリーハウスが特に赤く染まっていた。
そして、ここまでの道中、フレンズの影すら見なかった。
いつもはうるさすぎるくらいに賑わっているのに。
そのせいなのか、虫の鳴き声が耳に響き渡ってきた。
ツリーハウスにかかっているはしごを伝い、ドアの前までやってきた。
どういうわけか、中に明かりは点いていなかった。
まさか、悪ふざけで、という思いも出てきてドアを開いた。
案の定、中はほとんど真っ暗だった。
ただひとつ、明かりが点いていたところがあった。
その下には…
「!?」
突然後ろから何者かによって腕を掴まれた。
その力は強く、ほどこうとしてもがっちりと掴まれていた。
「隊長さん、あそこの椅子に座って下さい」
と言われた。
なんだ、ドールか、と安心と同時に困惑が出てきた。
すると、背中に鋭利な何かが押し付けられた。
爪のようななにかを。
よく見ると、電灯の下には椅子らしきものがあった。
雰囲気的に、逆らったら殺させる、そう自然と察せた。
ゆっくり足を動かし、椅子に座った。
すると、椅子の後ろで紐のようなもので結ばれ固定された。
結び終わったと思ったら、今度は真前に立ってきた。
「な、なあドール、何がしたいんだ…?悪ふざけだとしたら笑えないぞ…?」
ドールの顔は電灯の、自分から少し距離をとっていて、よくは見えなかったが少なくとも笑ってはいなかった。
そして今気づいた。
いくら照明をつけていないとしても、窓からの光で多少なりとも明るくはならないかと。
窓の方を見つめようとした。
「隊長さん。隊長さんは私のこと、どう思います?」
いきなり話しかけられ、少しびっくりした。
「なんでいきなり…フレンズのことを思ってていい子だなと…思う…」
唐突に質問され、少し戸惑ったがなにやら嫌な予感がして答えた。
「やっぱり…隊長さんは、隊長さんですね…でも…」
だんだんとこっちに近寄ってきた。
「私にだって、"愛"を分け与えて下さいよ…?」
右足を出したその瞬間、右手に何か持っているのが見えた。
「な、なあ…何がしたいんだ…?」
まだ確定したわけではない。
だが、体中から汗が溢れ、声が震えてきた。
「だから、誰にも渡したくない…独り占めしたい…」
右手に持っているのが電灯の光に当たってこちらに光が反射してきた。
一気に冷や汗が増した。
持っていたのは、包丁だった。
「い、今から…何を…するんだ…?」
半泣きの状態で声を喉から出した。
「これから一生、愛を受けるために…体の一部になってもらうんです…」
恐怖で体が支配されていくのがわかる。
「だ、誰か?!誰かいないのかー!!」
心の奥から叫び、助けを呼んだ。
しかし、音は暗闇に消えていった。
「みなさんは、儀式の邪魔にならないように先に行かせました」
歯の奥が震え、ガタガタと音を立てている。
死へのカウントダウンが目に見えた。
「や、やめてくれ…」
「隊長さんは、人が良すぎるんです…こんな隊長を独り占めしたいんです…」
必死の命乞いも虚しく散っていった。
拘束をほどこうと暴れたが、がっちりと固定されていた。
包丁が持ち上げられ、目にしっかりと写る。
「や、やめ…」
「さようなら、隊長さん」
肉という肉を残さず全て栄養に変えていた。
体に入れられなかったものはポッケに入れていたバックへ。
残るは溢れ出てしまった、体内にあった液体の跡だけだった。
彼"だったもの"をバック越しに触りながら言った。
「これで、永遠に一緒に愛を受けれますよ…
隊長さん♡」
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