第4話 私にとって相楽祥平とは
「さむ……」
最近は朝起きると部屋が冷え切っているため寒くて仕方がない。枕元にあるリモコンを手に取りエアコンの電源を入れる。そして充電器に差し込まれたままのスマホを手に取ってSNSを確認すると、なんだか朝からSNSがにぎやかだ。
なにがあったんだろう、と思いつつ理由を探るとそこには私の推しである相楽祥平が女の子とデートしている姿が週刊誌に撮られていた!
「へ、は、なにこれ」
いやいや、相楽くんに限ってそんなことあるわけないと思い、彼が所属している芸能プロダクションのホームページを覗いてみる。するとそこには否定の言葉どころか「プライベートなことは個人に任せている」という記述があった。つまり、あの写真と記事は本当ということだ。
嘘でしょう、とつぶやきながら思わずスマホをベッドの上に放り投げて呆然とする。相楽くんが女の子とデート。そんなことあり得るはずがないと思っていた。だってゲームではモブ以外の女の子なんか出てこないから、そんなことおこりえなかったのだ。
でも、彼の年齢を考えるとおかしなことでもないということに気が付いてしまった。だって彼はもう22歳だ、特定の女の子とお付き合いをしていても何も問題はないどころかごく普通のこと。
いやでも私の好きな相楽君には女の子の影なんて微塵もなくて、とそこまで考えた瞬間、ずっとずっと私の中に抱えていたもやもやがはじけ飛んだ。
「私って、本当に今の相楽くんのことが好きなのかな」
そう、だって私が好きな相楽君は2次元アイドルで歳をとることはなく女の子の影もない、いつまでもそこで夢を与えてくれる存在だ。でも今の彼は?歳はとるし恋愛だってする3次元のアイドルだ。いままでの彼とは違う。
私の好きな彼っていったい何だっけ。そんなことを考えながらベッドから出てテレビをつけてみる。テレビでも騒がれているのかな、と思ったが彼が所属している事務所がまだそこまで大きくないためか短いニュースとして軽く取り上げられて終わった。
頭の中をぐるぐるとさせながら、とにかく一度頭をすっきりさせるために顔を洗う。ポットでお湯を沸かしている間暇なためスマホに入っている音楽を適当に開くと、相楽たちのユニットが歌っている曲が流れてきた。
なつかしい、そういえば『月の輝きを胸に』は私が20歳だったころ友達に強く勧められて始めたのがきっかけだったな。最初は2次元アイドルゲームって何? って感じで始めたのにストーリーが面白くて、歌がかっこよくて、そしていつの間にか彼らの歌に励まされている自分がいた。
そこから相楽くんに出会って彼の辛い過去を知り、そして歌を聞いた時にはすっかり彼を推していた。そうして少しずつアプリを開いて毎日ログインしたりCDを買うようになり、そうして私の日常に彼らがいることが普通になっていたのだ。
そうだ、私が好きになったのは別に彼が2次元という存在だからじゃないはずだ。でも、まだ私は自分の気持ちが不透明なことが嫌になり、適当に着替えメイクをしてある場所へ向かった。
「あった、よかった。ここのPOPいつみても素敵だよね」
そこには今日リリースされる曲のCDがずらりと並んでいた。周りには店員さんが書いたであろう可愛らしいPOPが飾られている。このCDショップは彼らが所属している事務所アイドルのPOPをよく作っているからもしかして、と思ったけれどやっぱりもう作ってあったんだ。
普段なら彼らを応援する人たちがこのPOPを見に来るのだけれど、やはりあの騒動があったせいなのかお客さんは少ない。この場所は私が異世界転送してから見つけたCDショップで、彼らのことを強く推している数少ない店だ。ここにきて同じく相楽くんを推している人と話ができたら、と思ったんだけれどちょっと難しそうだ。
せめてこの素敵なPOPだけでも写真に撮って帰ろう、と思い店員さんに写真撮影の許可をいただこうと話しかける。
「すみません、こちら写真に撮ってもいいですか? すごく素敵なので。あ、SNSとかには上げたりしません」
「いいですよ、そう言っていただけるとこちらも作ったかいがあります。それにしてもせっかくのリリース日なのにあんなニュースが流れるなんて……。売り上げに影響が出ないといいけれど」
そう言葉を口にする店員さんに思わずなんて返したらいいかわからず、ありがとうございますとだけ言って写真を撮るためにスマホを構えた。ここからだとちょっと近すぎて全体が入らないからもう少し後ろに下がらないと……。
スマホを見ながらゆっくり少しずつ後ろに下がったら、トンっと誰かにぶつかってしまった。しまった、写真を撮るのに夢中で周りを気にしていなかった! 慌てて後ろを振り返り謝罪をしようとすると、そこには帽子をかぶって眼鏡をしている人がいる。どうやらその人は変装しているようであったが、私にはすぐ誰だかわかった。
相楽祥平だ。突然の出来事に私は何と言ったらいいかわからず、一瞬言葉に詰まってしまったが、そのあと無意識のうちにある言葉を口にしていた。それは謝罪の言葉でも彼女ができたのかという質問でもなく、私の本心が口からあふれ出したのだ。
「これから何があっても、私は貴方のファンです!」
その言葉を聞いた瞬間、相楽くんは一瞬泣きそうな顔をした後すこしだけ顔をほころばせてこう一言言って去っていった。
「ありがとう、俺はこれからもステージで歌い続けるよ」
私は彼の去っていく姿を見ながら先ほど出た言葉が私の本心なのだと気が付いた。そうだ、私は彼の歌に、演技に、そして努力する姿に惹かれて応援したくなったのだ。そこに2次元とか3次元とか関係ない。
家に帰ると神様が勝手に私のソファに座ってくつろいでいた。
「おうおかえり。今日は6か月アンケートを取りに来たぞ、どうじゃこの世界は」
9月のときはもやもやした気持ちがあってはっきりとは言えなかった。でも今なら自分の気持ちをしっかり伝えられる。私は神様の目を見ながらこう言い切った。
「最高だよ」
その私の言葉に神様は面白そうに笑った後、それは良かったと言って帰っていった。相変わらず聞くだけ聞いて帰っていくんだな、なんて思いながらも先ほど口にしたことでより一層強く思うことができた。
この世界は、相楽祥平は最高なのだ。
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