ツンデレを自覚しているウルトラレア美少女が超火力で攻めてくるので、流石の俺も白旗を上げ……ない!!

ぱんまつり

第1話 学園一の美少女には”何か”ある

「ちっ」

「ち?」

「ちっちち、近寄らないでくさい!!!!!」


 風邪気味でやや体調が悪く、久しぶりに部活無しでの帰宅に少々の開放感を噛み締めているところ──校門を出た途端、出鼻を挫かれた。


「……あ〜、ごめん。ちょっと気ぃ抜けてた。怪我はない?」


 身長168cmほどの俺より頭一つ分くらい低い、重すぎる前髪で表情が見えづらい女の子が目の前でわなわなと肩を震わせている。

 一発で分かる、これは怒りの感情だ。


「けっけけ怪我なんて……ない、です! 馬鹿にしないでください!!!」

「……!?」


 困った、親の仇を前にするような剣幕で唐突に捲し立てられている。


 俺、そんなに悪いことしただろうか?

 電光石火の如し舌打ちといい、紅潮しまくった頬といい、今にも泣きそうな声色といい……やべえよマジで。

 

 俺だって来年高校デビューする受験生なんだ。

 わけわからん噂でも流されてみろ、一巻の終わりだぞ。


 さあ、明石正人あかしまさと、こんな時こそ落ち着いて行動するのだ。


「スゥー、こほん。いいっ、」

 

 やべ、噛んだ。


「──一旦、場所を移そうか。ここはちょっと、ね」


 まず、場所がまずい。

 ただ、時間に救われた。

 幸いなことに、今は部活動の時間帯だから目撃者はいない。

 まだまだ軌道修正は可能だ。


 だがしかし、こんなのは俺の都合だ。


「ばっ、ばば場所!? まさとくん、それは流石にっっっ!!??」


 全くもってダイナミックな解釈である。

 風邪気味の俺を校門に縛りつけた女の子は「きゃー!」という、ここまでで一番まとも(?)なリアクションを見せて、跳ねるように逃げ去っていく。


「…………」


 なんだったんだ?

 まあ、いつもと違う時間帯だし、突然の嵐に見舞われることくらいあるか。


「帰って寝よ」


 それにしてもなんかあった気がするな。

 もやもやする……まあ、よく分かんないから、まあいいか。


 頭いてー、マジで。

 


=====================



「──────かし、授業中に寝るな!」

「ふぁいィッ!?」


 やっちまったー。

 一年前の出来事を夢に見るくらいにしっかり寝てしまった!


 県総体も近くあり、練習も追い込みの時期になってきているからだろうな。最近は授業中にまで睡魔がやってきてしまう。


「すみません──!!」


 がたっと立ち上がり、会釈気味に数度頭を上げると数学の先生は「ったく、もぐら叩きをしてるんじゃないんだぞ」と茶化してくれた。

 この時期になると、どいつもこいつもガックンガックン前後運動を始めるから先生としては溜まったもんじゃないだろう。


 寝てしまった分は、残りの態度で示す。

 何にせよ良くも悪くも日常の光景だ。



「──次の授業までに、しっかり課題終わらせておくようにー!」


 授業が終わると教室が遊園地のように騒がしくなる。

 俺は授業を終えて早々テンション爆上げできるタイプじゃないので、教科書等々を片づけてから友達の輪に参戦するのがいつものルーティンなのだが……今日のところはそうも行かなくなる。


「まーーーーっさと! 次は体育だぜ!? しかも陸上!!」


 中学からの友達の太一たいちが物凄い勢いで腕を引っ張ってくる。


「いてえよ」

「うるせえ! 俺たちは真剣なんだよ!!」

「はあ? キャッチボールしようぜ、会話の」


 俺の意志には関係なく、野郎ども数人の大移動が始まる。

 理由はそう……だ。

 今の俺の、働かない頭でも分かる。


「なぁに言ってんだ? ハートで交信してるんだから言葉なんていらねえよ」


 いつの間にか校庭全体が見渡せる『最強の窓』に到着してしまう。

 俺は無理矢理窓ガラスに顔面を押さえつけられて、窓の外を強制的に視認させられる。


「うおお!! 来たぞぉ!!!」


 野太い歓声がそこら中から湧き上がる。

 まるでライブ会場のような──アイドルが登壇してきた時にブチ上がるオタクのような。


 みんなが見てるのはそう、校庭に集まる体操着姿の女子──の中で一際輝きを放つ三輪美波みわみなみという子だ。


 一人の女子を目当てに男子が群がる光景は側から見ればすげえ気色悪いが、少しだけ擁護はしたい。俺も参加しているからな。

 彼女は学校一の美少女と噂されほどの美貌の持ち主なのだが、それは体育の授業限定なのだ。

 なにしろ髪がめちゃ長く、普段の学校生活では半分くらい目が隠れているから、人形みたいに綺麗な顔もその表情も完全には窺い知れない。


 だがしかし、体育の授業の──それも、陸上限定で時々、風により前髪が吹き飛び顔がフルオープンになる!

 ウチの高校では陸上シーズンは一年で一ヶ月半くらいしかないからレア──いや、ウルトラレアなのだ!!


 ウルトラレアだからガン見しても、良い……わけないから、俺はいつでも賠償請求されても対応できるようバイトは欠かしていない。


「ヤッベ、バレた! すっげえ睨まれた!!」


 脊髄反射でしゃがみ込んで身を隠す。

 ストレッチ中の三輪さんが明らかにこっちを睨め付けてきたのだ。


 まあ、当たり前の反応だし、いつも通りなのだが。


 そして、バレたしそろそろ授業が始まるので撤収するのもいつも通り。

 俺たちの日常だ。



 で──しばらくして非日常が訪れる。


「あの、何のつもりかは分かりませんが──とりあえずキモい、ですよ」


 なぜか毎回放課後三輪さんに呼び出されて罵倒されるのだ。


 ──それも、なぜか前髪を上げた完全体フルパワーの三輪さんに。


 

 くっそ、間近で見るととんでもない破壊力だ。



「……」

「何も言い返せないのですか? もし、訴えられでもしたら絶対に勝てませんよ」


 何も言い返せねえよ。

 あいつらは悪いが、止められない俺も悪いんだ。

 まとめて俺たちを……


「豚箱にでもぶち込んでくれぇ!」

「へぁ!?」


 振り切れてしまったのだろう。

 イカれてしまったのだろう。

 精神世界との境界線があやふやになってしまった。


 俺は項垂れて、前のめりに倒れ込んで柔らかいものに突撃する。


 ああ多分これは胸なのだと、ひどく冷静なもう一人の自分が分析した。


「ばっ、ばばばばかぁ!!」


 往復ビンタで両頬が熱くなる。

 あ、これ暴行罪じゃね。

 あ、正当防衛か。


「……気は、済んだかい?」

「はぁ、はぁ……ぜんっぜん。でも──」


 前置きし、三輪さんが懐から一枚の用紙を差し出してくる。


 それは──


「にゅうぶ……入部届け? こんな時期に?」


 陸上部の入部届けだった。


 わりとマジで意味がわからなかったけれど、顔を桜色に染め、もじもじくねくねさせる三輪さんを見てあると──それだけは確信した。


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