無限異世界転生スキルを手に入れた俺はダラダラ生きたいだけで無双とかハーレムとかは興味ないんだが?
日暮橋
第1話 初めての転生
子供のころから俺は何かに真剣になることができない奴だった。
どうせ何をがんばっても無駄だと思わせるものがこの世の中には多すぎる。
受験にも就活にも真剣になれず、行きついた先はお決まりのフリーター。
そうしてただ楽な方に流されるままに、その場しのぎで生きてきて、
迎えた30回目の誕生日。
それはもう最低の気分だった。
将来への不安は歳を重ねるごとにより大きくより鮮明になっていく。
とうとう30代ともなれば、取り返しのつかなさにも拍車がかかる。
さりとて、そんな厳しい現実を打開できるような逆転の一手なんてものはない。
いつまでも若いままではない、ずっとこのままではいられない、
それは分かっている。
だが正直なところ、ずっと今みたいに適当にダラダラと生きていたいと
俺は思っていた。
本当にどうしようもない半端者だ。
そんなことを考えながらバイト先までチャリを漕いでいたら、
いきなり側面から猛烈なスピードで乗用車が走ってきた。
―――あ、死んだ。
それはもうあっけないものだった。
それが俺の最後の瞬間。
これで何もかもが終わりになる・・・はずだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「スギタシンゴさん。」
「え?」
おかしい、意識がある。でも視界は真っ暗で何も見えない。
「俺は死んだはずじゃ?」
「はい、あなたは亡くなられました。」
不思議な声が俺の問いに答えた。
「今のあなたは肉体を失い、意識だけの存在になっています。」
「ってことは、今の俺は魂だけ?幽霊ってことか?」
「まあ、そのようなものです。」
どうやら夢を見ているというわけでもなさそうだった。
「じゃあこの声は・・・まさか神様?」
「ええ、私はあなたたち人間が生み出した神という概念でありシステムです。」
「どういうことだ?」
「平たく言えばあらゆる人間の思念のかたまりでしょうか。人間の魂の源であり、
最後には還っていく先でもあります。」
「魂の源?ダメだ、イマイチよく分からないな。」
「それを理解する必要はありません。理解すべきはあなたが今置かれている状況です。」
生前俺は幽霊も神様も信じちゃいなかったがその声の言うことは不思議と信じられた。
「俺はどうなるんだ?死後の世界ってやつがあるなら俺はどこへ行くんだ?」
「あなたは異世界に転生することになりました。」
「え?」
「理由はお教えできませんが、あなたには記憶と人格を引き継いだまま別人として
異世界で生きて頂きます。」
「マジかよ・・・。」
異世界転生モノの話は嫌いじゃないけど、正直自分がそうなると言われると
面倒くさそうで気が乗らなかった。
「嫌ですか?」
「別に嫌とかじゃないけど、ただなんか俺は異世界に行ってもどうせろくなことにはならないって気がして・・・。」
「ではこのままが良いということですか?その場合あなたは虚無に飲まれて完全に
消滅することになりますが?」
「それは・・・嫌だな。」
「では異存ありませんね?」
選択肢を与えているように見せかけて、その実選択の余地などなく
こちらの意思などお構いなしというこの感じ。
死んでも結局、力がない奴はこうなる運命なのか。
「ひとつ、聞いてもいいか?」
「いいですよ、お答えできる範囲でお答えします。」
「記憶や人格は引き継がれるとして、言葉はどうなんだ?異世界なら言葉は違うんだろ?」
「それでしたらご心配には及びません。翻訳スキルは標準装備ですから。」
「翻訳スキル?」
急にゲーム感バリバリのワードが出てきたけど、これはそういうことなのか?
「もしかして、俺が行く異世界ってゲームの世界だったりするのか?」
「いえ、違いますよ。ただ、あなたにはあなたの世界で言うコンピューターゲーム的なシステムを適用できるようになっているだけです。」
「それはどうして?」
「理由はお答え致しかねますが、あなたには翻訳スキル以外にも、様々なスキルを
与えられたスキルポイントを消費して獲得することができます。」
なるほどね、普通ならテンション上がるところなんだろうけど・・・。
「正直俺は異世界に行っても別に勇者とか英雄とかにはなりたくないんだわ。チートスキルで無双するのも女を侍らすのも興味ない。」
「無欲なんですね。」
「そうじゃない、むしろ俺は欲望の塊だ。俺の望みは怠惰にダラダラと生き続けること。それ以上の贅沢は無いと思ってる。」
「でしたら、むしろスキルは必要なのではないですか?異世界でも力さえあれば人生どうにでもなりますよ。あなたの言うような暮らしも実現できましょう。」
「そうかもな。でもそれも死ねば終わりだ。」
「なるほど、そういうことですか。それならば少々バランスは悪くなりますが不死性に特化したスキル構成にすれば―――」
「違うんだ。俺が言ってるのは。俺が欲しいのは死なない力じゃなくて、何があっても生き続けられる力だ。それさえあれば他には何もいらない。」
いくらかの沈黙ののち、その声は答えた。
「分かりました。では、スキルポイントを全て消費することになりますが、あなたの頭の中にある望み通りのスキルを授けましょう。」
「いいのか?」
「ええ。ただし後から変更することは不可能ですよ。」
「上等だ。」
「了解しました。それでは失礼いたします。」
それがことの始まり。
そこで俺の意識は途切れ、次に気が付いた時には俺は最初の異世界に居た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「良かった!生きてる!アルベルト!ねえアルベルト!」
アルベルト・・・?誰だアルベルトって。というか、ここはどこだ?
まだ意識がぼやけている。俺はどうなった?
そうだ、あの声の話が本当なら、俺は転生したんだ。異世界に。
まずは周囲の状況を確認する。
草と、すこし湿った土のにおいがする。
視界は一面の青、雲一つなく晴れ渡った空。
手足に力を込めると違和感も問題もなく動かせる。
五体満足。
俺は草原の上で仰向けに倒れていた。
腕を持ち上げて太陽に手を伸ばすと自然と言葉が漏れた。
「生き・・・てる・・・。」
口をついて出てきたのは日本語ではなかった、だが思考は間違いなく日本語で行っている。これは翻訳スキルとかいうやつが働いているためなのだろう。
「ねえ大丈夫よね?」
少女が急いで駆け寄ってきて俺の顔を覗き込んだ。
二人の目と目が合う。
その瞬間、俺ははっと息をのんだ。
「綺麗だ・・・。」
その少女はとても美しかった、年頃は十代半ばといったところか、光沢のある艶やかな銀髪が風になびいてきらきらと輝き
ぱっちりとした大きな眼の中で揺れる瞳はルビーのように赤く透き通って俺の顔を反射していた。
「は?何て言ったの?大丈夫?頭を打ったようだったけど?」
「頭を打った?」
「そうよ、覚えてないの?私がまだ地面が乾ききってないから危ないって止めたのも聞かずに、馬に乗って走り出してさ。案の定、馬が足を滑らせてバランスを崩して落っこちたんじゃない。」
なるほど、そういう状況か。
俺、いや、この肉体の持ち主は走る馬から落ちた。
そして、頭を打って死んだ、はずだった。
そこに俺の意識、いや魂が乗り移って蘇ったんだ。
多分この転生は瀕死の人間、本来死ぬべき運命だったはずの人間を依り代にしているんだな。
上手く言葉で説明はできないが、俺の中の直感がそれを確信させていた。
転生と言っても絶対に赤ん坊の時点から始まるというわけではなく、こうやって誰かに成り代わるパターンも起こるということか。
「何よ?黙っちゃって。まだ頭がぼんやりしてるの?でも、そうよね。あれだけ激しく転んだのだものね。そうだわ!ちゃんとお医者様に診てもらわなきゃ!」
少女は俺を抱き起こそうと腕を伸ばしてきた。
俺は別にされるがままに身を任せても良かったのだが、なんだか後ろめたいような気持ちと気恥ずかしさを覚えて先を取ってすっくと立ちあがった。
少女の腕は行き場を失って虚しく空を切る。
「あれ?何?平気なの?」
立ち上がってみるとなんだか視線が高い。
この肉体は元々の俺よりも少し背が高いらしい。
そこで俺は改めてまじまじと自分の身なりを確認してみた。
髪の毛は明るい茶色。
髪型はやや長めで片方のもみあげ?だけ伸ばして髪留めで括っている。
服装は乗馬用に動きやすさを重視しつつも襟や袖などところどころに格式高い感じの意匠があしらわれていて、身分の高さを感じさせる。
手足はすらっと伸びていてスタイルが良い。全身に程よく筋肉がついていて無駄のない引き締まった体をしている。触った感じでは鼻も高いし、多分顔も整っているだろう。
以前の俺とは似ても似つかないし、完璧すぎてちょっとむかついたが、転生先としては文句のつけようもない当たりを引いたらしい。
「あのー?もしもーし?」
さっきから軽く無視されている格好の少女は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
そろそろ何か反応しないといけないが、どうしたものか。
翻訳スキルのおかげで言葉は分かるが、この肉体の持ち主の記憶はどうもこの頭の中にはないらしい。
となると、転生に関してはまだ伏せておくしかない俺は記憶喪失の状態にあるということになる。
これは少々厄介だ。
だが、まあ仕方ない。一抹の不安はあるが、ここはやはり記憶喪失という設定で行くしかないないだろう。
「あー、急なことで悪いけど、落ち着いて聞いてほしい。」
「何よ改まって。まさか、頭を打ったせいで記憶が飛んだとでも言うつもり?」
「そのまさかだ。俺には君との関係どころか、自分の名前すらも分からない。完全に何も記憶がない・・・。」
「あらやだ。そうなの?」
俺の予想に反して少女は全く取り乱したりすることもなく冷静だった。
いや、これは冷静を通り越して、自分と全く無関係の何かを見るような・・・、
そんなものすごく冷やかな目だ。
「それが本当なら、あなたは、いいえ、ゴーベルスタイン家は終わったわね。」
そう言うと少女は口の端を歪めてニヤリと笑った。
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