第5話 最低の屑野郎
◇◇◇
「話とはなんだエリーゼ。ミルキィが待ってるから早くしてくれないか」
イライラとした態度を隠そうともしないアルバートを前に、エリーゼは考えあぐねていた。
(どうしよう。勢いのまま庭園にアルバート様を連れてきてしまったけど。別れ話ってどうやって切り出せばいいの)
やはり、家に帰ってから手紙を送れば良かったとすでに後悔している。
アルバートとの婚約を破棄したいということは、数カ月前から父に打診していた。今日のアルバートのエリーゼに対する振る舞いを聞けば、父もすぐに婚約破棄の提案を受け入れてくれるだろう。政略結婚とはいえ、アルバートは格下の侯爵家。何よりも公爵家の権威を重んじる父は激怒するに違いない。
(殿下にはああいったけど。本当はただ私に、別れを切り出す勇気がなかっただけ)
赤みがかった癖のある金髪に、そばかすの残る顔。冷たいアクアマリンの瞳も、こうしてみるとガイル殿下とは少しも似ていない。
「アルバート様、今までごめんなさい。私が悪かったわ」
最初に口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。
「……はあ?なんだよ、藪から棒に」
「最初に、謝っておきたくて」
てっきり罵倒されると思っていたアルバートは、ばつの悪そうな顔をしている。
「私たちの婚約は解消しましょう。今まで縛り付けてごめんなさい。アルバート様は、アルバート様の愛する方と結婚してください」
エリーゼの言葉にぽかんと口を開けるアルバート。
「婚約破棄に関する詳しい取り決めは、後日両家で相談して貰いましょう。では、ごきげんよう」
ちゃんと言えた。エリーゼはほっと胸を撫でおろし、くるりと踵を返した。しかし、
「……おいっ!待てよ!いきなり婚約破棄なんてどういうことだよ!」
「痛っ!」
強く腕を引っ張られ、思わずよろけてしまう。
しかし、顔をしかめるエリーゼに気付くことなく、なおもアルバートはエリーゼを責めたてる。
「俺がほかの女と一緒にいたから嫉妬してるのか!?ったく、お前も高位貴族の娘なら、貴族の男がどんなもんか知ってるだろ?男のちょっとしたお遊びなんて、見て見ぬふりをするのがマナーだ」
「ちょっとした……遊び……」
アルバートの言葉にショックを受けるエリーゼ。
「ああ、あんな女ただの遊びだ。決まってるだろう?公爵令嬢であるお前からみたら、取るに足りない女だ。俺だってそのぐらいわきまえてる。遊び相手にお前のプライドを傷つけるような女は選ばない」
(この人は、一体何をいってるんだろう……)
「……あの方に、口付けをしているのを見ました……未婚の令嬢にあのようなふるまい、紳士として、きちんと責任を取るべきでは……」
喉の奥が張り付いたようにうまく声が出せない。
「はあ?新興男爵家の娘なんか、この俺が本気で相手にすると思うか?ちょっとからかってやっただけだ。お前が不快に思うならあいつとはもう手を切ってもいい」
そういうと、アルバートはエリーゼをつかんだ腕ごと強引に引き寄せる。
「やっ、離しっ……」
「お前は俺の妻になる女だろう?くだらないことに目くじらを立てていないで、とびきり綺麗に飾り立てて、可愛いお人形のようにただ幸せそうに微笑んでいればいいんだよ」
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