なんかヤベェ帽子野郎と旧友に再会したんだけど情報量多くね?2



 鈴の音と共にドアが乱暴に開き、1人のヒト?らしき者が入って来る。


「来てやったぞ?来てやった?はは、感謝しろよおメぇーらー、ありがたいぞ、なんでこのぼーくぅが教えなきゃなんないの。めんどくさぃ、めーんでぇ」


 腑抜けた中世的な少年の声。

 頭をすっぽりと隠してしまうほど大きな黒い帽子に灰色のボロボロワンピースを着た案内人は顔に黒いモヤモヤがかかっていて口しか見えない。普通に怖い、ホラーなんだけど。首とか手足に鈴が付いてるけどよく見たら肌にくい込んでて結構グロい。


「つかれた、かえる。かえる、かえーる、ゲロゲロ」


 ぴょんぴょんその場を跳ねて頭をフラフラ揺らすニュー案内人に私とアイさんは顔を引き攣らせた。

 背は成長期前の中学生ぐらいで私よりかは高くてめちゃくちゃ細い、ちょっと蹴っただけで折れそうなほど。布切れのようなワンピースの下からチラチラと素足が見えていてよく見れば肌全体に黒い文字がびっしり刻まれてた。

 本気でこんなホラーなやつが今日から私達の上司……なのか?本気で言ってる?歩くお化け屋敷が私達の上司とか無理なんだけどと思ったその時、ピタッと動きが止まる。


「デカい、フツウ、つまらない。チビ、フツウ、チビ、チビ助…………チビ!」

「おい何回チビ言ってくるねん」

「チビにチビって言ったらダメなの?チビだからいい、チビはチビ。チービチビ!」


 小学生レベルの煽りをかましてくる案内人に思わず殴りたくなったけどここは“オトナ”として我慢してやる。

 コイツはきっと私より年下だろ。ガキだから仕方ない、ガキだから……ガキの戯言だから気にする必要は無い、ないぞ私。落ち着け、こんなガキ相手にマジになるなんてそれこそガキだぞっ。


「あー!!嫌だーって言ったのに!んでコイツら?なんでコイツなの?嫌だってば!」


 駄々っ子のように喚き散らかし始めるガキはウサギをぽかぽか殴る。

 私達、もしかしてだけど女王サマに子供のお守りを押し付けられたんじゃないよね、面倒みろって意味で私達に預けたわけじゃないよね……。

 ウサギと違いすぎる案内人にこの先大丈夫か……と心配になって思わず頭を抱えた。


「この子たちを教えるの?嫌、嫌だな。うん、僕嫌なんだけどウサギ。チェシャ猫に押し付けてよ、付けろよ、はっ?なんで僕なの?なんでなんでー?」

「ちょっとちょっと落ち着いて!?」

「やだ!却下!無理!拒否!ノー!断る!」


 ウサギとクロを混ぜて兄貴で割った感じの暴君野郎を何故女王サマは置いてるんだろう、マジで不思議すぎる。不思議の国の住民はイカレ野郎しか居ないのか、終わってない?


「なんなんやコイツ、マジで情緒不安定すぎん?大丈夫なんそいつ」

「大丈夫なのかしらね……」


 ギャーギャー喚く案内人にアイさんと私は小さくため息をつく。

 女王サマも狂ってるしウサギも飛んでる、こいつもダメだし他の住人たちも多分同じだろうな……不思議の国の住人って狂ったやつしか居ないということがわかった。魔法少女はブラック企業の最先端(?)ということだな。


「僕嫌だから出て行っていい?いいよね、いーよね?いい!」

「だめ。これは女王サマ命令だよ、ボクの命令じゃなくて敬愛すべき女王サマのね。命令を放棄すればキミは追放されるけどいいのかい?」

「嫌だ‼すればいいんだろ‼人使いが荒いやつは嫌いだ、嫌い!僕のアリス、そうだよね‼」


 不機嫌そうにシロさんに擦り寄る帽子の男はウサギに中指を立ててから「べーだ」と幼稚に煽る。

 ってもしかしてだけどシロさんをアリスにしたのはコイツってことなのだろうか。


「えっと、女王サマの命令なら仕方ないよ」

「ちぇ。味方なーし、そーかいそーかい! はっ、僕がするよ、するさ!しないけどするよ‼分かった分かったって‼ツヨイ子しか嫌だけど、仕方ない、はぁ」


 納得した帽子野郎にウサギは「お利口さんだよ」と言って頭を撫でる。頭を撫でられた帽子野郎はムスッとした状態で静かになった、一応上下関係は理解してるらしい。


「さて、紹介するね!この子は狂った帽子屋。マッドハッターって言われる子でちょっと飛んでるけどいい子だから頼りにするといいよ。注意だけど絶対帽子を取ろうとしないでね!怒って殺すかもしれないから……」

「は!?殺す?嘘やろ!?」


 物騒な言葉に思わずデカい声が出てしまった。帽子を取るだけで怒るとか怒りの沸点低すぎんか?え、マジでヤバすぎるでしょコイツ。頭禿げてるとか?禿げ隠しの帽子だから取るなって事?


「嘘じゃないよ。あと、あんまり不機嫌なことをすると殺そうとしてくるから気を付けて!」


 帽子の下は一体どうなっているのかと気になったけど触れるのはやめておこう。好奇心でうっかり防止を取ったり捲ったりしないよう気を付けなきゃ……めんどくさいやつが増えてしまった。


「さ、自分でも自己紹介して、帽子屋!」

「僕の話きーてないでしょ、オマエ、聞いてよ、ウサギ。剥ぐぞ」


 ナイフで頭を刺そうとする帽子屋にウサギは欠伸をしながら軽い身のこなしでひょいひょいと避ける。割と本気で殺しにかかってないかそれ、当たったら死ぬでしょ。

 こんな物騒なやつが案内人だなんて……ウサギの方がまだマシだ、こっちからチェンジをかけたいんだけど。家でもご機嫌取りをしてこっちでもご機嫌取りなんてモチベが持たない!


「帽子くん、女王サマの命令だからちゃんとしないと……他のアリスのところに移動させられちゃうよ?また怖い目にあうよ?」

「ぎゃあああ!それは勘弁、拒否‼無理、絶対やだ、死ぬ!死んでやる!!アレと仲良くする!」


 どうやらシロさんの言葉はちゃんと聞くようですぐに大人しくなった。ウサギ曰く強い人には大人しく従うらしく、シロさんは帽子屋が初めて人と約束を結び、1から育てたから愛着が湧いて懐いてるらしい。

 不思議の国の住人の中で末っ子でワガママだから気をつけねと言われたけどこれの面倒を見るなんて無理だ。


「僕。マッドハッターらしい、うん帽子屋。生意気な子嫌い、この子は僕の弟子、でーし。取ったら殺してやる、殺すかも。そんな感じ、あははっ。仲良くしろ」


 ケラケラと笑いながら帽子屋はナイフをジャグリングのようにして遊び始める。


「じゃ、ちょっと飛んでるけどいい子だし面白いし仲良くしてあげてね!!」

「ちょっとどころやないやろこれ……」


 完全にイカれてる、悪い意味でイカれてる……こんなやつと仲良くできるなんて無理だろ。反発しあって事故るぞ、何考えてんだろコイツは。


「白のアリスにはアリスの時の記憶が無い、だからキミたちが先輩になって教えてあげるんだよ!ふふ、この子達と仲良くね!!」


 あの人には死んで欲しくなかったし、率直にシロさんのことは受け入れようと私は思う。この暴君野郎の帽子屋とはちょっと受け入れ難いけど。

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