第34話
「人を疑うこと、嫌いなんですよ俺」
ミズキの言葉に、するりとそんな言葉がウカノの口から漏れた。
「だから、ライドの事は信じてるし好きです」
行動が弟に似てるから、とは言わなかった。
「ライドさん、というんですねぇ」
なんて、ミズキはやはりメモを取りながら言ってくる。
その横でコウは、ウカノの頭の中を見透かすような目で見つめてくる。
そして、
「じゃあ、私からも質問だ。
ウカノ少年、仮にそのライド君とやらが裏切っていた場合、どうするつもりだ?」
「どうする、とは?」
「君にとっては敵だろう?」
ウカノは真っ直ぐにコウを見返した。
その脳裏に浮かぶのは、あの日の光景だ。
彼が家族を失ったあの日の景色だ。
その景色を、光景を噛み締める。
この時のウカノの表情を一言で表すなら、鬼であった。
悪鬼羅刹もかくやという、顔をしていた。
憎悪で歪んで、その歪みを消そうと笑みがはりついていて、とても不気味な表情となっていた。
「時間が元に戻ったとはいえ、家族を殺したヤツを許せるほど、俺は人間が出来ていないんですよ。
だから、八つ裂きくらいはするでしょうね」
それが、答えだ。
信じている。
ライドのことは、それなりに信じている。
でも、彼が敵側なら容赦はしない。
だってウカノの家族に手を出したのだから。
その仲間だというなら、きっとウカノは躊躇わずライドを殺すだろう。
無かったことになったとはいえ、ウカノにとっては家族を殺されたことは許されることではなかったのだ。
だから、相応の報いを受けさせるつもりだ。
「俺はね、コウさん。
家族が、好きなんですよ。
一番下の弟なんて、まだ生まれたばっかりの赤ちゃんなんです。
俺は、そんな弟達の未来が見たいんですよ。
成長して、もしかしたら俺と違って村の外に出て色んなことを学んで知っていくかもしれない。
だから、その未来を奪ったヤツ、奪おうとするヤツはただじゃおかない」
そんなことを口にするウカノへ、話を振ったコウは苦笑した。
「……覚悟ガンギマリ過ぎてて、気持ちが悪いな」
続いて、ミズキも、
「愛が重いですねぇ」
なんて言ってくる。
ドン引きしていないのは、この異常事態に巻き込まれたからかもしれない。
「でも、迷いが無いのはいい事かもしれませんね。
心が折れないのは、この状況下では強みです」
「まぁ、これは可能性の話で本当に同居人が裏切ってるかはわからないからなぁ。
裏切っていないかもしれないし」
「とりあえず、今の話もアエリカさん達にしておきますね」
「了解しました。
よろしくお願いします」
そうして、通信は終わった。
ミズキとコウの姿が消える。
部屋に静寂が戻る。
「裏切り、ねぇ」
別に裏切られたところで、ショックだろうが痛くも痒くもない。
なぜなら、全てが終わったらこの時間さえも無かったことになるのだから。
ウカノは、そうエステル達に言われているのだ。
この世界の破滅を食い止めることができたなら、なにもかも元に戻るのだ。
ここで過ごした時間もなにもかもが、無かったことになる。
ウカノの記憶は残るらしいが、ウカノ以外の者からは過ごした時間の記憶は無くなる。
そういうものらしい。
そして、それでいいとウカノは考えていた。
「異物でしかないからなぁ、俺」
そして何よりも、先程ミズキ達へ言ったようにウカノにとって大切なのは家族なのだ。
弟と妹達なのだ。
家族の為ならいくらでもこの手を血で染めるし、命だって捨てる、なんなら地獄にだって落ちる覚悟がある。
「あはは、たしかに重いや」
そう呟いた時、眠気がやってきた。
そろそろ眠った方がいいだろう。
ウカノは、ベッドへと寝転がり瞳を閉じた。
そして、また朝がやってくる。
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