魔法少女少年の個性バグりすぎてハゲそうなんだけど、死ぬ6




 しばらく落ち続けると足が地面に着いた、めちゃくちゃ怖かった、もう体験したくない。移動する度毎回これを体験しなきゃいけないとかだったら死ぬんだけど。


「さ、起きて。もう目を開けても大丈夫だよっ!」


 ウサギの言葉に従い薄っすら目を開けると見知らぬ部屋だった。


「は……こ…………ここどこなん?」


 キャンプ場にあるコテージのような温かみのある部屋。赤いレンガ作りの暖炉からぱちぱちと火が燃える音が聞こえていて天井にハンモックやよく分からんオシャンティーな飾りがぶら下がっている……めちゃくちゃ映えぇってやつじゃね?

 部屋の隅に設置されたこれまたオシャンティーなバーカウンターには少年らしき人と女性……?いや、あれは男……?どっちか分からない人が座って話していた。性別不明の人は中でシャカシャカと何かを作っていて少年らしき人は椅子に座って何かを飲んでいる、酒を飲んでるわけじゃないよね?


「あ。噂をすればなんとやらじゃない!やっと来たわァ、待ってたわよおお!!」


 バーカウンターに立っている性別不明の人が急に大声を上げた、いきなり大声を上げられたもんだから体がビクッと震える。心臓に悪いから急に叫ぶのやめてもろて……しゃっくり出始めたらどうすんだよ。

 挨拶をしなければ……と思って口を開いたと同時に性別不明の人がにぃっと口元を上げ、目の前のカウンターをひょいっと軽々しく乗り越え、私に向かって猛ダッシュしてきやがった。


「ひぇつ」


 やばい、変な人に目をつけられた、マジで怖い、怖いんだけど!

 捕まる前に逃げようとした、だけど___


「ちょ、な、なん――ギャッ⁉」

「逃げなくてもいいじゃない!こんなに可愛い子なんて聞いてないんだけどぉ!!」


 青い髪を1つ結びにした女っぽい和服の人はそう言ってタックルをかまし、ぎゅーっと抱きついてきた。勢いが凄すぎる、やばい、窒息死しそう。絞め殺されるか圧死させられる、ヤバいっ。


「は、はなし……はなしてっ」

「かわイィ!!可愛いわねぇ!!後輩ちゃんがこんなに可愛い子なんて最高だわ!!」

「し、しぬっ」

「お家に連れ帰りたいけどダメよねー、はぁ残念……可愛くて食べちゃいたいんだけど!」

「ぐぇ……苦しッ」


 私のカエルを潰したかのような呻き声は聞こえていないようで更に細い腕でぎゅーっと締め付けてくる。マジで苦しすぎて全力で腕を叩けば気がついてくれた。


「あら、ごめんなさい!」


 素直に私から離れてくれて死なずにすんだけど離れたら途端、性別不明の人は顔をグイッと近づけてきて無言で頬をムニムニと触り始め___ん?まて、この人……よく見ればがしっかりついてる!?

 ということは、ということはこの人は___オネエさんということか!!


「ツルツルのお肌、くりくりおめめ……アタシのド好みっ‼ガッデム‼望ましいワッ!」


 青紫の目がキラキラと輝いて再び私に抱きついてくる。まじで、殺す気かこの人……。

 オネエさんを細かく見れば都会の女の子のようにきっちりメイクをしているけど少し男っ気が残っている。この人、私よりか女性らしいから望ましいんだけど……リアルの私の女子力と交換してくれ。

 というかこの人が仲間のアリス……なのだろうか、え、冗談抜きで本当に仲間なの?めちゃくちゃ失礼なことを思ってるってわかってるけどマジで言ってる?

 パーソナルスペースの境界線ぐいぐい踏み込んでくる人に、苦手だからちょっと……。


「オンナノコだってなんで先に教えてくれないのよウサギちゃん!もうアタシ今日メイクダメな日なのにぃぃいい!こんなに可愛い子が来るなら、うう」

「ひぇ……」

「あぁああ子猫みたいで食べたいわぁあああ!!!」


 キーキー声でオネェさんが耳元で叫ぶ、誰かこのオネエを止めてくれ、耳が死ぬ。あと地味に肩に指がくい込んでて痛い、血が出てない?血が出てるよね?めちゃくちゃくい込んでますけど大丈夫そ?


「普段どこのメイク道具使ってるのかしら?お気に入りの美容品は?おすすめのコスメってあるかしら?あ、いつもどんな風にお手入れしてるのか教えてちょうだい!!」

「い、いや……そんなものは」


 ウサギに助けを求めようと辺りを見渡したけどあのクソウサギはいつの間にかに姿を消し、頼みの綱は絶たれていた。畜生、どこ行きやがったしあのクソウサギ。私を置いて逃げるなんてクソだろクソ。

 このまま自分は玩具にされるのか、このままオネエさんに弄ばれるのかと諦めかけたその時――


「怖がってますよアイさん。もう少し離れてあげた方が……」


 我が救世主が舞い降りた。


「あ、あぁ……ごめんなさい!嬉しくってついテンションが……ほんとごめんなさいね」


 オネエさんの後ろから白髪の少年が現れ、オネエさんから私を救い出してくれる。

 助けてくれたお礼を言おうと少年の顔を見た瞬間、私は「ひっ!」とクソ失礼な声を上げてしまった。


「あっ、えっと、ご、ごめん……僕の顔に、苦手だった?」

「い、いや……す、すんません!ひ、ひとちがいでした!」


 申し訳なさそうに謝る白い少年に慌てて謝罪をする。めちゃくちゃ失礼なことをしてしまったと反省している、しているけど白い少年が昨日出会ったクロと似たような顔をしていたからマジでヒヤッとした。

 ちゃんと見たら白い少年はクロとは反対に黒のタレ目で白髪キノコヘア、服の色がクロとは真逆になっている。クロと同じ所は赤いアイライナーを引いているところだけ。もしかしたら双子か何かなのかもしれない……私的にはあっちが悪魔でこっちは天使だ。


「ほんとにごめんね、具合悪そうだけど大丈夫?」

「だ、ダイジョウブデス……」

「ごめんね、急に知らない人が寄って集って来たら怖いよね。アイさん急に近づいたらダメですよ」


 丁寧な言葉使いでオネエさんを叱る白い少年。割としっかりしているみたいでクロとは全く正反対だ。


「ご、ごめんなさい。念願の“後輩”ちゃんだったからつい舞い上がっちゃて」

「自己紹介をちゃんとしてください、今のアイさん完全に不審者ですよ……」

「そ、そうよね。アタシは青のアリス、名前は藍色からとってアイって呼ばれてるわ。名前の通り属性は水。今後ともよろしくね、


 そう言ってきらんっと効果音が付きそうなほどの眩しいキメ顔をするアイさん。


「ヒ、ヒイロ?」


 馴染みのない名前で呼ばれ頭にハテナを3つぐらい浮べる。多分今の私はとんでもない間抜け面してる気が……。


「アリスの時の貴方の名よ!アリスは現実世界での名で呼び合わないの。あまり深入りしないようにした方が身のためだからね!アナタは全体的に赤いから緋色から取ってヒイロちゃんってつけたの。どうかしら、とてもいいあだ名じゃない?」

「な、なるほど……」


 自分の名前は好きじゃないからそれはありがたい。別の名前で呼び合うのは初めてだからちょっとワクワクする。

 小さく「いいと思います」と返すとアイさんは再びハイテンションになって、再び触ろうとしてきた。咄嗟に白い少年が私の間に入って守ったけどこのオネェさん、油断のスキもねぇ……怖い。


「アイさん突然抱きつくのは恐怖でしかないからダメですってば!!」

「ご、ごめんなさぃ、つぃ……」


 もうこの人を紐か何かで繋いで置いておいた方がいいんじゃないかな……また抱きついてくる気がするんだけど。申し訳なさそうにしてるけど絶対数分後には抱きついてくるよね、絶対くるよこの人。

 ちょっと、いやかなり怖いから私はスッと白さんの近くに逃げる。何かあっても多分これで大丈夫……だと思う。


「嫌われちゃったわっ!私泣きそう、泣くわよ、泣いちゃうわっ」


 この人、ウサギと同じ匂いがする……近寄るのやめとこ、うん。


「と、とりあえず僕の自己紹介をするね!僕は白のアリス、シロって気軽に呼んでね。属性は氷、ヒイロちゃんより歳上だと思うけど気軽に接してね」


 ニコッと天使の笑みを向けるシロさん。仲間の中で恐らく1番真面な人間だ、確信が持てる。笑顔が天使だ、天使過ぎてある意味少し近寄りがたいけど私の良い人レーダーが反応しているから大丈夫。


「よろしくです……シロさん」

「うん、よろしくね」


 この人はまともな人だと信じてるぞ、信じてるからな……。

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