第33話
ウカノの表情が青くなり、固まった。
それを、ミズキとコウは見逃さない。
「あれ?」
「おや、この反応は……」
「もしかして、思い当たる節でもあるんですか?」
「あ、あー、いや、その」
返答に困ってしまう。
今しがたミズキが指摘したことについて、たった1人思い浮かぶ人物があったのだ。
ドクン、ドクン、とウカノの心臓が嫌な音を立て続ける。
「報連相は大事だぞ、少年」
「それは、そう、ですけど」
「なんだ、言いたくないのか?」
「いや、えっと、まさかなぁって思ってて」
言葉がしどろもどろになる。
その様子を観察していたミズキが言ってくる。
「一緒に住んでる人がいて、なんならその人が今言った条件にピタッとハマったってことでいいですか?」
「まぁ、うん、そうなる、のかな??」
ライドの顔が浮かぶ。
彼のことを話すべきか迷う。
裏切り者の条件にはピタリと当てはまっている。
しかし、彼にそれが出来るのか、という疑問がある。
ミズキが見透かすように、そして神々からの神託を伝える巫女のように、こういった。
「ウカノさんって、人を信じやすいタイプですか?」
「へ?なんで??」
「どうなんですか?」
「えー?うーん??
まぁ、そうかなぁ??」
なお、クソ親父は除く。
クソ親父に関しては、なにも信じていない。
「それじゃあ、今まで裏切られた経験はありますか?」
「まぁ、うん。父親によく騙された」
「お父さん、ですか。
仲はよろしくなさそうですね。
そうではなくて、仲がいい人、友達とか、たとえば心の底から信じていた人達に裏切られた経験はありますか?」
「無い、かなぁ?
こんなことになるまで、俺、村から出たこと無かったし」
なにしろ、モンスター退治ですら村の連中で連携してやってたのだ。
信じなければ、命を落とすことになる。
「そもそも、友達がいなかったから」
「幼なじみとかは?」
「いない。というか。
俺が生まれた時に流行病があって。
流行病で俺と同い年の赤ん坊が全滅したらしい。
俺だけが生き残ったんだときいた」
その翌年、つまり次男が生まれた年からその流行病の予防接種が実施された。
それで赤ん坊が命を落とすことがなくなったらしい。
「なるほど。
では、ウカノさんより上の世代は?
ウカノさんにとっての、近所のお兄さんお姉さんはいないんですか?
信頼出来る人という意味でのお兄さんお姉さんです」
「それは」
いた。
いるにはいた。
でも、今から数年前にスタンピードが起きて、その対処に駆り出され、街の連中を守るための捨て駒にされ、半数が死んでしまったのである。
そして、その事実は秘匿された。
そのことを知ったのは、こんな状況に巻き込まれてからだ。
「中々にウカノ少年のこれまでも悲惨だなぁ」
コウが口を挟んだ。
「まぁ、仕方ないですよ。
俺たちは、お国の偉い人たちからすれば数字でしかないですから」
「でも、これからお国の偉い人達になるだろう子供を救おうとしてるわけだ。
割に合わなさすぎるな」
「それでも、弟や妹たちを救うにはこれしか今の所方法がないみたいですから」
そんな二人の会話のやりとりが終わるのを待って、ミズキが言った。
「とりあえず、わたしが言いたいのはですね。
誰かを信じられる人、信じる人の心を1番傷つけるには、信じていたヒトの心をへし折るのが最良ということです。
心をへし折られると、そのまま身体まで症状が出ますから。
外からダメなら内側から、理論です。
話を聞いてウカノさんの場合、家族、それも兄弟姉妹からの裏切りが一番精神的に来そうだなと思ったんです。
ウカノさん、気づいてますか?
あなた、今一緒に住んでる人が疑わしいって話題になった直後に動揺して、さらにその疑いを振り払おうと、何度も首を横に振る動作をしてるんですよ」
「ウカノ少年は、顔や態度に感情が出やすいタイプなのだろうな」
「それで、再度お聞きします。
ウカノさん、一緒に住んでる人の事、
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