魔法少女はそんなに万能じゃなかった6
「待って、待って待って待ってまって‼治すから、治すから、クソッ‼」
狂ったような叫び声を上げるクロにアイさんと近づく、クロの前には赤いナニカがあちこちに落ちていた。
嫌な予感がする、見ない方がいいと本能が警告してる。
「お、おい……クロ」
「クロくん、な、何が起こっ――アナタ、それはっ」
目を大きく開いて振り向くクロ。
「シロさんが、目の前、で。声、聞こえて、向いたら、向いたら。大丈夫っ、俺、魔力……あるから、大丈夫。治せる、治す、待って」
クロの腕の中にある、シロさんの頭部――
「なんで、なんで俺の仲間ばっか……なんで…なんでいっつも、なんでだよッ!!」
震えた声でクロはそう言ってシロさんの首を抱え込む。ゆっくりとシロさんの髪が白から黒へ変化し、服もアリスの姿から元の姿へと変化していく。
黒っぽい服に身を包んだ男の子の服装……戻ってるということはもう、シロさんは___
「そんな…こんな、こんなすぐに………」
信じられない現実に私の頭は真っ白で地面にぺたりと座り込んだ。あまりにも一瞬過ぎて、頭が追いつかない。
「シィさん、大丈夫です。すぐに、治しますから……大丈夫、大丈夫」
「クロくん、その状態じゃ治せない、アナタも分かっているでしょう?アリスは首が飛べば――」
「俺の魔法はアイさん達と違う、知ってるだろ。治せる、黙って」
不機嫌な声でそう言うとクロから冷たい冷気が放たれた。
他とは違うというのはこの冷気と関係が……今まで土の魔法を持ってると思ったけど違うらしい。錬金術的な何かの魔法があるのか?
「っ……クロくん。もう、シロくんは治らないわ!無理よ!!」
「うるさい、黙れ。まだ生きてるんだよ、頼むから喋んなっ。喋りかけんなよっ、俺が治すから帰れ‼」
気を乱したクロにそう言われ、アイさんの肩が震えてそのままアイさんは口を閉ざす。今のコイツを止められない。
私は少なからず生き返らせようとするコイツに希望を抱いている。
「腕を治す、感覚で……造形して、慌てるな、あわてるな」
散らばった肉片に黒いナニカが覆われる、それは初めてのお茶会でみたナニカととても似ていた。黒くて冷たかったあの恐ろしい物体に……。
何をするのかと黙って見ているとソレはぶくぶくと泡を立てながらゆっくりと肉片を飲み込み、赤黒い塊を形成し始めた。夢バグのような異端者のようなおぞましいバケモノを生み出している。
これは良くない、止めなければと直感で感じた。
「何をしているのアナタ!」
「治してるんですよ。ここで死ぬなんて嫌だよな、赤のアリスもそう思うだろ?なぁ」
振り返って私を鋭い眼光で睨みつけてきたクロだけど何故か、何故か一瞬だけクロの白い目が赤く見えた。
気が動転して幻覚が見えたんだろうと思ったけどクロからは異常なほどの魔力が溢れ出ているし絶対アイツがしていることはよくない事だ。
胴体ものができて、大小様々な手らしきものが無数に生まれる。
「そ、そうやけど……ソレ、は人間じゃないやろ……ただの、ただのバケモンやないの。生き返っても、そんな体じゃ……」
戦って死んだから生き返らせる、ゲームならよくある話だし魔法が使えるのなら生き返らせてまたって思うけどもし生き返って自分の体が化け物だったら。元の姿で生き返ることができなかったら、生きながら地獄を見ることになるんじゃ。
「情薄だな、お前。この体は仮。器を探せばいいだろ。お前からしたら赤の他人だもんな、聞いた俺が馬鹿だったわ。まあいいわ、すぐに治して体を――」
赤い塊が人ほどの大きさになった瞬間、塊がバラバラに飛び散った。
「おい、なにすんだよオマエッ‼」
「いい加減になさい!アナタ、自分の属性の危険性が分かってないの⁉」
「あの子みたいに俺はなんねーよ!俺に指図すんなッ‼」
その言葉にさっきの事を思い出す。
あの子とはきっと異端者の事だ、「あの子を楽に」と言っていたし親しい人……まさか空席に座っているはずのアリスだったんだろうか。
「あの子はただ耐えられなかっただけ…繊細で純粋な子だったからああなった。俺の魔法は完璧だ、完璧なんだよ!」
クロが倒すのを嫌がっていたのはこの事が理由だったのか、率直に言ってくれればよかったのにそんなにコイツは私に知られたくなかったんだな。
魔法の危険性というのはやっぱり錬金術的な魔法で合ってる……ということか?
「危険な属性って、クロの属性って何なん……?」
恐る恐るアイさんに尋ねる。
「闇属性。何らかの原因で突然人格が変わり仲間を殺してしまう可能性がある危険な属性。異端者の原因になる唯一の属性ね。ほとんどのアリスは2年足らずで死ぬ希少なアリスだってウサギが言っていたわ」
「は……?」
「アリスになってると精神が安定しない上にアリスとしての歴が長くなるにつれて確率が高くなる」
歴の長い先輩だとシロさんが言っていたが一体コイツは何年生き延びてるんだ……?そんな危険な属性が出るなんて、もし自分がその属性になっていたら……。
「1番古いって言よったけどコイツ、なんでそんな生きれたん?」
「運……と思うわね。ヒイロちゃんが来るまではこの症状が見られなかったから心配はなかったみたいだけどアナタが来たあたりから」
私がきっかけで人格がおかしくなった、ということらしいけどもしかして異端者と私を重ねた……なんてことじゃないだろうな。
異端者は人の形だった時は女の子の声をしていたし見た目も女の子っぽかったしどうなんだろうか……。
「クロくん、もう辞めなさい。いくら魔法で人間、アリスを作ることは無理よ」
「うるせぇ……黙れよ」
「何をしてもできない、蘇生できないって知ってるでしょ?」
「黙れって言ってんだろうが‼」
1本のナイフをアイさんに投げつける。
私にはクロを止めることができない、きっとアイツを止められるのは死んでしまったシロさんだけだ。一体どうすればこの場を収められるかと考えていると――
「やぁ、可愛いかわいいアリスちゃん達。何をそんなにめそめそしているのかい?」
気だるい声でそう言いながらウサギがクロの隣に現れた。この惨状を見てもウサギは顔色を変えることなく、いつものニコニコ顔で頭に響くキーキー声で喋る。
「あらら、大変なことになっているね!喧嘩はよくないよ、2人共!赤のアリスも黙ってないで止めなきゃダメでしょ?仲間なんだからさ!」
亡くなったシロさんには一切触れることなくウサギはいつもと変わらないムカつく声でぷりぷりと怒る。アリスじゃないからきっとコイツには人間としての感情がないんだろう、普通ならこの状況をみてそんな声は出せない。
「ウサギ。後で家に来い、先に帰る」
シロさんの首を抱えてそのままクロは姿を消す。
「あ、ちょ……はぁ。まあいっか。とりあえず異端者の討伐おめでとう!よく頑張ったもんだよ、偉い偉い!ということで明日はお休みにしてあげる‼ふふ、また頑張ろうねッ!お疲れ様ぁ!」
満面の笑みでパチパチと拍手をするウサギはそれだけを言うと居なくなってしまった、人が死んでいるというのによくそんなに明るくできるものだ。
「ヒイロちゃん、お茶会…行きましょうか……魔力の消費が激しかったでしょうからちゃんと回復するのよ」
「……わかりました」
散らばっているシロさんの身体にそっと手を合わせてからアイさんと一緒にお茶会に向かう。
今日、生まれて始めて人の死はとても恐ろしいと感じた。優しかったあの人は、一体どんな願いを叶えるためにアリスになったんだろうか……。
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