第2話 人生で初めての挫折
◇◇◇
思えば数カ月前。アルバートの生家であるビリブ侯爵家主催のパーティーで、酔ったアルバートが友人たちに愚痴をこぼす現場にたまたま居合わせたのがいけなかった。
会場からアルバートの姿が見えなくなったので探しに出たところ、友人たちと庭園で話しているアルバートを見つけた。声をかけようとしたが、ふいに自分の話題になったのでとっさに近くの植え込みに隠れてしまったのだ。
もしそのとき話しかけていれば、あのような本音を聞くこともなかっただろうに。
友人たちは最初、しきりにアルバートの婚約者であるエリーゼを褒めてくれているようだった。
「アルバートはいいよな。エリーゼ様のように非の打ちどころのない完璧な令嬢と婚約できて。王国一の大貴族、レナード公爵令嬢である上に貴族学園の生徒会長も務める才女でいらっしゃる。気さくな方で下級生にも分け隔てなくお優しいしな。それにあのお姿!まるで女神のような美しさじゃないか。神秘的なアメジストの瞳に見つめられてみろ、どんな男でも一瞬で虜になるだろうな」
「本当に。俺はあの絹のように美しい黒髪が好きだな。一度でいいから手に取って口付けしてみたい」
「何を言う、あの細腰はどうだ。抱きしめたら折れそうなほどだ。凛として誇り高いのに、女性らしく小さくて華奢なところがたまらないな」
色を含んだ男たちの言葉に思わず赤面するエリーゼ。だが、友人たちの軽口に、アルバートだけは顔をしかめて見せた。
「ああ?何を言っている。女の魅力はそんなもんじゃない。女が賢くったって小賢しいだけだろ。多少頭が弱いぐらいのほうが可愛げがあるってもんだ。それにエリーゼは大貴族の令嬢だけあって気が強いしな。真っ黒な髪も薄気味悪いし、紫の瞳も魔女みたいだ。顔立ちが整い過ぎて、出来過ぎた人形みたいだろ?しかもあいつ、貧乳なんだぜ?」
そういってゲラゲラと笑い出したアルバートの姿に、エリーゼは植込みの影で固まってしまった。
(薄気味悪い、魔女、人形……ヒンニュウ?……ヒンニュウとは一体……)
聞いたことのない言葉が頭の中をぐるぐると駆け回る。
「ははっ!お前は本当に乳のことしか考えてないなっ!」
「何を言う、お前だって好きだろう?知ってるんだぞ。バイト男爵家の娘をこの間熱心に口説いてただろう?あの令嬢、顔はパッとしないが乳の大きさだけは素晴らしかったからな」
「おいおい、それだけじゃないぞ。まあ、彼女の胸の豊かさが素晴らしいことだけは否定しないがね」
「そらみろ!」
すっかり女性の胸の話題で盛り上がる男たち。あの令嬢の胸がエロい。あのご婦人の胸が凄い。もはや、胸以外はどうでもいいとさえ言える雰囲気だった。
(殿方は、なんだかんだ胸の大きな女性が好き)
その情報は、エリーゼの脳裏にしっかりと刻み付けられた。
「とにかく俺は胸の豊かな女が好きなんだよ。大きければ大きいほど癒されるんだ。なんなら巨乳の女の胸に一日中埋まっていたいほどだ。胸の貧しい女には興味がないね。まあ、このまま結婚したとしても、エリーゼの胸じゃあこの俺の気持ちは満たされないだろうな」
(ヒンニュウ……貧乳!)
エリーゼの体に衝撃が走った。それは、今まで体験したことのなかった感情。人生で初めて知る挫折の味だった。
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